成田美琴
[成田美琴]
「立花優希さんとはどんな人ですか?」
「わたしと優希は小学校に入ってから知り合ったんです。出しゃばったりはしてないけど、ここぞというときに活躍する子でしたね。顔はすっごいかわいかったです。そうそう、衣笠市の祭りに1回だけミスコンがあったんですよ。で、そのティーン部門に最年少なのに選ばれたこともあったんですよ。今の学校もかわいい子多いけど、やっぱり優希にかなう子はいないと思いますよ。」
「では、3年前にあった事件について何か知っていますか?」
「あの日のことは今でも忘れません。わたしは事件の日…」
放課後、チャイムの音が学校中や校庭に響き渡った。
「おい、サッカーしようぜー!」
「おぅ」
男子たちが叫んで廊下に走っていった。それを窓の近くで女子たちが見ている。
「男子って本当に子供っぽいよねー、いっつもサッカー、サッカーってさ」
そういながら愛は笑った。その大きな瞳は自然と蓮を追っているように見えた。
「あ!愛、また蓮のこと見てる!」
そう言って優希が愛を覗き込む。
3人はお母さん同士が仲が良くて赤ちゃんの頃から一緒らしい。誕生月も同じで3人とも同じでその月の花の名前が名前の由来らしい。
「みてない!全然みてないよ!あんなやつ」
顔を赤くしながら愛がそう言った。
「えー!見てたってー。隠さなくてもいいしょー。愛は蓮のこと好きなんでしょ?」
「やー、まぁ、好きだけど。蓮は私のこと好きじゃないしょ?
「いやいやいや、蓮はきっと愛のこと好きだと思うよ!」
「え!やー、それはないよ。」
「絶対そうだって!ね?」
「そうだよ!」
「うん!二人とも仲良いしね!」
「きっと、両思いだよ!」
合わせるように和奏と茜がそう言った。
「なんなら、今日告白しなよ!」
そう、優希が言った。
「え、今日!?今日はさすがに…」
「思い立ったが吉日!やっぱり、今日でしょ!」
「…うん、わかった。」
「おー!がんばれ!」
私はそう言った。他のみんなもがんばれとか応援してるねとか色々言ってた。
わたしはこの時、何て言えばよかったのだろう。あおったりせずに本人たちにまかせなとか言えばよかったのかな?でもたぶん、あのころは言えなかった。あの時より少し成長した今の私だからこそ、そうゆう言葉が出てきたんだと思う。
学校の近くの山の手前に愛が蓮をつれてきた。
「好きです!付き合ってください!」
「ごめん。俺、友達としてしか見れない」
「わかった。ごめんね、急にこんなこと。これからも友達としてよろしくね!じゃあ…」
そう言って私たちの方に来た。
「ダメだった。ごめんね、期待させて」
ほとんど、みんなが黙り込んでしまったいた。そんなとき優希が
「大丈夫だって、いつかは愛の魅力に蓮が気づくから!それまで待てばいいんだよ!」
「うん。ありがとう。」
この時、愛は悲しそうな顔をしていた。そして、優希はなぐさめるための無理した笑顔をしていた。でも、その中には申し訳なさそうな表情もふくまれていた。
「じゃあ、帰ろうか。」
そのちょっと気まずい雰囲気を感じ取り、みんなのムードメーカーの茜が言い出した。
「そうだね、もうだいぶ時間たったし」
私が合わせてそう言った。
それから歩いて帰った。勉強のこと、習い事のこと、中学校のこと。色々話しながら帰った。当然、恋愛関係の話は御法度だったが。和奏、舞奈、愛、茜の順に違うルートに帰って行った。そして、私と優希の二人になった。
少し沈黙があった後に私は、質問した。
「あのさ~、1つ聞いてもいい?」
「何?」
「優希はさ、嫌じゃなかったの?」
「何が?」
「二人がもし付き合ったとして、幼なじみとしてさ~、気まずくなったらどうしようとか思わないのかなぁって」
「え、だって私は二人が幸せならそれでいいし。私はそれを壊したくないから。」
私は何も答えられなかった。そしてそれが、私が聞いた優希の最後の言葉。優希は最後までおもいやりに溢れた子だった。私はその日の夜、軽く散歩をしていた。何て言えばよかったのかとてもモヤモヤしていたから、気持ちを落ち着かせるために。その時、学校の方まで行ったら何かが燃えていた。付近の木まで燃えていて、その中には何か黒い物体のようなものが見えた気がした。パニックでほとんど覚えていないけど、近所の大人を呼んで通報してもらった。警察が来て、何があったのかと聞いたら、人が亡くなったと聞いた。ほとんどが燃えていたらしいが、身長145から150センチのロングヘアでbeniaのリップクリームが残されていた。それを聞いた瞬間、優希かもと思った。このあたりでその身長でロングヘアの子は優希か舞奈か私しかいないし、私はさっき舞奈をみかけた。なによりbeniaの商品は優希のお気に入りで、それを愛が知ってて誕生日プレゼントにリップクリームをあげたのだった。最悪の事態が頭をよぎり不安でいっぱいになった。その日は、よく寝付けなかったのを覚えている。
次の日、朝から臨時の集会が開かれた。
「昨晩、この学校で火事がありました。そしてこの学校の児童が1名亡くなりました。先生はその子を助けてあげられなかった。人はとても無力だと思い知らされました。今は、ただその子に安らかに眠ってほしい。」
そう言い、泣くのを堪えながら校長先生がステージを降りた。周りのみんなも泣いていた。私も自然と涙が出ていた。そうして抜け殻のようになりながら、私たちの小学校生活は幕を閉じた。
