次はどこへ行こう?
「ところでアイグル、次はどこに行くのかしら」
野菜スープの入っていた皿を片しながら、マリアはアイグルに尋ねた。アイグルは食後の茶を飲み、おう、と頷き、
「その前にマリア、魔法のコントロールはどうだ?」
「…。そうね…」
そう聞かれ、マリアは自分の手元を見下ろした。手を開いたり閉じたりしてしばらく考え、
「ある程度なら出来ると思うわ。コツも掴めたし。ただ、完璧にはできないと思うけど」
「…すごいじゃないか」
アイグルはその回答に素直に感嘆した。コップから口を離し、驚きに目を見張る。そのリアクションに、今度はマリアが慌てる番だった。
「いや、うまくいくかは分からないわよ?前より威力を調整できるようになっただけで」
そうやって手をふりふり振って苦笑いを浮かべた。部屋の隅で茶を淹れていたキャナリは、マリアの主張に首を横に振った。
「謙遜することないですよ、マリア様」
「そ、そうかしら」
「ええ」
マリアの不安げな視線に、キャナリは口角を上げて応える。キャナリに肯定されて嬉しいのか、マリアは照れ臭そうに微笑みを浮かべた。そんな2人のやりとりを視界に捉えながら、アイグルは朝の出来事を思い出していた。
宿に帰ってきたマリアは魔法を披露してくれたのだが、魔法をほぼ完璧に操っていた。強い魔法は強力に、弱い魔法は抑えめに操っていた。『怪しい奴』の教えは的確だったのだろう。
アイグルの隣にいるシンクも、似たようなことを考えていたらしい。キャナリの言葉にうんうんと首を縦に振る。
「そうだよマリア。この国に来る前より、魔法の使い方ずっと上手になってるよ」
そう言って笑顔を浮かべる。その明るい笑顔に、マリアの顔も明るくなる。キャナリも、シンクに同調するように顎を引く。
シンクの言葉には嘘がない。アイグルは目の前の光景に口元を緩めた。
「マリアの魔法もうまくなったし、フートゥの国に行って気晴らしするか」
その言葉に、マリアとシンクが同時に反応した。
「フートゥって、あのリゾート地のことかしら」
「キャナリがチケット貰ってたとこだよね!」
2人とも非常にワクワクした様子で、アイグルに視線を向ける。シンクは太陽のような笑顔をアイグルに向け、マリアもまた期待に目を輝かせてそわそわしている。アイグルが思った以上に2人の食いつきは良かった。と思ったらそんな2人の背後でキャナリがそわそわ動いていた。口に出さないだけでキャナリもリゾート地に興味があるのだろう。兄は、素直になれない妹に苦笑いを浮かべた。
「おう。闘技場頑張ったし、リフレッシュも兼ねてな。キャナリが貰ったチケット、有効活用しないとだし。いいよな、キャナリ?」
アイグルは念のためキャナリに確認を取る。キャナリはきわめて冷静に、
「ええ。構いませんよ」
と、頷いた。アイグルはなんてことないといった態度をとる妹の様子に眉を下げる。
「やったー!楽しみー!」
キャナリとは反対に、シンクは両手を天に上げ、全身で感情を表現しているのだった。アイグルはこいつら足して2で割ればちょうどいいよな…と目を遠くする。
「特産物…美味しいごはん…デザート…飲み物もたくさん!」
呪詛のようにブツブツと呟き、妄想を膨らませるマリアは、そんなアイグルの感情には気づかなかった。アイグルは言い忘れていたことを思い出し、息を吸った。
「フートゥの国はここから南の方角にある。結構歩くけど、大丈夫か?」
アイグルの問いかけに文句を言う者は誰もいなかった。




