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08 迷宮の怪物

 08



 ***



「ぬおおおお―――っ」

「キュエエエエエ!!」


 冷たい洞窟で、僕は叫んでいた。

魔族羊シプレ・ケローン》と斬り結んでいた。


 僕は老人に言いはなっていた。答えた。『そんな冒険―――精霊は喜ばない』と。

 剣を握りしめる。

 誰かを陥れる冒険なんて―――〝僕ら〟の冒険じゃない。


 断言できる。

 誰かを出し抜き、格上の魔物を押しつけ…………たとえ、こちらに《原石を手に入れられる恩恵》があったとしても、それはしない。

 洞窟の奥の地形を利用して、誰かが貶め。罠にかけたりしない。たとえ見捨てられたとしても。それで、僕までが染まったりしない。


 だから、拳を握りしめる。

 ―――愚かだろうが。なんと呼ばれようが。正々堂々と戦う。


 魔物を倒す。それでこそ――手に入れた『原石』なんだ。



 ……それが、僕の冒険なんだ。



「…………………………、ほう」


「僕は戦います。……ご老人。

 だから、今のうちに逃げてください。

 ――正直。僕なんて冒険のことがちっとも分かっていない若造です。『駆け引き』なんて、知らない。……だけど、そんな駆け出しの冒険者が、譲りたくないものが一つだけあるんです」


「…………」


「掴みたい冒険があるから。手に入れたい、『景色』があるから――僕は戦うんです。あの子を学生寮から連れ出して、―――今まで見てなかった『景色』を見せてやる義務が、《冒険者ボク》にはある」


 ―――《聖誕祭》だからこそ。

 いや、こんな特別なときだからこそ。


 僕は思えるのだった。


 冒険者つかみ取る景色。それは、この先も、もっと、もっと鮮やかに存在している。



 …………きっと、見せてやる。

 汚い手段ではなく。正々堂々と―――《上級冒険者》になって。だッ!



「…………………………………………………………、ふむ」



 老人は、静かに瞳を閉じていた。

 わずか一瞬。―――ほんの、呼吸一つ分の戦場で。その衝撃に耐えるように息を漏らすと、『……なるほど』と。呟いた。


 瞳を、開く。

 今まで細められ、眠そうだった瞳が―――〝覚醒〟する。



「………………見事なり」


「え」


「誇るといい。どの冒険者にも負けぬ―――それが、お主の立派な冒険りゆうじゃ。セルアニアの〝英雄〟に肩を並べる――強い子じゃ」


 老人は言った。

 そして、何かが吹き荒れた。



「……………………、え?」



 一瞬。

 僕の横で、何かが吹き抜けていった。

 

 そして、目の前。《魔族羊シプレ・ケローン》の――――右腕が飛んでいた。


(……え?)


 経験値の放流――――そう、魔力マナの光が結晶の洞窟に渦巻き、そして次々と吸い込まれていく。そう、ここは〝魔力マナ・無効〟の力場が渦巻いているダンジョン。その洞窟。魔物の切り落とされた部位からこぼれる魔力マナすら、容赦なく吸収してゆく。


 …………だが、これは?

 …………この現象を、引き起こしたものは、なんだ……?



「―――『その聖剣の業は、風のように。しなやかな剣技は水のように。心は、麗しき緑のように』――」

「…………な、」


 老人が。


 老人が、――その『剣法』を――口ずさんでいた。


 回転斬りをする。剣の暴風が吹き荒れ、洞窟ですれ違いながら『掬い上げた』―――。僕の目で追えたのは、そこまでだった。


 直後。『――――キュエエエエエエエエエエ―――ッッ!!』と魔物の声が洞窟に反響している。《魔族羊シプレ・ケローン》が、地に屈服した。無数に切り傷を受けて。


  …………なんだ。

 いったい、なんだったか。それは。


 戦いが迫る緊張の瞬間で。まるで歌うように―――そっと老人は口ずさむ。驚くほど、優しく、荒々しい剣技を披見しながら。


 ……誰かが言っていた。誰だ。……そうだ。思い出す。


(―――確か、寮母さんに。前に聞いた、《外の王国で活躍したときの、ある聖剣使い口癖》―――)


 老人は洞窟を移動し、それを振り上げる。

 背中の『布』が、遅れてこぼれ落ちるようにとれていた。背負っていたものの正体が明らかになる。豪華な装飾がされたそれは―――《大聖剣クレイモア》であった。青色の装飾、《剣島都市サルヴァス》の竜の紋章。―――金色の縁。


 ボロボロの衣服の上には、はるかに不釣り合いなほどの、荘厳な聖剣が現われていた。老人は解放する。かがみ込み、振り上げながら使う。《魔物》の反撃と切り結ぶ。自身が回転しながら、洞窟を渡ゆく。


(……た、大剣だと……?)


 僕は驚く。

 それを持っている冒険者は多くはない。なにせ、扱いの難しさと。決定打に『魔物』との相性が悪い。なにせ―――〝使い回し〟と〝回転の速さ〟が普通の剣と違うからだ。

 だが、当てれば。それこそ―――最強の武器となる。


 絶対に外さない、一撃必殺の〝英雄の武器〟となる。


 老人は、静かに構えていた。



「我が名は、冒険者ハザード。〝灰の老兵〟―――ハザードなり。駆け出しの冒険者よ、―――オヌシの前途めいうん、わしが切り開こう」





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