戸惑いながらも入ってみた
「あいつらが来ているな」
「お前ら、準備を整えておけ。まだ計画は続いている。注意を怠るな」
怜悧な刃物のように鋭い声は、洞窟に似た空間によく響き渡った。
「来客の方でしたか…」
ネーベルに着き、アイグルは一番話の通じそうな人間に声をかけていた。
「アルムから来ました。お聞きしたいことがあるのですが」
アイグルは話を切り出し事情を簡潔に話し始める。マリアは男の姿を見た。男は膝までの長さがあるフード付きのコートを見に纏っている。喋り方もどこか暗い印象で、ぼそぼそ喋るため声が聞き取りにくい。
「先日こちらに、黒い服を着た集団が来ませんでしたか」
男の眉がピクリと上下に揺れた。頷いて、
「来ましたよ…管理の者に話しかけておりました」
「管理?何の…」
「あちらのことです」
陰鬱な調子で、男はある建物を指差していた。
それは一見、平らな地面のように見える。四角形の穴があり、目を凝らせば階段がうっすら見えた。おそらく地下に繋がっているのだろう。
あれがアイグルの言っていた古代の遺跡なのだろうと、マリアは見当をつけた。
「話しかけた後どうされていましたか」
「あの中に入りました」
ただ簡潔に男は答える。アイグルは少し考えた後、
「管理の者はどちらにいらっしゃいますか」
「管理の者は、黒服の集団と共に遺跡に入りましたが…」
「俺たちも遺跡に入りたいのですが、よろしいですか」
ダメ元で尋ねていた
「私では判断できかねます…」
案の定男は首を横に振り、どこかに歩いて行った。
「ダメだったか」
アイグルは頭を掻いて、細く長い息を吐いた。
マリアたちは道を歩くネーベルの人たちに片っ端から声をかけてみるものの、結果は芳しくなかった。
皆、頭を伏せて足早に歩き去ってしまう。そもそもマリアたちを避けて歩いている。
「どんだけ人見知りなのよ。誰とも話が続かないわ」
「いや、人見知りとかじゃなくてそういう文化なんだよ…」
「これは骨が折れますね」
成果が上がらず、マリアもアイグルもキャナリも謎の疲労感を抱えていた。ネーベルの住民に話しかけても、人と会話している感じがしないのだ。3人は深いため息をついた。マリアは気分を入れ替えるために顔を上げた。空を見上げて気分を入れ替えよう、
「ぶっ」
として吹いた。なぜなら、
「もう入っちゃおうよー」
シンクが遺跡の近くにいたからだ。いや、近くどころか彼の片足はすでに階段を踏んでいた。アイグルとキャナリもビクッと体を強張らせていた。
「いやいやそれ良いの?」
「良くないだろ」
「でも誰も止めていませんね」
キャナリの言う通り、勝手に遺跡に入ろうとするシンクを止める者は誰もいなかった。街を歩く住民は、シンクに視線をやりつつもすぐに目を逸らしどこかに歩いて行ってしまう。
「…も、入っちゃいましょうか?」
マリアは奇妙な声色で提案する。
「賛成です」
「…うーん」
即答するキャナリと正反対に、アイグルは難色を示していた。マリアはアイグルを誘う。
「誰も何も言わないなら良いってことじゃないかしら?ね」
「そうかねぇ」
難色を示しつつも徐々に遺跡に近づくアイグルだった。
4人は遺跡の入り口を前に、横に一列に並んだ。かなり目立っているが、それでも住民に注意はされない。アイグルに、無言の六つの眼差しが注がれる。
「入るか…」
圧に負け、アイグルは首を下にさげた。
「そうこなくちゃね」
マリアは腕を組み力強く頷いていた。
こうして4人は悪いことをしている気がしつつも遺跡に足を踏み入れるのだった。




