世界を壊わそうと思います。
よく物語では正義と悪役が描かれる。怪盗と探偵、海賊と海軍、勇者と魔王など。
そしてほとんどの人間が正義側に立ちたいと思っている。
俺の自己紹介をすると、俺は貴族の末子だった。
表向き豊かなこの国では魔法というものが存在するが、俺は人一倍魔力が強く、神童と囁かれるほどに人よりも賢かった。
けれどこの国では先に生まれた者の方が権威は強く、俺は自分より劣る兄に従い影にいなければならなかった。俺の方が努力しているのに、俺の方が優れているのに。
そんな内心を抱えたままも静かに生きてきた齢15の日、俺を見つけ話しかけてきたた男がいた。
名前はクロム・アルファ。
この国の第二王子だった。
クロム様は俺を唆すように提案した。
この世界を壊さないかと。
この時はクロム様が第一王子を退けて王になりたいからの提案だと思っていた。彼も第一王子がいるかぎり王にはなれないから。
俺はだから頷いた。俺も何もかもを壊したかった。
謀反を起こすと計画を実行に移した日。
それはあっさりと事が進んだ。
俺のように力を持ちながらも生まれのために表へ立てない者や、それを慕う使用人や騎士なとが協力してくれたからだ。俺を慕ってくれていた数人も手を貸してくれた。
しかし、肝心の王にはどうやら隠し通路があったようで逃げられてしまったが。
いや城の裏手の流れの川に飛び込んで逃げたので生きながらえているのかは怪しいが。
第一王子が消えた後は床に伏せる王しか残されていないのでクロム様が王となることだろう。
「念のために第一王子へ追っ手を差し向けます」
「ああ、ありがとう」
俺の言葉にクロム様は静かに、息を吐くと俺へとまるで対等であるかのように並び立ち感謝の言葉を口にした。
「君がいなければこの謀反は上手くはいかなかっただろう。感謝している」
「いえ貴方の力でしたら俺がいなくても成功していたでしょう」
それだけこの第二王子への人望は厚い。
確かに税を軽くしたり、城を抜け出しては市民と交流するほどの人柄の良い第一王子を慕う者も少なくは無かったが、それが逆に反感を買っていた。
「これで君も自由になっただろう。何がしたい。お礼に君の願いも叶えてあげよう。何でも言ってくれ」
「でしたら」
ところでこの国では王の嫁になる女は婚儀を迎えるまでは男として振る舞うという慣習がある。
おそらくは婚儀前に変な気を起こす可能性減らすためのものだろうが。
だから俺は、男のように振る舞ってきた。
別に第一王子に不満があった訳ではない。俺が喜ぶ物を恥ずかしげに送ってくれたり、俺が男としてだが時々外に連れ出したり。優しい男だった。けれどそれはお互いに愛とかでは無かっただろう。ただの義務的な関係、向こうとしては優しい性格だから俺を気遣っての事だろうが。
優しい人を下すことに罪悪感を覚えなかったと言えば嘘になるが、彼がいては俺は女としてただの籠の中の鳥でしかいることができなかった。
だから。
「俺はこれからも男として貴方を支えたいです」
第二王子が第一王子を廃して王と成るのだ。
これこらも彼への風当たりは小さくはないだろう。
だから俺を男として俺の力を評価してくれるクロム様を俺は王としたい。
「君がそう望むのなら」
クロム様はそうどこか寂しげに微笑むと俺の願いを受け入れてくれた。
「ありがとうございます、クロム王子」
これが悪だと罵られようが俺は。