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レストランでの一幕

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レストランでのエピソードになります。


マリアたちはレストランに入ると、噂の美味しい魚を注文した。

「まだかしら!」

「まだかなーまだかなー」

マリアとシンクはそわそわしながら厨房に視線をやっていた。アイグルはそんな2人の様子を見て、苦笑いした。

「たく、シン坊はともかくマリアまで。はしたないぞ?」

「…!」

マリアはその言葉で我に返り、気まずそうに俯いた。キャナリがすかさずフォローに入る。

「兄さん仕方ありません。マリア様はお食事をたいへん楽しみにしていたのですから。そうでしょう、マリア様」

「そうだけど…。キャナリ、その言い方だとまるで私がすっごく食意地はってるみたいじゃない」

マリアは周囲を見渡してキャナリに囁いた。その顔は羞恥で赤くなっている。アイグルはマリアに手を振ってみせた。

「はは。気にしすぎだってマリア。誰もそんなに注目してない。な?」

「でも気になるわよ…。ああ、恥ずかしい…」

マリアは赤くなった顔を両手で抑えた。

「おさかなまだかなー。楽しみだねマリア」

「あんたはもう少し気にしなさいシンク」

何の態度も変わらないシンクに、マリアはピシャリと言い放った。マリアは周囲を気にしてしまうが、シンクは気にしなさすぎた。

「お待ちどうさま!メグロ丼4丁!」

「わ…!」

店員の威勢の良い声が聞こえた瞬間、マリアたちのテーブルに大きな器に盛られた料理が出された。ホカホカの白米の上に、小さく切られた赤身の魚が大量に乗せてある。マリアは目を輝かせた。

「そいつはさっき仕入れたばかりの新鮮なヤツだからね。美味しいよ!」

店員がマリアたちに向かって片目を瞑って見せた。アイグルは出された料理をまじまじと見て、目を見開いた。

「おぅ、なかなかに新鮮なメグロだな」

「おっと、アイグルさんじゃないですか。お連れさんとご一緒ですか?」

アイグルの姿を認めた店員が、アイグルに声をかけた。アイグルは顔を上げ、にかりと微笑む。

「ああ。観光みたいなものでな。このメグロ高かったろ。よく仕入れたな」

「そんなことありませんよ。ここだけの話結構安く手に入ったんです。以前アイグルさんに教わった会話術を実践したらうまくいきました」

「お、そりゃ嬉しいね」

「ふふ。なので、アイグルさんたちには特別にお安くしておきますね」

「ありがとな」

アイグルと店員の間に、和やかな雰囲気が流れたときだった。

「…ごちそうさま」

「…?」

ボソリと、低い声がテーブルに落とされた。アイグルは店員との会話を止め、キャナリとシンクも、その声がした方に顔を向けた。

「…おお」

3人と店員は目を見開いた。マリアの丼が早くも空っぽになっていたからだ。

「ま、マリア…いつの間に食べたんだ?」

アイグルは戸惑いながらマリアに尋ねる。アイグルの隣に座ったキャナリも珍しく動揺していた。

「けっこうな量だったと思いますが、あっという間に召し上がりましたね」

「……だって、美味しいんだもの」

マリアは耳まで赤くなった。同時に、きゅるるると情けない音がテーブルに響いた。震源地は、マリアの腹。

「「「………」」」

アイグル、キャナリ、店員はマリアの顔を無言で見つめた。マリアの頬が徐々に赤く染まっていく。

「ううっ、そんな目で見ないでちょうだい!仕方ないじゃない!美味しいんだから!それに旅で疲れていたし、魚が美味しいって聞いたから楽しみにしていたし」

兄妹と店員の視線を浴びたマリアは、やけになったのか涙目になって反論した。

「マリア様。大丈夫ですから」

「マリア落ち着けって。誰も責めちゃいねえよ」

「お嬢さん、美味しく食べてもらえて嬉しいよ。おかわりすぐに持ってくるからな」

「…す、すみません…」

キャナリ、アイグルはともかく店員にまで気を使われて、マリアはテーブルに突っ伏した。唯一、

「うん、これ美味しいねー!むぐむぐ。マリアももっと食べよ?」

シンクは特に気にした様子もなく、にこにこ笑いながら丼を空にしていった。

やけになったマリアは、メグロ丼を何杯も注文した。



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