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起きたので、乳母と朝の交流をする


私はとても悔しい想いをしていた気がする。

理不尽な世界に、嫌気がさしていた気がする。

誰も『私』を見てくれなかったから。

私の表面に見える、私以外の何かを通して、私を見ていたような気がするから。




「……」

マリアは目を覚ました。上体をゆっくり起き上がらせる。毛布がぱさりと足元に落ちる。窓からは日の光が差し込んでいる。朝が来たのだ。

マリアはベッドから出ると、大きく伸びをした。身体はあまり痛くない。昨晩キャナリから貰った薬用パプリの効果だった。非常に高い効果を発揮してくれる。

コンコン、と部屋の扉がノックされた。

「はい」

「おはようございますマリア様。キャナリです」

「おはようキャナリ。入っていいわよ」

「失礼します」

キャナリは扉を開けると、マリアの部屋に入ってくる。彼女はとっくに起きていたのだろう。髪も丁寧に整っており、服もしっかり着こなしている。マリアは、普段と変わらないキャナリの姿に安堵する。

「キャナリ、早起きね」

「マリア様のお世話が、私の本来の仕事ですから」

キャナリは当然のことのように答えた。朝からハキハキした口調だ。

「私のするはずだった仕事は…」

「昨晩終わらせました。私に出来る分に限りますが」

キャナリは言いながら、マリアの身支度を整えていく。櫛とモザールを使い、マリアの縺れた髪を梳いていく。声は平坦だが、キャナリの手つきは優しく、暖かかった。

「朝食を用意しております。着替えたらお召し上がりください」

「ありがとう。…昨日の朝食もキャナリが作ったのかしら?」

「はい。お口に合いましたか?」

「勿論。とても美味しかったわ」

「そうですか。それは何よりです」

キャナリはマリアの返答を聞いてかすかに微笑んだ。キャナリの笑顔に、マリアもつられて微笑む。朝特有の気だるげな空気は、いつの間にか和やかな空気に変わっていた。

「髪、整えました。着替えましょうか。マリア様」

「ありがとうキャナリ。でも着替えは待ってくれるかしら」

「なぜです?」

マリアは、キャナリの死角になっているベッドの床に近づくと、床に向かって声をかけた。

「着替えるから出て行ってちょうだい」

「むに…まりあおはよぉ」

床に寝そべるシンクは、むにゃむにゃ言いながら立ち上がる。寝起きだが、かろうじてマリアの発言を理解できたのだろう。シンクはふらふら歩いて、マリアの部屋から出て行った。

「シンクもいたのですね。彼も相変わらずですね」

「昨晩気づいたら私のベッドの下で寝そべっていたの」

キャナリは、マリアがベッドに潜り込んできたシンクを蹴飛ばしたのだと瞬時に理解した。

「マリア様の防衛本能は流石ですね」

「でしょう?シンクにしか働かないけど」

「今日の実務でみっちり鍛えますのでご安心ください」

マリアは苦笑いを浮かべた。考えたくないことだったのだ。キャナリはマリアの服を着せながら、ベッド下の床に視線をやって、あることに気づき小さく笑った。

「どうしたのキャナリ」

「いいえ。何でもありません。腕、上げてくれますか」

「ええ。それにしても変わった構造の服よねぇ…私の服」

ぶつぶつ呟くマリア。キャナリはマリアの背後に回り、止め具をつけていく。

先ほどまでシンクが寝ていたところには、柔らかい毛布が放置されていた。


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