私が久世家のお嬢様です。
みなさま、初めまして。
私は久世家の長女、久世 紫羽と申します。
え?どうして敬語なんて使ってるの?だって?
まぁ、別に使わなくていいよって言ってくれるなら使わないよ?
素の私は敬語って苦手だからね。
は?普段と口調が違う?
素の私ってのはこんな感じだよ?
久世家?
あぁ、なんか、この世界の貴族の一つらしい。
この世界は…えーっと、なんだっけ?何とかっていう乙女ゲームの世界、のはず。
私が住んでるのは帝国っていう、まぁ、一番大きな国。
お隣に少しだけ劣る規模の国がある。
国力はうーん…
うちのがちょっと上、かな?
お隣の国は王国っていう。
…は?名前が安直?
そう言わないでほしいな…
なんたって、この世界には帝国と王国と共和国しかないからね!
共和国はちょっと離れた場所にある。
三国とも言語も同じだし。
言語は同じだけど、使ってる文字は違うよ!
意味分かんない?
私も分かんない。
帝国には貴族って呼ばれる特別階級のお家が十二あって、久世家もその一つ。
うちはそうだなぁ…
女王の番犬的な役割を担ってるよ!
あ、このネタって使ったら怒られるやつか?
ま、いいか!
琉の話を聞いた人は知ってると思うんだけど、うち…久世家はこの帝国を牛耳ってる皇帝の懐刀っていうか、マフィアとか、そういう輩の元締めをしてる。
ヴィディアーノっていう大きなマフィア組織があるんだけど、そのボスの静流さんはマジで美人っつーか、神!っていうか…
あ、話が反れた。
久世家の現当主は私のおじいちゃん…緋葉さんって言って、渋いお爺ちゃん。
孫のこと好きすぎて甘やかしてくるけどね。
お爺ちゃんには二人子どもがいて、そのうちの長男が私のお父さんにあたる。
うーん…私にとっては良いお父さんだったけど、当主様としては、そこそこだったらしい。
なんていうか、おじいちゃんにコンプレックス持ってたみたい。
あのおじいちゃんはそんなに出来た人じゃないよ?お父さん…
まぁ、そのお父さんも今はきっと天国でお母さんと仲良くしてるんじゃないかな?
で、久世家なんだけど、他の貴族からは何て言うか…めちゃくちゃ嫌われてる。
不正してるとか人を貶めてるとか、そんな噂が出るわ出るわ…って感じ。
……ま、まぁ?確かに違法行為はしてますけど?
でも!皇帝の許可は必ず取ってるし!
ちゃんと記録に残してあるから間違いない、うん。
これで皇帝から首切りにあいそうになっても色々と告発できるね!
私には専属の執事がいて、篠山 琉っていうんだけど…
うん、可愛い。
琉はすっごく可愛い。
琉は正確には執事見習いなんだけど、私の世話をしてくれてる。
私が次期当主に一番近いからなんだって。
えー、琉と結婚出来ないなら当主とか嫌なんだけどな…
琉は久世家が抱える"影"っていう組織の次の長なんだけど、私が先に色々と調べちゃうから私に影であることを伝えるタイミングをいつも逃してる。
ほんと可愛い。
私がパソコンやってる時も後ろでそわそわしてる。
そんなにそわそわするくらいなら言っちゃえばいいと思うんだけどな…
おじいちゃんに「琉が影であることは知らない振りをしておけ」って言われてるから、私から口を開くことはないんだよね。
私の朝は遅い。
だって朝起きれないんだよ…
眠くて眠くて…
だから、大体琉が私を起こしに来る。
たまにメイドさんも来てくれるけど、私と親しい人じゃないとちゃんと世話をしてくれないから、大体琉が来る。
私ってば、お父さんの愛人の子どもだから、お義母さんに嫌われてるんだよねー。
そのお義母さんは最近部屋に引きこもってるけど。
あ、お父さんは七年前かな?事故死してる。
お義母さんも最初は優しくしてくれたんだけど、私が次期当主になりそうって話が出た少し後からちょっとずつ私のことを排除しようとしてきたんだよね…
毒盛るのは事故死として処理できないからやめたほうがいいと思うよ!
