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指輪を貰ったので強度を確かめてみた


ハーツの城を後にし、マリアはいまだ惚けていた。カディスとのやり取りがまるで夢の中で起きた出来事のようで、実感として湧かなかった。

「マリア、大丈夫?」

「え、ええ」

マリアはシンクの心配げな声になんとか頷いた。

「最後、出てくるのが遅かったですけど…なにかあったのですか?」

キャナリが訝しげに首を傾げた。マリアは言葉を濁しながら、

「少し立ち話をしていただけよ」

「そうですか…」

マリアは肩を落とすキャナリの耳元に、口を近づけた。

「後で説明するわ」

「…はい」

「俺にも聞かせてくれよな」

「ふぁ!?」

突然、至近距離で響いた低音に、マリアとキャナリは飛び上がった。キャナリはすかさずその犯人の足をギュムッと踏みつけた。

「愚兄。驚かせないでください」

「いてててて!そんな怒ることないだろ!」

「近いのですよ顔が」

キャナリは中腰状態の兄の足の指をグリグリ踏みつけた。マリアは目を白黒させ、胸元を押さえていた。アイグルは妹に足を踏まれながらも、

「とにかくだ。俺にも後から聞かせてくれな?」

「ええ」

「なんの話?」

マリアとアイグルの間で交わされるやりとりに、黒いポニーテールがぴょこんと揺れる。アイグルは、

「なんでもないさ」

「ふぅん…?」

シンクの長い睫毛がパチパチと上下に動く。アイグルはシンクから視線を逸らし、マリアの右手を見つめた。

「それにしても、いい指輪を貰ったな」

その言葉で、皆の視線はマリアの指に嵌められた宝石へ注がれる。マリアもまた、こわごわと宝石を見つめた。

「ええ…おまもりにって、渡されたの」

マリアはその宝石をよく覗いてみた。翠色のその宝石は、丁寧に磨かれた銀の中心で厳かに輝いている。その輝きは下品な光ではなく、上品さに満ちている。その手のものに詳しくないマリアですら、十分に価値のある逸品であることがわかる。

「アイグル、この指輪、もちろん高価なものよね…?」

「そうだな」

アイグルは翠を瞳に映しながら頷いた。

「宝石自体もそうだし、土台の銀も上等な物だ。しかも見た感じオーダーメイドっぽいな。この世に二つと無い代物だろう」

「兄さん、マリア様が目を回しているのでその辺で」

アイグルは唇をきゅっと結んだ。マリアは混乱する頭を支えながら、言葉を絞り出した。

「そんな…そんなもの私が…」

「マリアしっかりして」

「あわわわ…」

シンクはマリアの背を摩った。マリアは目を白黒させて呻いている。やがて地面にへたり込んだ。

「どうしよう…もし汚したり傷付けたりしたらどうしよう…」

「それは心配しなくていいと思います」

「え?」

マリアはキャナリの顔を見上げた。キャナリは地面に膝をつき、マリアに微笑む。

「カディス王がおまもりにと渡してくれたものです。指輪自体、王の魔法で守られているでしょう」

「そんなことができるの?」

「ちょっと、失礼しますね」

キャナリはそう言いながら、マリアの指から指輪を外した。懐からハンカチを取り出し、地面に指輪を置く。そして、指輪に向かっておもむろに手をかざし、小さな手から炎を生み出した。

「キャナリ、何を」

「動かないでマリア様。…燃えなさい」

シュボッ

マリアを静止させたキャナリは炎を指輪にぶつけた。その動きに躊躇いは一切無かった。ハンカチは燃えた。

「…えっと、何をしたのキャナリ?」

マリアは燃えるハンカチを見下ろしながら、冷や汗を垂らした。キャナリは表情を変えずに答えた。

「指輪を燃やしました」

「何してんの!?水!鎮火ーッ!!」

マリアは白目を剥いた。水筒を取り出し、中の茶を指輪にぶっかけた。

「大切な指輪が…!」

マリアは燃えカスになったハンカチの中心を見つめ、目を見開いた。

「え…?指輪、燃えてない」

マリアは信じられないものを見るような目で、その瞳に指輪を写す。指輪には、傷ひとつついていなかった。

「やはり、指輪には特殊な魔法がかけられているようです。ちょっとの衝撃では壊れないでしょう」

キャナリは何事もなかったかのように淡々と答えた。小さな従者は、指輪を拾い新しいハンカチで丁寧に拭いた。それを、主人の前に差し出した。

「どうぞ、マリア様」

「ありがとうキャナリ。でも目上の人に貰ったものを燃やすときにはあらかじめお知らせしてほしいわ」

「すみません。驚かせたくて」

「もう…っ」

マリアはキャナリにデコピンした。指で額をさするキャナリを尻目に、マリアは手元の指輪に視線を落とす。

指輪は輝き、マリアを見上げていた。




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