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君と僕等を、繋ぐ線。  作者: 中め
6/7

混線。


 社に戻り、豪快に「はぁー」と溜息を吐きながら自分のデスクに突っ伏していると、


「ただいま戻りましたー」


 私の代わりに取材に行ってくれた北村さんの声がした。


「お疲れ様です、北村さん。取材、交代して頂きありがとうございました」


 身体を起こして隣のデスクに座った北村さんに頭を下げると、


「浮かない顔だね、畑田さん。あのブログ、桜沢悠斗に見せたんだよね? どうだった? その表情を見る限り、あんまり良くない反応だったことは伺えるけど」


 北村さんは、悪い報告を確信しながらも、私の報告を待った。


 私のしたきとは余計でしかなかったんじゃないか。自分の後悔を織り交ぜつつ、桜沢悠斗の事務所で起こったことを北村さんに話す。


「浅はかでした。私、『きっとあのブログを見れば、桜沢悠斗は歌ってくれるはずだ』って思ってました。でも彼は、歌う気にもならなければ、私の汚い腹の内を見透かされただけでした」


 手柄を立てたかったわけじゃない。だけど、桜沢悠斗の言う通り、私はあのブログで桜沢悠斗の気持ちは動くと思っていた。


 傷付いた人間の気持ちを、そんなに簡単に動かせるはずがないのに。


「で? 諦めてノコノコ帰ってきたの?」


「え?」


 思いもよらぬ北村さんの返しに顔を上げる。


 正直、北村さんなら「まぁ、しょうがないよ」的な言葉を掛けてくれると思っていた。


「畑田さん、秋は家族にも恋人にも誰にも知られたくなかった気持ちを、なんで名前まで変えてわざわざブログに残したんだと思う?」


 なんなら、ちょっと呆れ気味に質問をしてくる北村さん。


「大事な人には知られたくないけど、知らない誰かでもいいから自分の気持ちを吐き出したかった……とかですかね」


「まぁ、普通に考えてそんなところだろうね」


「……それが?」


「え? 俺がいいたいこと、まだ分かんない?」


 北村さんが『バカなの?』とでも言いた気な顔で私を見た。


 そんな顔をされても、サッパリ分からない。


「~~~だーかーらー。秋は、桜沢悠斗に歌い続けて欲しいと願いながら死んだわけでしょ? 秋はさ、知らない誰かにこの願いを託したわけではないかもしれないけれど、でも想いは残したかったわけじゃん。で、3年かかって畑田さんに届いた。畑田さんがどうにかしなきゃ、秋の願いは叶わない」


 答えを導き出せない私に、北村さんが解答。


 ……そう言われましても。


「北村さんにも届いたじゃないですか。私経由で」


 だって、私の力ではどうにもならない。


 現に、どうにもならなかったし。


 北村さんの協力を仰ぐ。


「本当に畑田さんはアホだよね。自分1人の力で桜沢悠斗を歌わせることが出来たら相当な手柄なのに。まぁ、一応先輩だから手伝うけどね。畑田さんとは違う俺の目線で秋の資料見たら、また違う発見があるかもしれないし」


 何だかんだ優しい北村さんが、私のデスクの上に積まれていた秋の資料ファイルをパラパラと捲った。


「散々私のフォローしてくれたんだから、万が一桜沢悠斗が歌うことがあったとしても、私だけの手柄のわけないじゃないですか。そもそも、手柄とかどうでも良いんですけど。ただ単に、桜沢悠斗の歌が聞きたいだけですもん」


 北村さんが秋の資料を読み始めた為、自分がやらないわけにもいかず、頬杖をつきながらパソコンに保存された秋の情報を眺めた。


「徹夜までして探し当てた後輩の手柄を恵んで欲しいと思う程、俺はダサい人間じゃないっつーの」


 私が見落としたであろう何かを「ちょっと集中するから黙ってて」と、懸命に見つけ出そうとしてくれる北村さんが先輩で、本当に良かったと思った。


 

 しかし、2人で力を合わせて資料を探っても、桜沢悠斗の心が動くだろう秋の言葉を発見することは出来なかった。


「……ないね」


 北村さんが親指と人差し指で眉間を摘みながら、疲れた顔を見せた。


 あれから何時間秋の資料を読んでいたのだろう。


 時刻は終電の時間まで迫っていた。


「今日は帰ろうか、畑田さん。2日連続でお風呂に入らないのは、女子としてさすがにダメでしょ」


 北村さんがパソコンの電源を落とし、帰り支度をしたので、


「そうですね」


 私も一緒に帰ろうと、秋の積み重なった資料をデスクにトントンとぶつけながら整えていた時、


「……」


 また、あの記事が目に入って来た。


「……北村さん。私、やってみようと思うことがあるんですけど……どう思います?」


 記事に書いてあった言葉で、1つ思いついたことがあった。


 北村さんに相談すると、


「まぁ、それは誰かに迷惑がかかる事じゃないし、別にいいとは思うけど……。上手く行くかなぁ。時間も超かかりそうだし」


 難色こそ示さないけれど、私がやろうとしていることに成功の可能性を感じていない様子の北村さん。


 私もそんなに上手く行くとは思っていないけれど、もうそれしか思いつかないわけで。


「でも私、大学で4年間勉強しましたし‼」


 +αの試みも付け加えると、


「そっか。今になってやっと大学で勉強が役立つね。そうすれば、時間もちょっとは短縮出来るかもね。成功するといいな。……でも、無理すんなよ。あーあ。結局何の力にもならなかったなー、俺」


 北村さんも納得してくれた。


「そんなことないですよ、北村さん‼ 協力してくださいよ‼」


 北村さんの腕を掴んで揺する。


「……え。あぁー。俺、あんまり好きじゃないんだけどなー、そっちの分野。……でもまぁ、人数は多いに越したことないもんな。里中とか菊池にも声掛けとくわ」


 後輩思いの北村さんは、若干の嫌々感を出しつつも協力してくれるらしい。


「実は私も、放置状態でして……」


 斯く言う私も、得意なタイプではない。


 2人共少々の不安を抱え、苦笑いをしながら今日のところは解散した。


 私の作戦は実を結べるのだろうか。


 でも、やらなきゃ何も起こらない。


 秋さんの願いも叶わない。



 アパートに帰って、2日ぶりのお風呂に入って、スッキリしたところでベッドには入らず。


 昨日も徹夜だったというのに、アパートへの帰り道で寄ったコンビ二で大量に買った滋養強壮ドリンクを机に並べ、寝る間も惜しんで作戦実行。


 少しでも早く、秋さんの願いを、私の願いを叶える為に。


 こんな日が何日続いただろう。


 寝不足が続いて白髪も出たし、ランチタイムも移動時間も活用してせっせと作業したから、全然身体を休められなくて、疲れが溜まりすぎてしんどかったけど、でも嫌じゃなかった。


 誰に頼まれたわけでもなく、自分で勝手にやっていることだし。


 下準備が出来たところで、北村さん、里中さん、菊池他、その家族や友達、もちろん私の周りの人間をも巻き込みつつ、いざ決行。


 上手く行け‼

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