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ハーツの国に到着した!


「ここがハーツの国ね!」

マリアはよく通る声で瞳を輝かせながら両手を広げ、大きく深呼吸した。

「都会のにおいがするわ」

「なんじゃそりゃ」

苦笑いを浮かべたアイグルは、マリアの発言にずっこけて見せた。

マリアたちはとうとう、ハーツの国に辿り着いたのだ。

「それにしても人が多いわね」

ハーツの国は人で溢れかえっていた。住人だけでなく、商人や旅人らしき人がそこら中を歩き回り、国中は人でごったがえしていた。シードの港にも人が大勢いたが、ハーツのそれはその比ではなかった。国のあちらこちらに店が立ち並び、小ぎれいな身なりの婦人が品物を物色している姿が見られた。屋台ではアイスクリームを作っており、子どもたちが群がっている。子どもたちは色とりどりのアイスクリームをカップに乗せ笑い合っていた。中には味見をして、交換し合う微笑ましい光景も見られた。相当美味しいアイスクリームなのだろう、皆幸せそうにアイスを貪っていた。あの黒髪の少年など、いい歳して無垢な笑みを浮かべ、自分より背の低い子どもとアイスの交換をし、

「シンク何してんのよ!」

黒髪の少年はシンクだった。シンクは白色のアイスクリームを舐めながら、マリアに手を振った。

「あ、マリアぁ〜。ここのアイスおいしいよー!」

「シンク、勝手にいなくならな、ンゴッ」

マリアはシンクの鼻先に人差し指を突き出そうとしたが、シンクがマリアの口にアイスクリームを突っ込むほうが早かった。

「ちょっ、大丈夫ですかマリア様」

キャナリはマリアに駆けていき、その顔を覗き込んだ。懐から清潔な布を取り出し、マリアの口元に持っていこうとするが、

「…はぅ…おいし〜い…!」

「……」

キャナリはその顔を見て何かを察し、そっと、布を元の場所にしまいこんだ。キャナリの視線に気づいたマリアは、キャナリを見下ろした。気まずそうな表情をしていた。

「…キャナリ」

キャナリはなんてことないように次の言葉を投げかけた。

「マリア様、少し観光していきましょうか」

「…!」

キャナリがそう言えば、マリアの顔がみるみる華やいだ。

「ありがとうキャナリ!すぐ終わらせるから!」

そう言うや否や、マリアは屋台に向かってダッシュした。マリアはシンクのアイスを指差しながら、屋台のオーナーらしき人に向かって声を張り上げる。

「ごめんなさい。この子と同じ味のをひとつお願いします」

「マリア、この味も甘くて美味しいよ」

「私を惑わせないでシンク!それもください!」

マリアはよく通る声で瞳を輝かせながら拳を突き上げ、必死に注文していた。

「まったくもう、マリア様ったら。仕方ないんですから」

子どもの群れに紛れるマリアとシンクを見つめ、キャナリは困ったように眉を下げた。

「でも、元気なら良い。そうだろ?妹よ」

キャナリの隣にアイグルが立つ。アイグルもまた、マリアとシンクの笑顔を遠目に眺めていた。

「それは…そうですよ」

キャナリは髪をかき上げ、兄に同意した。風がそよぎ、キャナリのくせ毛はふわふわと揺れた。

「記憶喪失というのに、元気で、国のために行動して…。マリア様には頭が上がりません」

「……」

アイグルは、キャナリのつむじを見下ろした、長い睫毛が瞬く。視線の先にいるマリアを真っ直ぐ、尊敬の気持ちで見つめている。

「…そだな」

アイグルもまた、妹の視線を追った。アイスクリームを何段も重ねる、自国の王を見つめた。彼女は、水色のアイスクリームを美味しそうに頬張っていた。

「……」

びゅうっと、強い風が吹いた。キャナリは髪を抑える。アイグルの目がわずかに見開き、その唇はパクパクと動く。

「兄さん?」

キャナリは兄の様子を不審がり、その顔を見上げた。アイグルは妹を見おろした。

「ん?どうした、キャナリ」

「先ほど、何かおっしゃいましたか?」

アイグルは首を横に振った。無言のまま、キャナリの髪に手を伸ばした。

「髪、乱れたな。宿についたら整えてやる」

兄は、妹の髪をそっと掬って、その頭を優しく撫でた。

「急になんですか。自分でできるので結構です」

「だよなー。何言ってんだろ俺」

キャナリがあしらうと、アイグルはケラケラ笑って見せた。そして、屋台の人垣に向かって、

「マリアー、シン坊ー。そろそろ宿取りに行くぞー?」

「待って!あと5段食べてからで良い!?」

「いやどんだけ注文してんだよ!」

アイスを何段も重ねたマリアに、アイグルは笑い交じりに突っ込んだ。



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