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小さな国で休憩タイム


「ようこそ我がツェレ国へ!歓迎します。何もない小さな国ではありますが、どうぞ休んでいってください」

マリアたちが小さな国…ツェレに足を踏み入れた瞬間、簡素なケープを身に纏った女性がスタスタ歩いて来た。そして、マリアたち一人一人に丁寧に握手を求める。

「私はこのツェレ小国、ブレック。ツェレの王をさせてもらっています。どうぞよろしく」

「こんばんは。アルムの王、マリアです。一泊させてください」

「マリア王、お久しぶりです。フートゥに観光ですか?」

「あはは…そんなところです」

ブレックにじっと見つめられ、マリアはやんわりと答えた。

「宿に案内します。どうぞ着いてきてください。…おお、そこにいるのはシンクじゃないですか。久しぶりですね。キャナリも久しいですね。ぜひゆっくり、体を休めていってくださいね」

「ブレック王、俺は?」

アイグルは己を指差して尋ねる。

「アイグルはたまに見かけるので珍しさはないですね」

ばさっと切るように言われるアイグルだった。

「さあ、こちらですよ。どうぞ」

ブレックの先導が始まり、マリアたちはその後ろに続いた。


ブレックは木で出来た宿の、広めの一室にマリアたちを通した。マリアは部屋の内部を見渡す。質素な部屋で目立つような装飾品などは全く無い。小綺麗で必要最低限の物しかない、非常にシンプルな部屋だった。

「毎度このような、何も無いお部屋に通して申し訳ないです」

マリアの様子に、ブレックは申し訳なさそうに頭を下げる。マリアは自分の態度を思い出し、慌てて弁明した。

「あ、いえ…すっきりとして過ごしやすそうだなと思っただけで。こちらこそ不躾にジロジロ眺めて失礼しました」

「そうでしたか」

ブレックはその回答に胸をなで下ろしたようだ。「早とちりしましたね」と恥ずかしそうに笑い、こう続けた。

「ツェレはあくまでフートゥの通り道。素泊まりする方がほとんどです。そのため宿の設備のほうは簡単な物になっていまして…」

ブレックは眉を下げてそう説明する。

「僕は好きだよー。ベッドふかふかだし」

「もう、シンクったら。勝手にベッドに寝て…」

マリアはいつの間にかベッドに転がるシンクに眉をひそめるが、それ以上は何も言わなかった。彼がブレックを元気付けるために行動していることはマリアにも明確だった。

もちろんブレックにもその心根は伝わったのだろう。彼女の表情は、シンクの言葉でわずかに明るくなる。

「私も好きですよ。この宿。過剰に着飾ったものはかえって下品です」

部屋を見渡したキャナリがそう言い、ブレックは実に嬉しそうに微笑んだ。

「…そう言っていただけるとありがたいです。…先ほども申し上げましたがツェレはあくまでもフートゥの間に位置する小国。国そのものに注目する方は少ないのです。宿を褒めていただいて嬉しいです」

ブレックはキャナリの手を取り明るい声色で微笑む。ベッドに寝転がるシンクを見やり、またも目を細めた。そして、

「隣にもう一室ご用意しております。ごゆっくり」

と言い残し、ニコニコ笑みを浮かべて部屋を去って行った。

「よほど嬉しかったのね」

マリアはブレックの顔を思い出し微笑む。ブレックはスマートな印象の美人だったが喜んでいる際の彼女の表情はその時だけ素直な子どもの様で、思い出すだけで心がほっこりするのだった。

「シン坊、キャナリ。ナイスだったぜ」

ベッドに腰掛けたアイグルは、転がるシンクの額を指でぐりぐりしながら年下2人を褒めた。

「「僕、(私は)思ったことを言っただけだよ(ですよ)」」

シンクとキャナリは口を揃えて言うのだった。




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