「汽車」No62
田舎の街、夜の列車。私は窓側の席に座っていた。
月と星の明かりが車内を薄暗く照らしている、私の他には客はいないようだった。
私はぼーっとしながら、ただ走る列車から見える畑の地平線を見つめていた。
「そこの方。」
私は突然に声をかけられてビクッとする。
「隣、いいかい?」
とても幼い声が聞こえた。
その少女は野暮ったい茶色のローブに見を包んでいて、口元は見えない。奥に金色の目がキロキロと光っている。
こんな広い列車の中でわざわざ隣に座るなんて、とも思ったが、どうせこの人も私と同じ、『どうしようもない人』なのだろう。
「…いいですよ。」
私は同族意識で返事をする。
ローブの少女は「よっこらしょっと」と言いながら私の隣に座る。
「いやはや、すまないね。月の光が苦手なもんで。あんたの影でやり過ごそうと思ってね。」
それっきり少女は黙ってしまった。
列車はガタゴト、キーキー言いながら進む。私は相変わらず外を見ていたけど、隣のローブ少女のことが気になってあまり集中出来なかった。
隣の少女が動く気配がなかったが、列車が大きく揺れたのと同時に、私のほうに体重を置いてきた。小さな寝息がスースーと聞こえる。
私はあまり悪い気がしなかったので、そのまま列車に揺られていた。
「おい、あんた。起きなよ。」
頬に草が軽く当たるような感覚と、少女の声で私は目を覚ました。
目の前にローブの少女がいて、私の頬をパシパシと叩いていた。
「終点だよ。」
私はゆっくりと外の風景を見る。本当かどうか分からないけど、とにかく見たことない景色だ。
駅のホームはとても小さくて、すぐ目の前に無人の改札があった。私は切符を取り出す。
と、そのとき、少女に声を掛けられる。
「あんた…家には帰らない気だろう?」
なかなか鋭い少女だ。
「そうだけど、あなたもでしょう?」
ローブの少女は、少しもじもじした後、今までとは違う、弱々しい声音でこんなことを言った。
「一緒に…行かない?」
私は少し驚き、少し安心した。
「…行こうか。」
私達は一緒に改札を通った。
ホームを降りると、そこは見知らぬ街だ。
少女は私の影に隠れて歩く。
夜が明けたらすぐ別れるかもしれないけど、
ここから新しく始めよう、私はそう思った。
お恥ずかしながら文章の仕事を目指しています。先はまだまだまだ遠いですが、一生懸命1歩ずつ頑張りたいと思います。アドバイス等をどしどし下さると助かります。
コメントも一言貰えるだけでモチベーションが凄く上がるので、お暇であればお気軽にお願いします。