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君と僕等を、繋ぐ線。  作者: 中め
2/7

光線。



 ネットの情報は本当に早い。誰にも止められない。


 俺は一部の人たちの中では【オタクロッカー】というレッテルを貼られてしまった。


 それでも、良い曲さえ作れば世間を黙らせる事が出来るはずだと自分に言い聞かせ、曲を作り続けた。


 そんな批評で音楽をやめられるほど、俺の音楽愛は薄くなかった。


 俺はまだまだ曲を作れる。


 何があってもこの世界にしがみ付く。


 そんな中、がむしゃらに音楽に取り組む俺の神経を逆撫でるかの様な仕事のオファーが来た。



【元ボカロP・桜沢悠斗&人気ネット小説家・秋のスペシャル対談】と銘打った雑誌の企画だった。


 払拭しようと躍起になっているオタク臭を、さらに色濃くするだろう、この雑誌企画。


 新人の俺に、拒否権などあるわけがなかった。


 対談前日に秋の資料を貰ったけれど、全然やる気になれないくて、チラっと見てその辺の机に投げ置いた。


 どうせ、デブでブスでダサいメガネ女が来るんだろ。


 当日、全くテンションを上げられず、面倒くさい思いだけの状態で対談に臨む。


 マネージャーに連れられ、用意されたスタジオに入ると、俺らを待っていた雑誌記者にソファー席に案内された。


 言われるがまま席に向かうと、【秋】らしき女性が既に座って待っていた。


 俺の気配に気付いた秋が立ち上がり、


「初めまして、秋です。宜しくお願いします」


 笑顔を向けながら会釈をした。


 デブでも、ブスでも、ダサくも、メガネでもなかった。


 むしろ、割とオシャレで、普通に可愛かった。


 なんなら、ちょっとタイプだった。


「桜沢悠斗です。こちらこそ、宜しくお願いします」


 秋と握手を交わして、2人でソファに腰を掛けた。


 今日の対談は、対談というだけあって、記者の質問等はなく、2人で話を進めなければならない。


 秋の資料、もっとちゃんと見ておけば良かった。


 秋のことを何も知らない上に、自分好みの秋に緊張して、何を喋って良いのか分からない。


 そんな俺を見兼ねてか、


「桜沢さんって、そのまんま【サクラザワ】さんなんですね。【オウサワ】さんじゃないんですね」


 秋の方から話掛けてくれた。


「秋さんも【アキ】じゃなくて【シュウ】さんなんですよね」


 一瞬だけ資料を見ていたから、名前の読み方だけはかろうじて覚えていた。


「私は本名じゃないんですけどね。ちゃっかり偽名です」


 ヘヘッといたずらっ子の様に笑う秋。


「偽名て。ペンネームっしょ」


 そんな秋に突っ込みを入れると、また秋が笑ってくれるかた、一気にその場の空気が和やかになった。


 後で秋に本名を教えてもらおう。



 今思えば、可愛く感じの良い彼女に、この時オレは一目惚れをしたのだと思う。



「……あの、実は私、桜沢さんを存じ上げていなくて、資料を貰ってから桜沢さんの曲聞いたんです。あ、サク名義のボカロ曲も聞きましたよ」


 秋が、申し訳なさそうな顔をしながら俺を見た。


 ……て、俺なんて資料すら見てないから、秋の作品1コも読んでない。


 申し訳ないのは、むしろ俺の方だ。


「……ボカロ聴いてどう思いましたか? ……オタクだなって思いませんでしたか?」


 目の前の、ちょっと好きになりかけてしまっている秋に、そうは思われたくなくて、早々に確認をする。


「そういう桜沢さんは、私のことをどう思いますか? 『ネット小説なんか書いて、腐女子め』とか思いませんでしたか?」


 秋は、俺の質問には答えずに質問を返してきた。


「……スイマセン。ちょっとだけ思ってました」


 秋がさっきの俺の質問に気を遣って嘘を言わない様に、先に正直に白状。本当はちょっとどころではなかったけれど。


「……やっぱり。そりゃあ、中にはいますよ。でも、大概普通の人が暇潰しに書いたり読んだりしてるんですよ、ネット小説って」


 秋が唇を尖らせる仕草をしつつも、「別に気にしてませんけどね」と笑った。


「ボカロだってそうですよ。オタクもいるとは思うよ。だけど、ただ音楽が好きなヤツとか、人間が刻むことの出来ないリズムの音楽を作りたいヤツとか、ボカロのキャラの声が純粋に好きだってヤツとかが好んでいるだけですよ」


