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ついに衝突


「案外明るいわね」

遺跡の中を進み、マリアは正直な感想を漏らした。その声は小さく反響した。

ネーベルの遺跡は、整備が行き届いているのか歩きやすく、埃臭くない。壁にはランプのような物が吊り下げており光を灯している。おかげで先は見えるし足元の段差に躓くこともない。順調に先に進むことができた。

「魔法を使って明かりを灯しているんだな…」

アイグルは興味深そうに遺跡内部を眺める。初めて入る場所に密かに興奮していた。一方、キャナリは周囲を警戒していた。槍に手を添え、集団の後ろを守る。

「今のところ人の気配はしませんね」

4人は真っ直ぐ前に進む。今歩いているのは廊下だろうか。細長い道が一直線に伸びている。ひたすら歩いているとやがて開けた空間に出た。

「わ…」

シンクは、駆け出し、ようやく迎えた広々とした空間に安心したように息をついた。マリアを呼ぼうと体をひねらせ、

「マリ、」

言葉を途切らせた。シンクの目の前に、無数のナイフが浮かんでいた。刃はシンクを睨んでいた。

「…え」

瞬きの間に闇が襲ってきたかのような突然すぎる不意打ちに、マリアの背筋がゾッと凍った。

「シンク!!」

マリアの叫びと、ナイフが静かに傾くのと、マリアの横を何かが高速で移動したのは同時だった。

「どいて!」

高く鋭い声が遺跡に響く。キャナリは槍の柄でシンクの肩を思い切り弾き飛ばし、間髪入れずその鋭い切っ先を左右に素早く振った。ナイフは槍に激突し跳ね返され床に落下する。カラカラと乾いた音を立て、ナイフはキャナリの足元に転がる。

あまりに突然の出来事だった。キャナリは細い肩を上下に揺らし、シンクは床にうずくまっている。

キャナリがシンクを謎の襲撃から守ったと気づくのに、マリアは時間を要した。

「キャナリ、シンク!」

乾いた口からそんな叫び声が出てきた。気づけばアイグルはキャナリの元へ駆け、ある一点を見つめていた。

「…出たな」

低い声でアイグルは唸る。マリアはアイグルの見つめる先に視線をやり、目を見開く。

黒い服を見にまとった連中が数人、そこにいた。

「ここから先には通させないよ」

黒服の中の一人、きらびやかな飾りを肩に張り付けたやつが一歩前に出て口を開いた。

「命令でね。まだ時間がかかるから、足止め係が必要なんだ」

言葉の足りない独特な話し方。その男は頭部を覆っていたフードを脱いだ。すらっとした背の、爽やかな面持ちの美少年だった。男は目を細め、4人を順繰りに見る。

「アルムの女王とその一味だよね。逆らうならしないよ、容赦」

男は懐からナイフを取り出し、お手玉でもするかのように柄を回して弄ぶ。

先ほどシンクを襲撃したのはこの男なのだろう。音も気配も容赦もなくシンクを襲撃したのは。

「マリア…」

アイグルは前を向いたままの状態で小さく声を出す。シンクを支えるマリアにひっそりと話しかける。

「どうする。逃げるなら今のうちだぞ」

「…」

マリアはアイグルの言わんとすることを理解した。ナイフを持つ男にチラと視線をやり、

「逃げるわけにはいかないわ。この人たちを放っておいたら何をするかわからないもの」

「…だよな」

わかりきっていた答えに、アイグルは唇を引き締めた。マリアの答えにキャナリもシンクも頷いた。アイグルはそれを確認し、ゆっくり口を開くと大きく息を吸って、吐いた。腕をまくって、気合いを入れるかのように手を鳴らした。

「ここは俺が引き受ける。先に進め」

「え…っ」

「兄さん…」

「キャナリ、マリアとシン坊を連れて奥に行け。任せたぞ」

短く告げ、アイグルはキャナリの肩に手を置き、促した。

「…わかりました」

キャナリが迷ったのは一瞬だった。キャナリはまだ迷うマリアと、黒服の集団を見つめるシンクの腕を力強く引っ張った。

「走って!」

キャナリに促され、マリアは慌てて走り出した。シンクもあとに続いた。2人はアイグルを気にしつつ、キャナリの背中を追いかける。

「逃さないけど。あれ、捕まえて」

奥に走っていくマリアらを認め、ナイフ使いの黒服の男が部下の男たちに命令を下す。男たちは先を行くマリアたちを取り押さえようと足を踏み出し、

「遅いな」

「っ」

アイグルの拳に阻まれていた。アイグルは一番近くにいた1人目の手首を掴み上げ、2人目の腹めがけて投げ飛ばした。投げた弾みでアイグルの体は回転したが、その反動を生かした鋭い蹴りが3人目の顔面に直撃した。

流れるように3人の黒服が倒れた。白目を剥いている。どうやら気絶したようだ。アイグルの軽い身のこなしと力強い攻めに、残った黒服の集団は怯んだ。彼らはアイグルの出方をうかがうように、距離を置く。アイグルは深く息を吐いてみせた。

「やるね、意外と」

ナイフを手に持った男は、ほぉーと息を漏らしていた。感心したのだろう。床に倒れた部下を見下ろした。親指と人差し指で挟んだナイフの柄をくるくる回転させて顔を上げ、一瞬で3人の動きを封じたアイグルを見やる。

「だてに鍛えてないからな」

アイグルは答える。口調は軽いが、眼差しは黒服の集団一人一人に注意深く向けられている。

「ふーん。自信あるね。教えてよ鍛え方」

「実戦で良ければ教えてやるよ。ちなみに体で覚えるシステムだ」

手にしたナイフをアイグルに向け、男は試すように真っ直ぐ前を見つめ、アイグルは口角を上げ睨んだ。

「かっこつけるよな」

男は、アイグルに向かいナイフを軽く投げた。それが合図だった。

ナイフが飛び出すと同時に、黒服の男たちはアイグルに突進した。

アイグルは飛んできたナイフを弾き、相手の鳩尾目がけ拳を突き出した。


大きく鈍い音が遺跡に反響する。




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