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愛莉の想い人


「しかし……あの愛莉が恋をするなんてね~。意外すぎるでしょ」

 そう言って零はポケットからチロルを取り出して口に放り込む。まだ言ってるし。愛莉の報告を受けてから四時間は経ってるよ。めっちゃめんどくさい。

 そうだね。と相槌を打ちながら愛莉の姿を探す。毎日一緒にお弁当を食べているのに、今日はいない。机の上には乱雑に教科書が散らばってるけどかばんが無い。どこに行ったんだろう。彼女は癖っ毛だし、みんなよりも少し明るい色の髪色だからすぐわかるんだけど。


 きょろきょろしている私に気付いたのか、零が窓からグラウンドを覗く。

「愛莉はグラウンドでお弁当食べるって言ってたよ~。例の先輩サッカー部らしくて、毎日昼休みと放課後に練習してるんだって」

 愛しの先輩がクラブで汗を流す姿を見に行くって事か。何気にストーカーっぽい。

「だから、今日は弥生と一緒に食べれないってさ。変わりに私、零が一緒に食べてあげるのです!」

「あ、ありがと……」

 胸を張ってまたチロルを口に入れる零。何個持ってんだよ。

「そして今日こそ私の大好きな久野くんの話を聞いてもらうんだからねっ!」


 窓からサッカー部の掛け声とともに秋らしい爽やかな風が入ってきた。零の茶色い髪が優しく揺れる。そういえば先週初めて彼氏ができたとか言ってたな……。忘れてたけど、惚気話を聞くのが面倒だからこの子とお昼一緒に食べなかったんだった。その久野くんの話を聞いたからって私に何の影響も無いって事を、いい加減わかって欲しいな……。


 でも、私だって恋がしたくないわけじゃない。人並みにそういう欲望はあるんだからね。ただ、恋というものがどんなのなのか知りたいんだよ。

 ん、まぁ最近は恋なんて私には必要なんて無いんじゃないかって思うようになってきたけどね。こんな性格じゃ、彼氏ができても傷つけちゃうだけだと思うし。


「……ちょっと弥生? 聞いてる?」

「あ、ごめん」

 頬を膨らませる零は可愛く見える。私も愛莉や零みたいに可愛げがあったらモテるのかしら、なんて考えちゃう。自分で言うのもなんだけど、容姿もそれほど悪くは無いのに今まで告白されたことが一度も無い。学校の七不思議だわ。

「も~、ちゃんと聞いててよ~。この間ね、久野くんとデートしたんだけど、すっごく楽しくて! イルカのショーでは私が濡れないように守ってくれたり、人が多いところでは迷わないようにって手を繋いでくれて……めっちゃ優しいんだよぉ!」

 気持ちが高ぶったのか、抱きついてくる。私の体はたちまちチロルの香りに包まれた。なんか色々と苦しい。


 ……デート、か。私だったら緊張して絶対何も話せなくなるかも。カップルにとってデートってそんなに必要なものなのかな。

 恋とは無縁の生活を送ってきた私にはわからない……。

「でも弥生って可愛いからめっちゃモテてるよね~。ファンクラブとかあるんじゃない?」


「は?」

 ぱーどぅん? 私が聞き返そうとしたとき、教室のドアが勢いよく開いた。こんな乱暴な開け方する奴、一人しかいない。

「弥生っち! 零ちゃん!」

「んぁ? 愛莉じゃん。久野くんの話聞きたくなったのかな~?」

「アタシ、先輩に告白する!」




 ……。

 …………。

 ………………。



 沈黙が訪れた。零は目を見開いて固まっている。おそらく私も同じだろう。

 昨日好きになった相手にもう告白する? そこらへんの犬でももうちょっと考えるよ。それとも好きになった人には二十四時間以内に告白しなきゃいけないっていう法律でもできたの?


「二人にも会ってほしいの。その……先輩がアタシにとって相応しいかどうか」

「お、おぉ。愛莉が望むならいいけど……」

 零はそう言っているけど、私にはどうも納得できない。先輩が愛莉に相応しいか決めるのは私達じゃないし、それに告白してオッケーも何も貰ってないのにそんな事決めるなんておかしくない? 先輩も迷惑だと思うけどな。

「じゃ、今日の放課後見てもらうから二人とも来てね!」

 ……はい?



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