刺客、村に来る
一応男として生きていたので城の外に出ることはたまにはあった。
けれど、着くのに数日かかるような地域に行くのは初めてだ。
第一王子、よくここまで流されて生きていたな。
謀反の夜は大雨も降っていて増水していたから流れが速かったとはいえ、こんなに長い川路を流れ着いた第一王子のしぶとさに俺も思わず舌打ちをしたくなる。
村との間にある村に立ち寄ると俺は馬と共に部下にここで待つように指示をした。
何人も行くと目立つし、警戒される。
ついでにその村で俺は更に油断を誘うため女性の格好に着替えた。一人称も私に変える。
それに部下達は驚いていたが、私もこんな格好などしたくはないが今回ばかりは仕方が無い。
ちなみに私が女であることを知っているのは身内や私の使用人か王家に関係する身分の高い者だけだ。
村までは山道はあれどそこまでの距離ではない。
それに魔力だけではなく剣術も優秀な私だから魔物が出ようと余程のもので無い限り大丈夫だ。
この世界には獣の他に魔獣もいる。名前の通り、火を吐いたり、凍らせたりと魔法を使える獣だ。
けれど山奥に入らなければ出会わないものでそこまで数の多いものでもない。
だから草木の生い茂る山道を歩いていて心配はあまり無かった。
私はただ第一王子をどう始末するかを考えいた。
がさ、がさ
だから途中、道の端の生い茂る草木が揺れた時も警戒して持っていた剣に手をかけたが、野生の獣かと思った。
音の鳴る草木を睨みつける。
がさ、がさ
「あれ?ハイリ?」
私の名前を呼んで現れたのは人の良さそうながたいの良い男だった。
野生の第一王子だ。
現れた始末すべきに私は目をかっ開く。
「シロナ!」
私は剣に魔力を纏い、第一王子の名前を呼び捨てにして振りかぶる。
けれどそれをすぐにシロナは持っていた剣を使い防ぐ。
本来ならば鉄であろうと切れる私の剣だが彼も魔力を纏わせているため簡単に防がれてしまう。
私はすぐに距離をおく。
こんなにすぐに出会うのならば女の格好などしてくるべきではなかった。まだ旅装束なため動きやくすはあるが男の格好にくらべ動きにくい。
「待て、剣なんか持ってどうしたんだハイリ」
「お前を始末しに来たに決まっているだろう」
「え、始末?!なんで」
「すべては私のためだ!」
私は空中に炎の杭を無数に作り、シロナへと向ける。
このまま彼を生かす訳にはいかない。
「生まれた身分を憎め!」
そうして驚いているシロナを串刺しにするために私は炎を振りかぶった。
のだが、
バシャーーン!
私の炎は突然上空に現れた大量の水により消え去る。
そして、その水は私自身も塗らされた。
「け、喧嘩は駄目ですよ」
一瞬、目の前のシロナの攻撃かと思ったが、突然聞こえた可愛らしい声に違うことが分かった。
現れたのは見た目も可愛らしい女だった。
そういえば町娘に助けられたとの情報があったが、この娘の事なのだろうか。
しかし、こんな村娘がこんな強い魔法を使えるものなのか。
普通庶民なんてたまには例外もいるが魔法をほとんどのものが使えないはずだ。
しかも彼女の水魔法は後ろ手に私の手を拘束して離さない。
こちらも魔法を使って抗おうとするが強い魔法を使うには媒介が必要で剣を取り落としてしまったために拘束は外れない。
シロナ一人だと思って油断していたとはいえ、こんなただの村娘に私が。
「ふざけるな、魔法を解け」
私は村娘を射殺さんばかりに睨みつければ、私の目の前にまで歩いて来たシロナが着ていた村のものであろう安っぽい羽織を私にかけた。
「透けてるぞ」
「殺す!」
こんな時にも服が透けていることを気にする男を私は睨みつけた。