救出作戦
作戦が決まってから私達は静かにそれぞれの持ち場へ移動した。
私は子供の繭とは正反対の位置へと移動する。もちろん、子供の方から気を逸らす為だ。
近くで見るとやはりボス蜘蛛は大きいが、そんなことで怯む訳にはいかない。
二人が持ち場に付いたことを確認して、私は魔法で蜘蛛の大きな繭に火を放った。
繭は火柱を上げて炎上したが、余程繭は厚いようで中まで火は通らない。
しかし蜘蛛の気は引けたようで蜘蛛たちは横に伸びる牙を鳴らすと、キイキイと鳴き私へと一目散に襲いかかってきた。
黒い波が私へ押し寄せる。
「虫けら風情が私に勝てると思っているのか!」
私は剣を二つに分ける。
この剣は金具を外すと双剣になる仕組みをしている。私は剣を二刀で扱うことも得意だ。
両手に剣を持ち換え、私は蜘蛛の魔物へと斬りかかった。
振り下ろされた鋭い前足を燃やし斬り、丸い胴を貫き、雑魚を蹴散らす。一匹一匹は大したことはない。
けれど、シロナにああは言ったものの、やはり一人でこの数をまともに相手していてはきりが無い。
とにかく子供を逃がす時間稼ぎができたら良い。
後は私が撤収すれば良いことだしな。
「っ!?」
しばらく戦っていた時だった。
突然片足が上がらなくなったかと思うと、下を見れば足が蜘蛛の糸によって地面に縫われていた。
見れば一歩も動かずに離れたところにいたボス蜘蛛が弾丸のように高速で私に糸を吐き付けていた。
私は急いで足に魔力を注ぎ糸を焼き切るが、その間に剣を持つ手にも糸を吐きかけられ体勢が崩れる。
その隙を狙い、近くにいた蜘蛛が、私を切り裂こうと前足を上げた。
避けられない。
ガンッッ
金属同士がぶつかる音がした。
私を背後から逞しい片腕で抱きしめながら、もう片方に持つ剣でシロナが蜘蛛の腕を弾いたのだ。
「俺の妻に何をする」
普段なら妻ではない!と反論していたが、シロナの声が地を這うように低く怒気を滲ませる初めて聞いた声色で言葉が出なかった。
「子供達は助けてモモゼに託した。もう大丈夫だ、ハイリ」
シロナは静かに庇うように私の前に立つと振り返らないままそう言った。
「よくやった。後は俺が殿を務めるから逃げるぞ」
逃げると言いながらもシロナは背を向けたまま動かず逃げる様子がない。警戒して距離を一度取っていた蜘蛛が前足を地面に叩きつけながら、じりじりと近寄る。
なんとなく、シロナはこのまま蜘蛛と逃げずに戦うような気がした。
お優しいシロナの事だからそれは私の為であり村人の為なのだろう。
「はあ?強い私の方が殿を務めるに決まっているだろう。馬鹿にするな」
私はシロナの横に並び立つ。
「ハイリ、少しは俺の言うことを聞け。君は俺がやられた方が都合が良いだろう」
「嫌だ。誰がシロナの言うことを聞くか。大体、ここで逃げたら負けた気がして嫌だ」
「わがままを言うな。だからハイリは子供なんだ」
「そういうことを言うから私はお前が嫌いなんだ」
本当に腹が立つ。
すぐにシロナは私を弱い存在だと決めつける。
「子供ではないから、私は私の考えで動く」
言われた事に素直に従っていた前が頭に過ぎるが、それを振り払い私は前を見つめる。
乗りかかった船だこんな魔物私がすべて駆逐してやる。
そう意気込んだ時だった。
私が初めに燃やした巨大な繭に雷の光が走った。
それに驚いた場にいた全てが繭を見る。
「グルルル……」
唸り声を上げて中から現れたのは、真っ白く美しい金色の目を持つ小さなドラゴンだった。