あぁ、話が反れた…
それでもって、今日も琉が起こしに来てくれてる。
「紫羽様、おはようございます」
…うん、…
「紫羽様!」
「…琉…声が響く…うるさい…」
「紫羽様、本日も学校がございます。起きて支度をして下さい」
琉に起こされて、私はベッドの端に座る。
う…今日も朝食が用意されてるし…
いらないんだよね…
朝って胃に凭れるんだよ…
「…琉、私はいつも言っているはずだな。朝食はいらない」
「わたくしもいつも申し上げております。召し上がって下さい」
琉にマグカップを持たされる。
朝刊!朝刊ちょーだいよっ!
琉はニコリと笑って朝刊を背中に隠す。
くっ…可愛いけど!
仕方ないからマグカップのスープを飲む。
あ…今日のはいける。野菜しか入ってないのがいい。
お肉あるとホント胃もたれするんだよねー。
…ほら、食べたんだから朝刊寄越せ!
私が朝刊を読んでる間に、琉は学校の鞄に教科書を詰めていく。
私はそれを横目で見ながら、朝刊を隈無く読む。
…ん?んー………
スープをさっさと飲み終わって、朝刊を琉に返す。
琉は朝刊を受け取って、私に着替えるように言って部屋を出ていった。
私は顔を洗って歯を磨き、とっとと着替える。
場合によっては化粧するけど、今日は面倒だから無し。
「…ギフト、"全知"」
この世界にはギフトって呼ばれる特殊な力がある。
意味不明なものもあるけど、私が持ってるギフトはめちゃくちゃ便利なもの。
このギフトはありとあらゆる情報を手に入れることができ、情報の操作を行うことができる。
しかもこの情報、秒単位で更新されるから、現在琉が何をしてるかまで分かってしまう。
便利だけど…
私の脳内情報処理が追い付かないから、そう一日に何回も使えないんだよね…
朝刊の気になった部分を調べて、パソコンに軽くメモをしておく。
はぁ、朝から疲れたー…
頭を抑えてベッドに寝転がると、ドアがノックされた。
少ししてからドアが開いて、琉が入ってきた。
寝転がる私を見て、琉は心配そうな顔になった。
「紫羽様?体調がよろしくないのですか?」
「…いや。眠いだけだ」
体を起こして、琉から鞄を受け取る。
うん、ギフト使った後ってすごく眠いんだよね…
「紫羽様。ご無理をなさらないでください」
「あぁ。学校で寝るから気にするな」
「…」
うん、保健室使うから安心してくれていいよ!
あ、いつもよりちょっと遅くなっちゃったなぁ…
馬鹿二人に会わなきゃいいんだけど…
高校前で宇井さんに降ろして貰って、学校に入る。
フラグ建てたかな?って思ったけど、なんとか馬鹿二人に会わずに済んだ。
仲良くなったメイドさんたちが引き留めてくれてたみたい。
…ごめんね、メイドさんたち…
学校に入ると、女子からも男子からも睨まれる。
おかしいよねー、どうして義弟はあんなにちやほやされてるのに私はめちゃくちゃ睨まれなきゃいけないんだろ?
おい!そこの教師!お前も睨むんじゃないよ!
仕事しろー!
馬鹿二人っていうのは、義兄と義弟のこと。
だって、自分たちが偉い人だって勘違いしてるんだもん…
まぁ確かに?二人ともお勉強はできるし?顔もいいし?
それに比べて私は普通よりちょっと上の成績だし顔も悪くないけど目付き怖くね?って感じだし?
私が睨まれる理由はいくつかあるけど、一番は庶子だからってことかな?
どこの馬の骨から生まれたんだあの女、みたいな?
