竜山ダグトーリア
拐われた三人の子供を救出するために、私達はすぐに準備をして日が上るのと同時に竜山ダクトーリアへ向かった。ダクトーリアは青々と木が生い茂り、ゴツゴツした岩の多い荘厳な山だ。
「モモゼ。竜山と言うが、本当にドラゴンはいるのか?」
「はい、そう言われています。私は見たことはありませんが」
シロナとハイリが会話する。
ドラゴンとは聖獣と呼ばれる希少な生物である。1000年は優に生きるとも言われる長寿で、魔力も知能も人より高い。
だからこそ、言葉に出さないがここにドラゴンはいないのではないかと私は思っている。
確かにドラゴンがいそうな雰囲気はある山だが、もしドラゴンがいるのなら誇り高いドラゴンが自分の縄張りを魔物の住みかにするだろうか。
「ハイリ、大丈夫か?」
「これくらい問題無いに決まっているだろう」
「そうか、俺が無理やり連れて来たようなものだからな、何かあったら言ってくれ」
「貴様じゃない。私が来ようと思って来たんだ」
「ああ、ありがとう」
「……子供を助ける前に燃やされたくなければ無駄口を叩くな」
私が睨みながら言うのにどこか嬉しそうにシロナは笑った。
シロナの考えが読めない。
何度も始末しようとしているのにこの自分の身を気にしてなさ具合はどうなのか。いや、もしかしたらこれは私の油断を誘うためのものかのかもしれない。
今回はクロム様の為もあり協力するが、シロナは敵だ。気を付けなければ。
「あの、ハイリさん」
「なんだ」
「私からもお礼を言わせてください。一緒に来てくださり、それに夜も村を守ってくれてありがとうございました」
「別に全部私の為だ。感謝される謂れはない」
「それでもありがとうございます」
モモゼはお礼を撥ね付ける私に重ねて礼を言うとまるで聖母のように優しく微笑んだ。
初めは雑談をしていたものの森が深くなるにつれて阻む魔物の数も増えていき、そんな暇は無くなっていった。
私達は魔物を倒しながらも子供を探す。
しばらく歩き回っていると、先頭にいたシロナが手で私達を制した。
木陰から様子を伺うとそこには村を襲った大きな蜘蛛がたくさんいた。そしてその真ん中に村にはいなかった他の蜘蛛の倍はありそうな炭のように真っ黒の巨大な蜘蛛がいる。
あれが蜘蛛のボスなのだろうか。
蜘蛛近くにある木には複数の半透明の繭が垂れ下がっている。
その中の3つは人形が見えるのでおそらくあれが村の子供だろう。
「蜘蛛と繭の位置が近いな。俺が囮になるから二人がまず子供の救出をして貰っていいか」
「いやここは全員で行くべきだ。あの敵の数もあるし、せっかく手に入れた食事を見す見す殺しはしないだろうからな」
「だがもしもの事もあるかもしれない。子供の安全が最優先だ」
確かにそうだが。
私は蜘蛛の様子を眺めると、巨大な蜘蛛の背後に大きな中が見えないくらいに分厚く巻かれた繭が見えた。
「あの繭はなんだ」
「蜘蛛の卵でしょうか」
モモゼは首を傾げて言う。
確かに蜘蛛に守られるようにしてあるあれはその可能性が高そうだ。
「なら私がアレを燃やして蜘蛛を怒らせて引きつけよう。その間にお前達は子供を助けろ」
「それだとハイリが危ないだろう。やるなら俺が燃やす」
「炎魔法は私の方が上手だ。私が行う方が確実だろう」
シロナは王族なだけあり魔力も強力で全要素の魔法を使うことができるが、性格もあるのかあまり細かな所作はできない。
私がやるべきだ。
そう言うとシロナは渋々ではあるが頷いた。
「無理だけはするなよ」
「これくらい無理な事があるわけないだろう」
こうして作戦は定まった。