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宿に戻ったらみんな心配していた

実はもう少しサブタイトルを捻りたい


宿に戻ってすぐ、マリアは質問責めにあった。

「マリア様、私が起きたときにどこにもいなくて…ご無事ですか!?」

「どこに行ってたんだお前!探したぞ!」

眼前に二つのくせ毛…キャナリとアイグルが迫り、マリアは背中を仰け反らせながら必死に謝った。

「ご、ごめんなさい心配をかけて!」

迫り来る兄妹の鼻先でパントマイムのように手を動かし、マリアは謝ることしかできない。そして、その腰には、シンクががっちり張り付いていた。そのおかげでろくに身動きもできない。

「マリア、どこ行ってたの…」

シンクは、涙で顔をでろでろに溶かしながらマリアを見上げる。その瑞々しい頬に滝のような涙が滔々と流れている。声は震えている。鼻をズビズビ鳴らしマリアに縋る姿は、まるで子どものようだった。

「ちょ、痛いシンク」

ギュウウとマリアの腰に抱きつく力は意外にも強く、マリアはシンクの腕に手を添えて軽く引っ張った。しかしシンクの腕はビクとも動かない。マリアの腰にしがみついたまま、固定している。マリアは目の前に迫る2人と、背後にかじりつく1人に困惑した。しかし、

「心配したよ…。またいなくなったらどうしようかと思った」

「シンク…」

シンクの絞り出す声に、マリアは身じろぎを止めた。シンクは肩を震わせてマリアの腰をぎゅっと抱きしめる。もう離さないと言わんばかりの締め付けだ。アイグルもキャナリもマリアから顔を離し、シンクを静かに見つめる。

「マリア、もう、もういなくならないで。またマリアがいなくなったら嫌だよ」

「あ…」

そう言って額を擦りつけるシンクの頭に、マリアはそっと手を乗せた。マリアは思い出す。シンクは一度マリアを失ったのだ。マリアがいなくなることはシンクにとって重大で衝撃的なことなのだった。たとえマリアにとって何気ないことでも、シンクのトラウマを刺激するのだ。

「シンク…」

マリアは、申し訳ない想いが溢れた。せめて安心させようと、シンクの寝起きでぼさぼさになった髪を撫でる。

「ごめんなさい、シンク。朝起きたら私がいなくて、怖かったよね。心配だったわね。でももう帰って来たから、安心して」

「うん…」

マリアの手のぬくもりを感じ、シンクはしゃくりあげて泣く。マリアを抱きしめる力が弱くなる。マリアは大きな目から流れる涙を、親指でそっと拭ってやった。

「マリア」

シンクはマリアの親指に視線をやり、縋るような声を出す。

「なに?」

穏やかな声色で、マリアはシンクの続きを促した。シンクは情けないくらい眉を下げて、マリアを見上げた。

「もう1人でどこにもいかない?」

マリアはシンクの前髪をすくい上げた。

「行かない。勝手に出て行ったりはしないわ」

きっぱりとそう宣言した。シンクは再び、マリアの腰にしがみつく。

「ほんと?約束だよ。マリア」

「ええ。約束する。私はもうどこにも行かないわ」

シンクの耳元でそうつつやき、マリアは泣き虫の手を取った。自らの温もりを与えるように、そっと、しかし力強く握りしめる。今度こそシンクは安心したように、マリアの手を握り返した。

マリアは、もう一度シンクの頭を撫でると、アイグルとキャナリに頭を下げた。

「アイグル、キャナリ、ごめんなさい。何も言わずに出て行ってしまって」

アイグルは腰に手を当ててふぅとため息をつく。

「焦ったよ。ま、反省してるから許す」

やれやれと大仰な仕草でアイグルは首を振った。兄の隣に立つ妹は、

「私はマリア様が無事ならそれで十分です」

さっと髪をかき上げながら頷いてた。その仕草は落ち着いていた。シンクとマリアのやり取りを見て、冷静さを取り戻したらしい。

マリアは、自分が宿に戻った直後のキャナリの慌てようを思い出し、ふふっと声を漏らした。

「どうしたのですか?」

キャナリは不思議そうにマリアを見上げる。

「なんでもないわ。キャナリのことが可愛いなと思っただけ」

「なんのことですか」

キャナリは再び髪をいじる。まるで、マリアの安否を気にしていたことなど忘れたみたいな態度だ。

「かわいいだろ、俺の妹は」

アイグルはニヤニヤしながら妹の頭頂部を見下ろしていた。マリアはアイグルと目を合わせて微笑む。いや、ニヤつく。

「ええ。かわいいわ」

「かわいいな」

アイグルとマリアはそう言いながら、2人でキャナリの左右に立ちその小さな頬をつついた。

「な、なんなんですか一体」

キャナリは王と兄の行動に困惑しながらも、抵抗せず、されるがままだった。

シンクはマリアの腰に頬を擦り付けながら、さりげなくキャナリに指を伸ばしていた。




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