よくある話だけど、純血主義が帝国貴族のなかで掲げられてる。
今の皇帝は純血も能力も尊重するタイプだから、まぁ悪くない政治だけど…帝国貴族の馬鹿どもをどうにかしてくれないかなー…
まぁ、いつものことだからさっさと校内に入って行く。
「久世紫羽!」
聞き慣れた声をかけられて、私の気分は一気に下落した。
…保健室行こう…
「おい!待て!私の呼び掛けを無視するとはいい度胸だな!」
「……これはこれは、第三皇子殿下ではありませんか。申し訳ありません、少し体調が優れないようですので、御前を失礼させていただきます」
「なんだと?それは大変だな。私が保健室まで送ろう」
「いえ、結構でございます」
少し赤みかかった黒髪で、いかにも俺様!みたいな雰囲気を漂わせてるこの男がメイン攻略対象の第三皇子さま。
みんな忘れてるだろうけど、一応この世界、設定上は乙女ゲームの世界だからね!
彼は私を利用したいみたいで、よく話しかけてくる。
もう!こいつが話しかけてくるから余計に睨まれるんだよ!
めんどくさいので、保健室まで送って貰って、さっさと別れた。
流石にねー、年頃の男女が密室で二人きりは色々と噂立てられるから、皇子さまも自重するみたい。
保健室には綺麗なお姉様がいて、私を見て顔をしかめた。
「もう。また貴女?可愛い男の子を期待してるんだけど」
「悪いな。私のことは忘れて盛り上がってくれて構わない」
「駄目よ。あたしはこれでも自分の仕事に誇りを持ってるの。それで、今日はどうしたの?」
「眠いから寝かせてくれ」
いつものように要求すると、お姉様はまたまたムッスリした顔をした。
「また朝にギフトを使ったのね?」
「あぁ。担任にはあなたから話しておいてくれ」
「…仕方ないわね。ちゃんと寝てるのよ?」
「あぁ」
私がベッドに潜ったのを見届けて、お姉様は保健室を出ていった。
うん…
お姉様まじかわいい…
起きるとちょうどお昼御飯の時間だった。
お姉様は窓際で煙草を吸っていて、私が起きたのに気付いて煙草を潰した。
「吸っていて構わない」
「未成年の前では吸わないって決めてるのよ。貴女お昼は?」
「食わなくてもやっていける。が、今日は食堂へ行く」
「…大丈夫なの?」
「こう見えて友人は多い方だ」
「…嘘おっしゃい。学校で誰かと楽しそうにしてるのなんて見たことないわよ」
私は肩をすくめるた。
だって、学校で私と仲良くしてたら純血主義の貴族たちがうるさいんだよ。
たまにそんなの無視して話しかけてくる子もいるけどね。
鞄はそのまま保健室で預かって貰って、携帯を持って食堂へ向かった。
ほとんどの生徒は食堂を使っていて、うちの食堂は体育館並みに広い。
私が食堂に来たのを見つけた生徒たちがざわめき始めて、静かになった。
えー…ちょっとちょっと、別にご飯食べに来ただけだからそんなに警戒してくれなくていいんだよ…
「…待ちなさい」
横から声をかけられて、私は立ち止まる。
声の主を見れば、お馬鹿な義弟が腹黒演出でかけてる眼鏡をクイッと指先で押し上げてた。
あ、義弟の視力は実際に悪いよ!
でもコンタクトにしても大丈夫って言われてるのに、わざわざ眼鏡かけてるあたり演出っぽくて好きじゃないんだよね…
「どうした?」
「…確かに貴女は僕よりも年上ですが、敬語で話さなくていいと許可を出した覚えはありませんが」
「それは悪かったな。いや、すみませんでした。それで、どのようなご用件でございましょうか?」
「…貴女のような出来損ないに我が物顔で歩かれる場所ではありません。皆さんの気分を不快にさせます」
「それで?」
「っ!ですので!出ていけと言っているんです」
「…今年入学された青次様は知らないとは思いますが、昨年度から食堂は暗黙の了解という制度が導入されてましてね?」
不快そうに、怪訝そうに眉をひそめた義弟に、私はできるだけ諭すような声音を心掛けて言った。
「久世紫羽に食堂で喧嘩を吹っ掛けではいけない、っていう」
「…は?」
「あぁ、そうだな!青次、控えろ」
騒ぎを聞き付けたんだろう、第三皇子さまがやってきた。
義弟と私の間に入るように立った皇子さまは片手にパイナップルジュースを持っていた。
…それは置いてきてよかったんじゃないかな?
