フートゥに到着したのに疑われる
「とうちゃーーーく!」
真っ青な、どこまでも伸びる快晴の下、どこまでも伸びる声が気持ちよく響き渡る。
真横に真っ直ぐ手を伸ばしスキップで前進しながら、シンクは大きな門をくぐった。今度は両手を真上に向け、シンクは全身で喜びをアピールしまくる。その整った顔には、満面の笑みが浮かんでいる。
「あんまり騒がないのシンク」
「ごめん」
見かねたマリアが声をかけ、シンクはようやく大きな動作を止めた。暖かな海風が吹き、シンクの髪を撫でた。マリアは少し乱れた己の髪を、耳に引っ掛けた。
そう。途中小国に立ち寄りながら、マリアたちはとうとうフートゥの国にたどり着いたのだ。
「それにしても…すごい国ねぇ」
門に立つマリアは、門の側からフートゥ国内を覗いて感嘆のため息を漏らした。
真っ先に目に入るのは、豪華な建物の数々だった。どの建物もとにかく大きく、縦に長い。空に届きそうだ。マリアが今まで見た国のどこにも、このような大きな建造物はなかった。さすが大陸唯一のリゾート地である。
「なんか…すごいわねぇ。どの建物も大きくて綺麗。あそこの建物なんて、もしかして闘技場より広いんじゃないかしら」
「さすがにそれはないって」
物珍しそうにキョロキョロと視線を彷徨わせるマリアに、アイグルは苦笑いで答えた。マリアに注意されたばかりというのに、シンクもあちこち首を動かし目を輝かせている。
しばらくの間、田舎者丸出しで門に突っ立っていると。
「フートゥの国へようこそ。失礼ですが、招待券等はお持ちですか?」
警備員らしき人間に捕まった。警備員は一見人の良い笑みを浮かべているが、その瞳はギラギラしていた。不法に入ってくる者は容赦なく排除する。
「フートゥに来るのは初めてですか?」
即答しないマリアらを不審に思ったのか、彼女の目は一層鋭い輝きを放つ。その目は本気だった。マリアは一気に正気に戻る。シンクは警備員の鋭い視線に肩を強張らせ、マリアの後ろに隠れた。
「はい。こちらがチケットになります」
特に臆する様子もなく、キャナリは一歩踏み出し警備員にチケットを見せた。
「確認します」
警備員は丁寧な手つきでチケットを手に取り、それが本物であるかどうか目を光らせて確認する。ある項目を見て、警備員は目を丸くする。
「これはストゥマで発行されたチケットですね」
「はい。優勝商品として貰ったものです」
淡々と答えるキャナリ。警備員は信じられないと言わんばかりに、マリアたちに目線をうつした。マリアは、
「本当のことです。キャナリは闘技場の上級コースを勝ち抜き、優勝商品であるそのチケットを手に入れました」
その言葉が本物であることを証明するように、アイグルとシンクが力強く頷く。警備員は感心したように顎を上下に震わせた。
「そうでしたか。…チケットの確認が取れました。ご協力ありがとうございます」
そう言うと、警備員はキャナリにチケットを返した。それでも警備員はキャナリをジロジロと見つめる。
「信じていただけたということでしょうか?」
キャナリに問われ、警備員は言葉に詰まったようだ。
「いえ…いや、はい。…大変失礼しました」
気まずい雰囲気を醸し出しながら、警備員は頭を下げる。キャナリは表面上特に気にした風もなく、
「お気になさらず」
いつもと変わらない表情で、一歩下がるのだった。警備員は申し訳なさそうに黙る。マリアもかけるべき言葉が見つからない。
微妙な空気が場に流れるが、
「俺たちは入っていいんですね?」
その雰囲気を追いやるように、アイグルは尋ねた。その低い声に、警備員は我に返った。
「はい、もちろん」
そう答えると、咳払いをして調子を整え、笑顔を作った。
「フートゥの国へようこそ。ぜひ楽しんでいってください」
警備員は、招待すべき客に対し、恭しく礼をした。
ようやく、マリアの体から緊張がほぐれた。




