今、殺しに行きます
「第一王子が生きていただと」
謀反を起こしてからひと月、俺が王宮の廊下でこっそりと報告をしてきた一人の騎士に尋ね返すと、騎士は恐縮しながらも頷いた。
「はい、どうやらここから遠くにある川の下流の村娘に拾われたようでして」
「ならすぐに刺客を差し向けろ。……いや俺が直接行くか」
この国では身分が高いほど魔力も高く、いくら普段は王宮で暮らす王子と言えどもただの騎士では相手にならない可能性もある。それに王子なのだ。変に直前になり手を下せなかったり、逃がしたりしてしまう可能性もある。
ならば確実にと、覚悟も力もある俺が行くべきかと思った。
「何の話をしているのかな」
「クロム王子」
何という偶然か、話をしているとちょうど執務室に行くところなのか王子と偶然鉢合わせし、俺と騎士は彼に礼をした。
それを王子は軽く手で制する。
「君と俺の仲だろう。そんな畏まった礼をしなくても構わない」
謀反に協力して、俺の立場は前とは比べられない程高くなった。
王子の側近と言っても差し支えないだろう。それくらいにクロム様は俺を傍に置いてくれた。
「そういう訳には参りません。王子少し話したいことが。構いませんか」
「ああ、もちろん構わないよ」
そう言って柔らかく笑うと王子は自分の執務室へと俺を招き入れた。
二人だけになって俺は口を開いた。
「王子、第一王子がここから離れた村で生きて発見されたそうです」
「なるほど」
王子は驚くまでもなく静かに頷いた。それに俺は不思議に思った。
「驚かないんですね」
「あの兄が簡単に死ぬとは思わなかったからね」
ああ、しぶといな。
そう王子は面倒くさそうに漏らした。
「どうやらそこの村娘に拾われているそうです。そこで宜しければ俺が刺客として村へ行こうかと思いまして」
「君が?」
「はい、相手は王子です。下手な刺客を差し向けては良くないかと」
「……君なら確実に始末できると?」
「はい」
確かめるように俺を見るクロム様に俺はしっかりと頷いた。
これはクロム様の為だけではなく俺の為なのだ。
第一王子が生きているうちは謀反に協力した俺の身も危ない。
「分かった。君に任せよう」
王子は頷き、続けた。
「けれど俺を裏切らぎってくれるなよ」
「そんなはずがありません」
裏切るつもりなら手を貸してなんていない。
こうして俺は数人の部下を引き連れ馬を使い第一王子を殺す為に辺境の村へと旅に出た。