表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

07 迷宮の罠

 07




  ***



「のわああああああ――――っっ!?」


 僕らは、洞窟を絶賛・逃げ回っていた。


 まさかこんな事態になるとは思わない。全力で振り切るように走って――それから、待ち伏せして魔物を相手に斬り結んでいた。老人を逃がす時間を稼ぐためだ。回転斬りを加えた。


 だが、


「――っっ、き、きいてねえ!?」

「ギュエエエエエエエ!!!」


 《魔族羊シプレ・ケローン》は、とんでもない強さだった。

 ……これ、ひょっとしてヤバくない? 冒険者として《聖剣強化》した状態でも、ひょっとして負けがありえたんじゃない? そんな予感を覚えてしまう魔物であった。

 僕は〝ダメージ〟を与えられない一撃を叩き込んでから、離脱する。


「―――お爺さん! しっかり、つかまっていてください! 逃げますよ!」

「ほい、ほい」


 ぬおおおおお―――っ。と咆吼して駆け抜ける。


 結晶の洞窟には、他にも《魔物》がいるはずだった。――だが、《魔族羊シプレ・ケローン》の不気味な悲鳴が響くと、影をひそめて出てこなかった。魔物は僕の後ろを『爪』を振りかぶって追いかけてくる。

 僕はお爺ちゃんをつかんで逃げていた。…………というか、風圧と勢いに浮くように老人がつかまっていた。


 …………だが、その逃走劇も、もう終わろうとしている。


 僕らの目の前に、洞窟の『壁』が現われたのだ。

 ピタリと足を止め、周囲を見渡す。…………壁、壁、壁。どうやら、行き止まりにきてしまったらしい。


「……くそ」


 ―――まずい。

 吐き捨てる。『原石』を求めて奥まできたが、もうこれ以上は…………限界みたいだった。

 かくなる上は、この老人だけでも逃がし。僕だけが、この場に踏みとどまって戦うしかない。呼吸を落ち着け、考える。―――《魔族羊シプレ・ケローン》の攻撃は……耐えられて、三回。


 僕は、構えを取る。


「ふむう。魔物は―――上位の攻撃力を持つ、《魔族羊シプレ・ケローン》。

 こちらは精霊のステータス強化を封じられており、そして地形は――彼らの得意な洞窟の内部。ワシらは知らぬのに、彼らは熟知しておる。……む、これはひょっとして!」


「な、何か分かったんですか……!? お爺さん!」


「絶体絶命、というやつではないですかのう!!?」


「―――んなこと、言われなくても分かってますよ!!!!」


 僕は手をわななかせて、告げる。

 …………言われなくても分かっている! だからこそ、こうやって僕が頑張って踏みとどまろうとして。戦う決心をつけたのではないか。

 正直、僕だって怖い。《魔族羊シプレ・ケローン》なんて強い魔物と戦いたくない。《剣島都市サルヴァス》学院の授業でも、『出会ったら、逃げるように』なんて教えられていた魔物だった。


 …………だが。



「お爺さん。このままでは、終わってしまいます。…………僕が時間を稼ぎます。なんとか、ここから逃げ延びてください」


「ほう。…………やはり、厳しいですかのう?」


 ―――厳しいだろう。

 僕はチラと、追いかけてきている《魔族羊シプレ・ケローン》を見る。……この状況は、最悪と言わねばならない。


 僕は真剣な顔に戻っていた。


 ――押しつけられた。

 それだけが、この状況に相応しい言葉だった。あの冒険者たちは先に向かっている。うかつだった。言い訳のしようがない。

魔族羊シプレ・ケローン》のいる洞窟で、もっと慎重に行動していたら、この事態は避けられたかもしれないのに。


 ―――剣が通じない。

 この洞窟から、生き延びれることから考えねばならなかった。


 そして、


「ほう、ほう。……じゃが、なんで。どうして……冒険者様は、こんなよぼよぼの薄汚いジジを助けるので? 見捨てて、エサに、さっさと逃げてしまえばいいものを」


「…………それは。僕の冒険があるから」



 僕は思った。


 ―――もともと。この結晶の洞穴には、『精霊』への贈り物を求めてきた。


 ……それが、冒険することしかできない〝僕〟にやれる、唯一だと思ったから。先ほどの洞窟での老人の言葉で思い出していた。…………だが、それでも、麓の食事店で見たような冒険者たちや、相手を出し抜くために競う冒険者もいる。


 ――そうだ。冒険者たちは、〝競争相手ライバル〟なのだから。

 間違っちゃいない。

 ……何も、間違っちゃいないんだ。


 ………………でも。

 だからこそ、『やる』か『やらない』かを決める権利は僕にある。

 僕は思い出していた。精霊の顔が浮かんだ。……そんな冒険をして、喜ぶわけがない。

 悲しむだろう。その顔が見えた気がした。


 ……だったら。



 僕は、剣を握りしめた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