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大切な友達

「……零、大丈夫?」

 愛莉の告白が成功した後、私と零は屋上にいた。茜色に染まった空が私達を見下ろす。下校時間は迫ってるんだけど、零がその場から動こうとしないんだ。とゆーか、なんでグラウンドにいたのに屋上まで来たんだろう。

「弥生……」


「ん?」

「愛莉、さっきキスされてた?」

「うん。おでこにね」

「そっか……そっかぁ!」

 楽しそうに頷く。一緒に現場をを見てたのに、何を理解するところがあったんだろう。零はグラウンドを見るが、そこには誰もいない。サッカー部の練習はさっき終わって、愛莉は先輩と仲良く帰ってしまったみたいだ。


「私さ、応援はしてたけど正直愛莉の告白がうまくいくなんて思ってなかったんだよ。だからさっき、キスまでしてもらった愛莉を見て、あぁ、良かったなぁって。なんかホッとしちゃった」

 零は柵にもたれて空を見上げた。揺れる髪が日に当たって赤く見える。「これからもあの二人のこと応援しなきゃね」


 応援、という言葉を聞いて体の中の大きな何かが渦を巻いた。


 落ち着こうと自分の長い黒髪を手櫛で溶かす。だけど俯いたまま、いつしか口が動いていた。



「……応援しなきゃって、どうしてそう思えるの?」



 え? 零が振り向くのがわかった。私が人の話に意見するなんて、初めてのことだったから。でも私はそのまま、言葉を続ける。


「恋って、楽しい? いつ恋人に裏切られるかわからない、告白しても受けてもらえるかわからないのに、どうしてそんな風に笑えるの? どうして恋人のことを信頼できるの? 私は……わかんないんだよ。恋ってなんなの?」

「弥生……」

 私は下を向いたまま、零の隣に立った。もう終わりだと思った。こんな生意気なこと言ってたら、友情なんてすぐ壊れちゃう。今までの経験を思い出して胸が痛む。そうしてじっと、唇を噛み締めて、零の言葉を待つ。


「そうだね。言っちゃ駄目かもしれないけど、弥生って恋したことなさそうだもん。私と愛莉の話を聞いてるときも、どこか冷めてる感じというか……上の空だった。この間話し合ったんだよね、愛莉と。あのね、私たちが教えてあげたい。恋がどんなものなのか。弥生にもわかって欲しいんだ。好きな人が出来たら教えてよ。協力するからさ」

 屈託の無い、純粋な笑顔。夕日を浴びながらそうやって私を見る零の姿はとても美しくて。

「うん……」


 変わらなきゃな、と思った。人の心は移り行くもの。今はこう言ってくれている零だってこのままの私じゃいつかは愛想を尽かしてしまう。

「久野くんの話は興味が無くても聞いてもらうけどね~。帰ろっ」

 零が私の手をとって歩き出す。こんな話の後でも、口にチロルを入れるのは忘れない。短い時間だと思っていたけど意外と時間が経っていたみたいで、学校はシンと静まり返っている。生徒は私達で最後なんだろうか、そう考えていたとき、くつ箱の前に誰かが立っているのが見えた。


「二人とも、遅いじゃ~ん。待ちくたびれちゃったよ~」

 愛莉がぺろっと舌を出していった。先輩は居ない。

「なんだ、待ってたんなら屋上まで来たら良かったのに」

「アタシが行ったら緊張感なくなるしさ~。こういうのは零に任せるのが一番かなって!」


 二人の会話についていけない。どうなってるの?

 くるりとこっちを向いた零が私の頬をつまむ。いふぁい。二人とも楽しそうに笑っているけど、私は頭が混乱していたからきっと目を丸くしていただろう。

「弥生を心配してたの、私だけじゃないんだよ?」

「アタシはいつだって弥生の悩み聞くからねっ!」

 今まで、こんなの言われたことなかった。友情なんてすぐに壊れるものだから大切にしなくたって良い。そんな考えの人たちとばっかり絡んできて、出会いよりも別れの方が多いような、そんな道を歩んできた。でも、友達を大切に想ってその人を守ろうとしている人もいるんだ。なんだか今まで私がしてきた事が馬鹿らしくなってきた。


「ほんっと……馬鹿じゃん」

 ぼそりと呟いた私にみんなの視線が集まる。

「こんな私にわざわざ絡んでくるとか……不幸になりに来るのと同じようなものなのに。いつか後悔しても知らないからね?」

「いいよ。私は弥生が好きだし、一緒にいたいと思う。だから後悔なんてしないよ」

「うんっ! クールなのが弥生って感じだし、大丈夫だよっ!」

 零と愛莉の笑顔が眩しい。それがなんだか、私を安心させる。


 変わらなきゃ、じゃない。変わるんだ。この笑顔を消えさせないように。

 私はいつの間にか零れ落ちていた涙を乱暴に拭い、口角を上げた。ちゃんと笑えてるかわからないけど、私はもう大丈夫って伝えたかった。これからも傷つけてしまうことはあると思うけど、それでも二人が私を想ってくれている限り、私も二人を信じ続ける。

「ありがと」

 小さくそう言った私に気付かず、歩いていた零は肩越しに振り返った。赤く輝く太陽の光が零を包んでいる。柔らかな曲線を描いたその口が、声を出さずに言った。



 ――恋って、楽しいよ。

                                   




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