デアを狩ったけど、やっぱりなにかおかしい
マリアたちは結局、日暮れまでデアを狩っていた。3人でアルムの門に向かうと、アルムの国の民がわっと押しかける。
「マリア様これを全部狩ったのですか!」
「さすが!その腕は衰えてませんね」
「わーい!今日はデア肉だー!」
「この焼けたデアは…マリア様の魔術ですね。さすがです!」
アルムの民は、山積みにされたデアを見て大盛り上がりだった。
「みんな、喜んでいるわね」
「ええ。みんなデアの肉は好きですから。マリア様のことも」
キャナリは、背負っていた大量のデアを地面に下ろして答えた。そのデアの数は両手では数え切れない。マリアはキャナリの腕力に戦慄した。
「キャナリは筋肉増強剤でも飲んでいるんじゃないかしら」
「マリアー、重いよ手伝ってー!」
「こっちは反対ね…」
マリアは、デアを抱えてよろめくシンクの補助に入った。
「もうシンク、しっかりなさい。私より持ててないわよ」
マリアはシンクの抱えたデアを預かった。
「だって重いもん」
「あなた、メスの軽いデアしか持ってないのに…」
マリアはシンクの細い腕を見てため息をついた。マリアは、シンクは両手で剣を握っていたのを思い出した。筋トレなどもほとんどしていないのだろう。
「シンク、あんたしっかりしないとダメよ」
「へ?」
「戦いのことよ。私は偉そうに言える立場にないけれど…。シンクはもっと訓練に参加すべきだと思うわ」
「いいよ、いらないよ」
「どうして」
「だってマリアが守ってくれるもん」
「はぁ…?」
シンクは、体を伸ばしてマリアを見つめた。マリアはあっけに取られていた。
「僕はマリアといっしょに戦うし、マリアが危険なときは助ける。それでいいんだよ」
シンクはデアの山を眺めて、さらっと答えた。今日はいい天気だねと言っているような、自然な口調だった。
「シンク、あんた…」
「マリア様、デア肉を焼きましょう。焼いて調味料をかけると美味しいのですよ」
マリアはキャナリに腕を引かれた。兵士たちが火起こしをしている場所に連れて行かれる。
その日は、国中でデア肉祭りが開かれた。
夜。マリアはベッドに寝転んでぼうっとしていた。
思い出すのは、狩りを終えた後のシンクの発言だった。
(何か、引っかかるわ)
しかし、その引っかかりの正体は、わからなかった。
その日の晩、マリアは夢を見なかった。