「イヤイヤイヤイヤ。私がいつボカロを悪く言いました?」


 日頃、ボカロに対する偏見に辟易していた為、つい熱く弁解してしまった俺に、秋が若干引いてしまった。


「……あ、ごめん。オタクに見られるのが嫌でつい……」


 慌てて謝るオタクに、


「オタクに見られるの、何で嫌なんですか? 何でそんな蔑視するんですか? オタクは、差別されるべき存在なんですか?」


 秋が真っ直ぐな視線を向けた。

 

「何故か蔑視されるから、オタクに見られたくないの」


 今度は俺が唇を尖らせる。


 俺だって、変な目で見られないんだったら、胸張って『オタクです』って名乗ってるっつーの。


「ネット小説を書く人が、読む人が、ボカロ曲を作る人が、聴く人がオタクだというのなら、私はオタク様様です。オタクのみなさんが私の小説を読んでくれたお陰で、私は今、一生関わることもなかっただろうアーティストの桜沢さんと対談が出来ている。アレですね。中途半端なオタクでいるからいけないんでしょうね。私たちみたいに、拗らせて突き抜けたオタクになれば、それが職業になってお金になりますもんね」


 秋が「いいじゃん、オタク。アナタも私もオタクでいいじゃん」と俺を(自分もだけど)オタクに仕立て上げながら明るく開き直った。


「……ポジティブー」


 俺には出来ない考え方に呆気に取られるも、秋の言葉で心がスっと軽くなった気がした。


「ネットって、オタクだの何だのって、時々物凄く辛辣な言葉で攻撃してくるけど、でも私は、そのネットがあったからここまで来られました。私は、オタクとネットの力を信じてる」

 

 力強くそう言って笑う秋。


「……俺も」


 俺も、ネットがなければ、こんなに最高な環境で音楽は出来ていなかったかもしれない。


 ネットとオタクに感謝。


 それを教えてくれた秋にも。


 秋に出会えて良かった。



 ------------------対談後、秋と連絡先の交換をした。


 頻繁に連絡を取り合って、デートを重ねて、当たり前の様に俺と秋との付き合いが始まった。


 中学の時に憧れたバンドがあまりテレビに出なかった為、【テレビに出ない方がカッコイイ】という良く分からない持論を持っていた俺は、その意向を事務所に伝えていて、事務所も【テレビよりもライブ】の考えだったこともあり、当時、俺は殆どテレビには出ていなかった。


 ラジオ、雑誌、ライブを中心に活動していた俺は、ファン以外の人間に顔割れをしていなかった。


 だから、秋との付き合いは世間にバレないと思ったし、アイドルでも何でもないからバレても別にいいだろうと思っていた。


 だけど「秋さんに迷惑がかかってからでは遅い。2人のことは非公開にしよう」と事務所に説得され、俺たちの付き合いは公にはしていなかった。


 そんな秋との付き合いは、幸せでしかなかった。


 俺も秋も家を出て一人暮らしをしていたから、お互いの部屋を行き来するのも楽しい。


 2人共、何もないところから想像力だけで形にする仕事をしている為、どちらかの部屋で仕事をする場合、背中合わせになりながら、何時間も無言で作業をすることもあった。 


 互いに似た環境で、理解し合いながら仕事が出来ることも幸せ。


 だって、他の女ならこの無言の時間に堪えられるとは思えないし。


 秋といる時間は、何をしていても楽しかった。


 俺には秋しかいないんだと思った。


 恋も仕事も順調。順風満帆だった。


 秋もコンスタントにネット小説を発表し、その中の何冊かは本になって書店に並んだりもしていた。


 その頃の俺らの夢は、【秋の小説が映像化になった時、俺が音楽を担当する】というものだった。


 秋なら、俺なら、叶えられるものだと思っていた。


 だけど……。

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