「殿下、ご迷惑おかけします」
「そうだな。貸し一つだ」
「面白いことを仰いますね。私に殿下が作った貸しは一つどころではありませんが」
「…冗談だ。飯を食いに来たんだろう。私と一緒に食べるぞ」
あはははは。何言ってんだ。私はぼっち極めるんだ!
「殿下!…」
義弟が皇子さまに何かいい始めたのを聞きつつ、私はさっさとカウンターでご飯を貰ってさっさと食べて食堂を出ていった。
今日も食堂のご飯は微妙だったなぁ…
放課後は宇井さんに迎えに来て貰って、お家へ直行。
午後の授業は一応受けたけど、あの学校まともな教師雇ってないから授業つまんないし、全然身にならない。
これなら琉に教えて貰ったほうがいいよ…
琉は教え方下手だけど身にはなるからね!
え?褒めてる褒めてる!
この間誘拐されかけたから、琉から学校が終わった時間に電話が十件くらい入ってた。
それはかけすぎだと思う!
私だって回避したほうがいいのは回避するよっ!
家に帰ったら速攻で部屋着に着替えて、パソコンを立ち上げる。
静流さんたちに連絡しなきゃなー。
「紫羽様、紅茶と夕刊をお持ちしました」
「あぁ」
琉が入ってきたので、私はさっさとベッドの上に異動する。
「…紫羽様…ベッドの上でお召し上がりになるのはお行儀が…」
「琉は新聞を読むか?」
「は…はい。もちろんです」
「私が毎日朝刊と夕刊を読むのは、単純にニュースが読みたいのと、様々な情報が載っているからだ」
「はい。存じ上げております」
「…あと、もう一つ理由がある」
私は紅茶を飲み干して、琉にカップと夕刊を返す。
「それは…」
「私の協力者が広告や記事を偽って私にメッセージを伝えているんだ」
「!」
「さてと、今日もお祖父様に会わねばならない。東雲に話を通してくれ。緊急だ」
「わかりました。失礼いたします」
琉は緊張して面持ちで、部屋を出ていった。
きっと今頃東雲さんに影の収集の相談してるんだろうなー。
おじいちゃんに協力者から救助の要請がある、と伝えて、私は部屋に帰るところ…で、お馬鹿さんな義兄に会ってしまった。
なんてことだ…
もう、ホント少し身長高いからって見下ろすのやめてよね!
「ふん、お前か」
「こんばんは、黄也様」
「まだ篠山を連れ回してるのか。お前の我が儘でどれほどみんなが迷惑しているのかわからないのか?」
「申し訳ありません」
「お前は久世家の者じゃない。身分を弁えろ」
「はい」
「次期当主であるこの俺がお前を処分しないからお前はここに住めるんだ。分かっているな?」
「はい。肝に命じております」
「さっさと行け。部屋から出るな。この出来損ないめ」
義兄は私を睨んで部屋に戻っていった。
あー、早く準備して協力者助けに行かなきゃ…
今日は馬鹿二人に会うなんて、厄日だよ…
私は琉を連れて、ヴィディアーノの本拠地を訪れていた。
静流さんには先程連絡を入れておいたので、すんなりと通された。
「紫羽様、よく来てくれたわね。それで?一般人の救助だったかしら?」
「一般人、というのは語弊がありますね。協力者、ですよ」
「ふふ、そう?救助ならもう向かわせてるわ。そのうち連絡が来るわよ。紫羽様、夕食は?」
「いえ、まだ」
「それじゃあ、一緒に食べない?そっちの執事見習い君も」
静流さんに誘わた。
うん、もちろんオッケーですよ!
