殺意上昇中
私がシロナに案内されたのは私の家の一室にも満たない小さな家だった。
話によるとシロナが使わせて貰っている家らしい。もともと空き家だったそうだ。確かにまだ人に馴染めていないような部屋の雰囲気をしている。家が一軒一軒距離が離れているためか、鳥の鳴く声くらいしか聞こえない。
モモゼは私が来たことを村の長老に話に行っているので、今は私とシロナの二人きりだ。
私はシロナに言われたため床に座り、シロナは棚を漁っている。
「謀反を起こされたお前がこんな田舎で普通に生活しているなんて。どういうつもりだ」
「うん?どういうつもりとは?お茶飲むか?ここのお茶はなかなか美味いぞ」
「本当にどういうつもり」
脳天気なシロナを私は睨む。
てっきり私は城を取り戻すために準備をしていると思っていたが、そんな様子は少しも見られない。
先ほども山にいたのは狩りに出ていたかららしい。
なに馴染んでいるのだこの男は。
シロナはいらないと言ったのに私の前にお茶を出すと自らも私の前にドカリと腰を落とした。
「私がこの件に関与していないって知らない訳ではないだろう」
「もちろん分かっているよ。君が俺の部屋に来るっていうから楽しみにしてたのに現れたのが自分の騎士を引き連れたクロムだったからな。しかも逃げる俺に容赦なく炎魔法を使ってきたのってハイリだろ。あれは本気で死ぬかと思った。なんとか良い村に流れついて助かることができたけど」
謀反は婚約者の地位を地位を利用して私がクロム様をシロナの元に導く方法で実行した。
さすがに馬鹿でも私が加担したことに気がついていると思っていたが、まったく私を敵視していないシロナに不安になったがやはり気がついていたらしい。そこまでの馬鹿ではなかったようだ。
「知っていて私を家に招くなど。私をなめているのか。憎くはないのか」
「いや、ハイリは女だからな」
シロナが私を女だと言った言葉に私の頭に血が上る。
「ふざけるな。私は男以上に優秀だ!お前のそういうところが私は大嫌いだ」
「けど、実際にハイリは女だろう。それに俺の婚約者だ。裏切られようとも傷つけたいとは思わない」
「はっ、本当にお前の頭はお花畑だな。後、訂正しておくがもうお前は私の婚約者ではない。王位を追われたわけだからな」
「あれ?そうなのか」
シロナは今気がついたというように驚いた表情になる。
「ってことはもしかして今のハイリの相手はクロムなのか」
「そんな訳がないだろう。クロム様は私が男として生きる事を認めて下さった。お前なんかとは違う」
「クロムがな……」
あいつがお前を男と見ることなんてそれこそないだろう。
そう呟かれたシロナの言葉は微かだったので私に聞こえはしなかった。
「けどそうか。ハイリはもう俺の婚約者ではないのか」
「当たり前だろう」
「うーん、俺としては別にクロムと喧嘩してまで王になりたいとは思っていなかったけど、ハイリを取られるのは嫌だな」
本当にこの男はわざとかと思うくらいに私の怒りを買うことをする。
なるほどこれまで何も動かなかったのは王位を取り戻そうと考えていなかったからか。
王になりたいとは思っていないだと、私を女という物でしか見ていないこの男をより始末してやりたいと思う。
私はシロナの背後に立てかけられている剣を盗み見た。
あれさえ奪い返せば。
コンコンと扉を叩く音が聞こえた。
「シロナさん、長老が呼んでいますが」
モモゼがシロナを呼びに来たらしく、シロナは私から目を逸らした。
その隙をつき、私は剣の元へ駆けだした。
あと少し!
形成逆転を確信したが。
それよりも早く大きな体の割に身軽にシロナは動き私の手首を捉え、捻りあげるとモモゼに聞こえないように私の耳元で囁いた。
「手荒なことはしたくないから大人しくしていてほしい」
ああ腹が立つ。