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旅に出たので気になったことを聞いてみた

マリアは、アイグル、キャナリ、シンクとともに歩んでいた。

「アイグルさん、まずはどこに向かうのですか?」

国民に見送られアルムの門をくぐった後、マリアはアイグルに尋ねた。アイグルは人差し指を左右に振った。

「その前にマリア。俺のことは呼び捨てで呼んでくれないか」

アイグルの提案にマリアは戸惑った。

「でも、アイグルさんは」

「いや、気持ちは分かるぞ。俺はマリアより年上だし、マリアにとって俺は先生だもんな。でも、俺にとってのマリアは昔からの幼馴染で友達なんだ。だから呼び捨てで呼んでほしい」

マリアはそれでもと言いかけたが、アイグルの言っていることも理解できる。親しい相手に呼び捨てにされたら寂しい気持ちになるかもしれない。

マリアはすっと息を吸った。

「それなら…。アイグル」

「そう。それでよし」

マリアに呼ばれたアイグルは、歯を見せて笑った。

「これからは旅をする仲間なんだ。気を使うのはナシにしようぜ」

「はい。…じゃなかった、うん」

「よしよし」

アイグルはマリアの様子を見て、楽しそうに腕を組んだ。

「ところで兄さん。兄さんは今どこに向かっているのですか」

アイグルの隣でせかせか歩いていたキャナリが問いかけた。

「ああ。ハーツに向かおうと思ってる」

「ハーツ?」

マリアが首をかしげる。シンクはマリアに、

「王都のことだよ。世界の中心になってるおーっきい国なんだよ!」

シンクは両手を丸く広げて見せた。

「おう。全大陸を統べる国なんだ」

「各国の代表は、何かあるとハーツの国に集まります。マリア様もよく来ていた国なのですよ」

アイグルとキャナリが、シンクの説明にそう付け足した。

「そうなの…ちなみに、ハーツの国はここから遠いのかしら」

「いや、そんなに距離は遠くないぞ」

マリアの不安を嗅ぎ取ったアイグルは、すかさず答えた。

「だがすぐには着かない。途中でシードに立ち寄って休んでからハーツの国に向かおう」

「シードは、アルムとハーツの間に位置する小さな国です。漁業が盛んなので、美味しい魚が食べれるかもしれませんね」

兄妹にそう説明された。

「お魚ね…。ふふ、楽しみになってきたわ」

マリアは美味しいものが食べれると聞き、やる気になったようだ。

「美味しいものいっぱい食べようね、マリア」

「ええ。そのためにも頑張りましょう」

シンクのワクワクした声を聞き、マリアは力強く頷いた。



次々に襲いかかってくる動物をなんとか退ているうちに、すっかり日が暮れてしまったらしい。

マリアたちは野宿の準備をしていた。

「うーん…今日中にはシードに着く予定だったんだが。アテが外れたな」

アイグルは火をくべながらひとりごちた。

「ごめんなさい、アイグル、キャナリ…。足を引っ張ってしまって」

マリアは頭を下げた。

旅を始めて気づいたことだが、動物は割と頻繁に人間を襲ってくるのだ。訓練したとはいえ、マリアはまだ戦いに慣れていない。全員でマリアをフォローした分、余計な時間がかかってしまったのだ。

アイグルはマリアの下げられた頭部を見て、火の燃え移った木の棒を慌てて振った。

「別に責めていないさ。気にすんなって!」

「愚兄!火のついた木を振り回さないでください!」

アイグルの左右に座っていたキャナリとシンクは、慌てて立ち上がった。

「髪が燃えるかと思った!」

シンクはアイグルに怒った。

「悪いな。燃えてないよな?」

アイグルはシンクに謝ると、彼の髪を確認した。「うん。大丈夫だ」

「アイグルは髪を伸ばさないのかしら?」

マリアは、アイグルに尋ねた。アルムの国の男たちは、皆髪を長く伸ばし、括っていたのだ。そしてモザールを使い髪を整えていた。しかし、アイグルの髪にアランジしたような形跡はなく、髪の毛も無造作に伸ばしていた。アルムの男たちと比較すると、アイグルの姿はとても浮いていた。

「どういうことだ?」

アイグルは顎を引いて、マリアに続きを促した。

「ずっと気になっていたの。アイグルって、周りの男たちと違うわよね」

「…そうだな。たしかに、髪をこうしてることに理由はあるんだが」

アイグルは焚き火に視線を落とした。火が、パチパチと音を立てた。

火の光は、アイグルたちの顔をほのかなオレンジに染めた。目を伏せたアイグルは、シンクにちらりと視線をやって、再び手元を見下ろした。ややあって、

「今教えるのはまだ早い、かな」

その笑顔は、なんとも言えない表情をしていたので、マリアは何も言えなかった。

「さ、飯食うぞ。妹、何を作る?」

「デア肉の丸焼きにいたしましょう。兄さん」

兄妹の手によって振舞われたデア肉の丸焼きは、中まで火が通っていて大変美味しかった。



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