琉は断り、ひたすら私の斜め後ろをキープし続ける。
私たちは席を移動し、真っ白なテーブルクロスがかけられ、セットされた席に通された。
ちゃんと二人分用意されており、端から琉が断るであろうことは見越されていたみたい。
琉に椅子を引かせて私は席に座り、静流さんも部下に椅子を引かせて座った。
私たちが座ったのを見計らって料理が運ばれてくる。
「久世家でおいしいもの食べてるからうちのじゃ物足りないかもしれないけれど」
「十分美味しいですよ」
私的な場だからか、けっこう庶民的な料理が出てくる。
あれは…だし巻き!え?唐揚げもある!…て、天ぷらだと…!?
思わず静流さんに土下座するかと思った…
この世界の料理は和食洋食中華が入り乱れてる。
驚くことに、ポタージュ系のスープが出たと思ったら里芋と烏賊の煮物が出てきた…
なんてこともあり得る。
待って、それ絶対おかしい。
「普段は久世家で食べられないので嬉しいですね」
「あら。頼めば作ってくれるんじゃない?」
「お兄様と弟は赤食が好きみたいで、わざわざ私の分だけ青食を作って貰うのは面倒ですから」
赤食っていうのは洋食、青食は和食。
ついでに、中華は黄食って呼ばれてる。
「久世家のシェフなら紫羽様のためならそれくらいやってくれそうだけど」
「久世家は私に毒が盛られてから、お祖父様専用のシェフと私たちに作ってくれるシェフの二人しかいないんですよ。今でも朝早くから朝食を作らせてるのにわざわざ青食を作らせるのは時間がかかります」
なんなら朝御飯は私の分無しでいいんだよ!
そんな感じで世間話をして、デザートが出てくる頃、静流さんの部下がそっと静流さんに耳打ちをした。
どうやら無事救出したらしい。
「無事みたいよ。どうする?」
「ここへ連れてきてください」
デザートのあんみつが出て来て、黒蜜を掛け終わった時に静流さんの部下に支えられるように中年の男が入ってきた。
「紫羽様…」
「ご苦労だったな」
あ、このあんみつ美味しい!
是非ともお土産に包んでください!
東雲さんとおじいちゃんも好きそう。
「この度は助けていただき何と言えば…」
「どうやら勘違いしてるようだな」
うーん…この黒蜜がまた絶妙な甘さで…
「ど、どういうことでしょうか!?」
「お前を助けたのは、これ以上情報の流出を防ぐ為だ。気づかないと思ったのか?」
「なんのことだか…」
「あまり弱小組織に武器を流されるのは困るんだよ、なぁ?」
たまに入ってる小豆も甘過ぎなくていいね!
あと、白玉も柔らかすぎなくていい感じ。
白玉はちょっと硬いほうが好きなんだよね!
「武器とともに私の情報まで売るとは。お陰で頭の悪い連中に誘拐されかけてな。私が琉に怒られる羽目になった。お前には礼をしなければな」
「ひ、ひぃぃ!」
静流さんがスッと目配せすると、静流さんの部下が男を取り囲み、何処かへ連れていった。
「あの男の処分は任せて貰っちゃっていいのかしら?」
「お好きにしてください。見せしめにもしたいので、なるべく派手にお願いします」
「承りました、紫羽様」
静流さんが茶目っ気たっぷりにウインクした。
うん、マジ美しい。
それからちょっと武器密売のルートのことについて話した。
うんうん、静流さんの好きにしてくれていいんで!
あんみつをお土産に包んで貰って、琉と家に戻った。
あんみつは東雲さんとおじいちゃん、晩ごはんを外で食べてきちゃったお詫びにシェフたち、仲良くしてくれるメイドさんたちの分とけっこう沢山貰ってきた。
勿論琉と私の分もあるよ!