「今日から美琴も中学生か~。早いね~。この間、小学校に入ったような感じだったのに~」
お母さんにそう言われ、素っ気なく返事をした。
「はい、はい」
「あ、早くしないとバス来ちゃうわよ!」
「え!やばっ!」
私たちの小学校、郁子山小の近くに中学校はないので、市の中学校まで行かなければならない。他にも2つの小学校から集まるらしい。その中学校と郁子山町は5キロ以上離れているのでバスが出る。
「行ってきます!」
「はーい。いってらっしゃい。お母さんも後から行くから」
私は慌ててバスに乗り込んだ。学ランを着た蓮と大和が乗っていた。
「おーい。美琴!」
大和がそうゆうと2人とも近づいてきた。
「なんかめっちゃ、違和感あるんだけど。」
「確かに。ずっとちょんまげみたいな髪だったから、二つ縛りは違和感ある。」
そういい2人は笑っている。
「ちょっと、ちょんまげじゃないから!」
そんな話をしているうちに、どんどんみんな乗ってきた。不思議といつもより明るく感じた。
学校に着くとクラスの紙が貼ってあった。私は...3組だ。他に知ってる人はいなかった。
教室に入ると席の紙が貼ってあった。席は真ん中ぐらいだ。席に座ると近くの女子が話しかけてきた。
「ねー。名前なんていうの?私は吉野里奈!みんなからりなって呼ばれてるからそう呼んでね!」
「私は成田美琴です!よろしく。」
「よろしくね!美琴って呼んでいい?ところでどこ小?」
「いいよー。郁子山小だよ」
「郁子山小ってバスで通ってるところ?」
「うん。そうだよ」
「いいなー!私の家も結構遠いのに〜」
「でも、バスの時間早いから大変だよ」
「あー、そっかー。じゃあ、席座るね」
友達できたー。よかった-。そう思い安心していた。休み時間にもう一人女の子をつれて話しかけてくれた。
「ね~、ね~。郁子山小に立花優希っていた?」
「あ、うん。いたよ。」
「どんな感じだった?」
「かわいくて、優しくて、いい子だったよ」
「ふ~ん。そーなんだ。」
「どうしたの?」
「あのね、りなたちが通ってたピアノ教室にその子もいて、いじめられてたの。」
「え...。嘘。」
「嘘じゃないよ!」
「なんでいじめられてたの?」
「あの子がそのピアノ教室の友達の彼氏とったんだって~。しかも、他の男子にも媚び売っててキモいから」
「あ、チャイム鳴った。座るね」
私は何も言えなかった。私が見ていた優希は本当の優希じゃないのかもしれない。それでも、私は優希を信じる。
愛想笑いの生活をして2年生になった。今年は愛と一緒になった。衣笠中は8月に宿泊研修がある。そこで私と愛は同じ班になった。
「部屋も一緒だね!」
「だね!」
「あ、班ごとに料理するやつ、何にする?」
「うーん。無難にカレーとか?」
同じ班の未央、蒼、神崎、匠が話に入ってきた。
「いいんじゃない」
「だな。じゃあ、カレーってことで」
「じゃあさ、…」
…そんなこんなで当日になった。
「わー!楽しみー!」
未央はバスの中でそう叫んだ。天真爛漫でクラスのムードメーカーの彼女らしかった。
「そうだね」
そう、愛が微笑む。
研修が終わり、宿泊施設についた。あっと言う間に自由時間になった。
「美琴ってさー、好きな人いるの?」
「え、いないよー」
「正直に言いなよ〜」
「気になる人ぐらいなら…」
「誰?」
「…蒼」
「おー!いいじゃん!仲いいし!お似合いじゃん」
「でも、モテそうじゃん」
「だったら、早く告っちゃえ!」
「え、やー、まだ気になる程度だし」
「あー、そうか。じゃあ、好きになったら言ってね!告白するの応援するから!」
「ありがとう」
「そういえば、愛は?」
「え?」
「好きな人。いないの?」
「え、私は…いないよ!
「ほんと?」
「本当、本当!いないんだよね〜。どこかにいい人いないかなー?」
「そのうち見つかるって」
「だね。で、未央はどうなの?彼氏と」
「聞きたい?私のノロケ」
「いや、いいです」
「えー!なんでー。聞いてよ〜」
そう言い、一晩中笑っていた。それから就寝時間になって寝ようとした。
「ねぇねぇ。愛、起きてる?」
私はそういった。
「うん。起きてるよ」
「あのさー。私、思い出しちゃったんだけど、あの事件ってさどうなったんだろうね。」
「自殺だったけ?」
「うん。だけどさ、おかしくない?」
「何が?」
「普通焼身自殺なんてしないしょ。私ならもう少し楽な方法にする。」
「確かに。そういえば理科の実験の時、私火傷したよね」
「あー、あったね。そういうこと。左腕だっけ?」
「そう。結構ひどい火傷して。今も、火傷残ってる。その時の火傷を見て優希すごい心配してくれて。」
「そうだったね。確か、火って怖いねって。…恐ろしいねって。…じゃあ、なんで焼身自殺したんだろう?」
「不思議だね。わざわざ、怖いもので死ぬなんて。」
「違う。殺されたんだよ。誰かに」
「誰かって?」
「例えば、郁子山小の人とか」
「え!?それはさすがに…」
「だって、みんなアリバイないじゃん」
「確かにそうだけど…」
その時、ドアを叩く音がした。
「早く寝なさい」
そう言い、話は終わった。
そうして、私は今に至る。あの会話以来、愛とまともに話した記憶がない。今日、10月16日。あの事件から3年後の今日。