表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/77

またあの家族と再会し


キャナリはそれとなく、子どもたちのいた場所に目を向けた。そこに存在すると思っていた人物らがいないことに気づいた。

「今日は、お母さんとお父さんはいないのですか」

子どもたちはその疑問に、素直に答えた。

「うん。はたけ仕事をしてるからいないの。今日はやさい丼を作るんだって」

ごごごご。その回答を聞いた瞬間、何者かの腹から唸り声のような低音が響いた。正体はマリアのお腹である。

「マリア…今のでか…」

「違うの、フートゥでたくさん食べたから胃が膨れたの、だからお腹が鳴っちゃったの!」

アイグルの手遅れかと言わんばかりの呟きに、必死で反抗するマリアだった。シンクはニコニコ微笑んでいた。

子どもは「そうだ」と何かを思いついたようだ。

「うちに来てご飯食べる?」

明るく眩しい笑顔で、放たれた言葉。

「えっ、いいの?」

つい前のめりになるマリアだった。ご飯という単語にすぐさま反応してしまった自分を恥じるが、後の祭りだった。アイグルの「おい…」と言わんばかりの視線を背中に感じ、マリアは唇を無理矢理引き締めた。結局子どもの言うことだ。こほんと咳払いし、気を取り直す。

「い、いいえ。おうちの方のご迷惑になるから遠慮するわ」

大人らしく冷静に返した。

「えー、私キャナリお姉ちゃんとごはん食べたい」

しかし兄妹の妹のほうはそう言って、キャナリの腕に抱きついた。すっかり仲良くなったらしい。好意をストレートにぶつけられたキャナリは困ったように嬉しそうに微笑んでいた。遊ぶ中ですっかり仲良くなったのだった。キャナリも、子どもたちの家に行きたそうにしている。時折兄のほうへ視線をやり、妹のほうの頭を撫でていた。

断るのも憚られる仲睦まじさであった。

「で、でもねぇ」

マリアの心は揺れていた。突然相手の親にご飯をご馳走してもらうのは余りにも節操無しだと思う。しかし美味しいご飯を口にしたい。だがそれを言うのは無遠慮すぎる。どうしたものかと悩んでいると、

「お母さんとお父さんにあいさつしたらどうかな」

シンクが現状もっとも無難な提案をした。果たしてその提案は可決された。




子どもたちとともに、家に向かう。その途中で農作業をしている国民をちらほらと見かけた。白い肌の男性は、古めかしい農具を両手で握り、地面めがけて一心不乱に振り下ろしている。額にはじんわりと汗を浮かべていた。

マリアはその光景をぼんやり見つめていた。

「ここだよ」

子どもに声をかけられ、目線も意識も目の前の家に向けた。

木造の、質素な印象の民家だった。マリアはそれとなく周囲を見渡す。周りにある民家も同じようなデザインの家だった。

子どもは手を伸ばし、ドアノブを捻った。中に入り大きな声を上げる。

「ただいまお母さん」

その声に呼ばれ、家の奥から母親が出てくる。

「おかえり。あら、お久しぶりですね」

母親はにこりと笑みを浮かべると、マリアたちに部屋に上がるように促した。

「どうぞ。狭い家ですが」

「そんな。お邪魔します」

「お邪魔します!」

おきまりの言葉におきまりの返しをして、マリアは家に上がる。アイグルとシンクもその後に続く。キャナリはとっくに子どもたちとともに家に上がりこんでいた。ろくに挨拶もせず決まり悪そうに、子どもたちの母親を見上げる。

「すみません」

母親は気にした様子もないようだった。

「うちの子が引っ張ってきたんでしょう?ごめんなさいね」

母親は子どもに人差し指を突き出した。

「こら、キャナリさんを引っ張ってこないの」

「はあい…」

キャナリの腕に巻き付いていた小さく短い腕は、母親による注意でしぶしぶ離された。彼女の、日に焼けた指先は、健康的に見える。納得いかない違和感を覚え、知らず知らずのうちマリアは下唇をきゅっと結んでいた。そこへ、

「おや、お客さんかな」

玄関のドアが開いた。隙間が開いて顔が見えるようになった。帰ってきたのは、

「おとうさんおかえり」

「うん。ただいま…うお!?」

兄妹は父親に駆け寄り飛びついていた。父親は受け止めきれずしりもちをついていた。

「こらこら。もう…急に飛びついたら危ないじゃないか」

子どもの行動に、父親は困ったように眉を下げた。そしてマリアたちに、

「数日ぶりですね」

「はい。お邪魔しています」

しりもちをついたまま話しかけた。シンクは、父親の後ろにある、荷物を見かけて「ん?」と反応する。

「それって」

「ああ。野菜を取ってきたんですよ」

見てみると、父親の背後、リアカーの中には瑞々しい野菜が積まれてあった。種類は豊富だがあまり数は多くなかった。

「野菜を使ってご飯を作ろうと思っていたのですけど…よかったら、一緒にいかがですか?」

「!」

母親の誘いに、マリアの目がパッと輝いた。

「そ、それは…」

願ってもない向こうからのお誘いだ。千載一遇のチャンスだ。マリアは冷静に振る舞って、極めて平坦に聞こえる声を出す。

「ご迷惑でなきぇれば」

噛んでいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