「…紫羽様」
「なんだ?」
部屋に戻り、琉に紅茶を入れて貰っていると、琉が深刻そうな顔をしていた。
「…紫羽様は青食がお好みなのですね」
「んー…そうだな。比較的青食が好きだな。久世のシェフが作るのは全部美味いからここで食べる赤食は好きだが」
「主人の好みを把握していないなど、執事として失格です。どうか罰を与えてください」
「…あぁ、なるほどな」
琉は私に紅茶を渡すと、足元にひれ伏す。
それは仕方ないんじゃないかな…
私が好きな和食って、居酒屋風のが多いからね!
焼き鳥とか、酒盗とか。
え?おつまみ?
そ、そんなことは…
ていうか、罰?
「…執事を止めるとは言わないんだな」
「それはっ…他の者に紫羽様のお世話を任せるなど、できません」
「ふうん、そうか」
まぁ、他の人に任せるってことは次の影の長じゃなくなっちゃうってことだもんね。
琉以上に影の仕事ができる人いないから困るよ…
罰かぁ、罰ねぇ…全然思い付かないや!
「罰はまた考えておく。あぁ、紅茶は好きだからこれからもよろしく頼む。菓子も赤食のものがいい」
「はっ!」
琉は心なしかしょんぼりした様子で、私が紅茶を飲み終わるのを見続けた。
「緋葉様」
夜、緋葉の部屋に琉は訪れていた。
「…なんだ、篠山。酷い顔だな」
「…申し訳ありません」
緋葉は闇の中から現れた琉を見て顔をしかめる。
琉が酷く落ち込んでいたからだ。
「篠山。緋葉様の前ですよ」
「…はい……東雲さん……私は執事見習い失格です…」
琉のあまりの落ち込みように、東雲と緋葉は顔を見合わせる。
「まぁ、待て。紫羽と喧嘩でもしたのか?」
「…違うのです。わたくしが至らぬばかりに毎日紫羽様にご無理を強いていたのです…」
「なんだと?何かしたのか?」
東雲は琉を緋葉の前に連れていく。
無理を強いていた、と聞いて緋葉も東雲も顔を険しくさせた。
「…紫羽様は赤食がお好みではなかったようなのです。なのに…毎日赤食をお出ししてしまっておりました…!」
「…あ、うん。あぁ、そうか、うん」
緋葉は思わず適当な返事を返してしまった。
東雲も緋葉と同じように、拍子抜けというか、あぁ、そんなこと、みたいな反応を返す。
琉はそんな二人の反応に気づかず、一層落ち込んでいく。
「若い方は赤食を好むと聞いて、紫羽様にまでそのように当てはめてしまいました!確かに黄也様と青次様は赤食を好んでいらっしゃいますが、紫羽様を同列に扱っていたのかと思うと…本来でしたらわたくしから執事を止めさせていただくよう申し上げなければならないのに、紫羽様のお側を離れなければならないかと思うとどうしても言うことができず…」
あー、うん、なんだ。
多分篠山が紫羽の執事を止めることになったら殺されるのは私たちだからやめてくれ。
と、緋葉は琉の言葉を聞いて考える。
東雲も、次の影の長は篠山しか考えられないからやめてくれ。
と、考えていた。
「そ、そうか。それは私たちも知らなかったな」
「紫羽様は何がお好みなんですか?」
「青食だと…五年間お仕えして、今の今まで気づかなかったなんて……どのようにお詫びすれば…」
「紫羽様は何と?」
「わたくしから罰を与えてくださるよう進言したのですが…適当にあしらわれてしまいました…」
琉はこの世の終わりが来たかのように絶望の表情を浮かべ、緋葉を東雲は琉を慰めつつ、「(明日紫羽(様)にどうにかしてもらわければ…)」と思っていた。
その様子を東雲のギフトで気配を消していた紫羽が影から見ていて、「…なんか、ごめん」と呟いたのは誰にも届くことはなかった。