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微笑む先輩


 ……。

「あれだよっ!」

「どれ~?」

「あれっ! 緑のゼッケンの一番!」


 何で私まで……。行くって言ってないよね? 前のページに遡ってもらったらわかると思うけど、私は先輩を見に行くなんて言ってないし、見たくも無い。

 なのに……サッカー部の練習が終わるまで待たなきゃいけないなんて!


「弥生っち、ボーっとしてどうしたの? あ、もしかしてイケメンでも見つけた?」

 んなわけあるか。突っ込む気力も無い。人を好きになることすらわからない私がイケメンに見惚れるわけないでしょ。気付かない愛莉は勝手に私好みの人を探し始める。好みなんてないのに。


「あの青いタオル持った人は? 目が鋭くて背も高くて……弥生っちが好きそうだと思うな~」

「え~、弥生はもっと紳士的な人だって。ほら、まさに久野くん!」

 なぜか私の相手探しになってる。面倒くさいから適当に相槌を打っておく。てか、私の好みが久野くんだったら一大事だよ。

 愛莉の好きな先輩はどうやらファンが多いらしく、先輩目当てで練習を見に来てる女子が大半を占めていた。きゃーきゃーと叫んで、喉痛くないのかな。


「あ、休憩だよ。愛莉、コクるなら今だって!」

 零が思いっきり愛莉の背中を押す。ちょっとふらついたけど、なんとか先輩の元にたどり着いたみたい。周りの女子からの視線が痛いから早く戻って来てね。


 先輩はきょとんとして愛莉を見つめているけど、緊張している彼女はセーターの裾をいじいじしてなかなか話さない。というか、今日は先輩を見るだけだったはずなのに……最近の女子は行動が早いなぁ。

「せ、先輩っ!」

 少し涙目になりながら声を絞り出す。いつもより声が高いのは気のせいだということにしよう。

「ん?」

 落ち着かせようとしているのか、先輩がふんわりと微笑んだ。なんかいい人っぽい。


「す……す、好きです! 付き合ってくださいっ!」


 零が声を出さずに「おぉ!」と言った。なにが「おぉ!」なのかはわからないけど、とりあえず私も声を出さずに「おぉ!」と言う。一斉に周りの女子からキツイ視線が愛莉に向かった。嫌そうな顔をして愛莉を睨んでいる人もいる。そんなに先輩に他の女が近付くのが嫌なら自分がコクりに行けばいいのに、どうしてそれがわからないんだろう。恋ってそんなもの? 愛莉みたいに自分からどんどん行く人って少ないのかな。


 また考え込む私はさておき、先輩は照れくさそうに頬を掻いて、また優しく笑う。



「いーよ」



 きゃああああぁぁぁ! という悲鳴が五月蝿く聞こえてくる。祝福の声とか、先輩の笑顔に一撃されたような黄色い悲鳴ではなく、おそらく「ありえない」という悲鳴だろう。なんであの子が……! っていう声が聞こえてくるし。

 でも、私も似たようなことを思った。だって、今まで話すらしたこと無い人からの告白を普通受ける? まずはお友達から、とか言うでしょ。爽やかな顔では想像できないけど意外に先輩ってチャラい?

 愛莉も目を丸くして涙を拭っている。先輩はその小さな頭に手を置いて、赤い顔を覗き込む。

「練習が終わるの、待っててくれる? 一緒に帰ろうよ」


 そう言って、先輩は愛莉の額に軽く接吻した。


 ぐふっと零の喉が鳴った。なんだその音。その後、彼女のポケットから大量のチロルが地面に落ちる。しかしそんなことは気にせず、うろたえた様子で私を見た。

「え? えぇ? あ、愛莉今キスされた……?」






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