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そうして僕等は

 教室にある思っていたのに、まさか職員室に届けられているなんて。ありがたいけど、教室を必死に探し回った私の時間を返してほしい。


 というか、どうして私が零のお財布を取りに行くことになったんだか……。


 いつの間にか外では雨が降っていて、朝持たされた傘が役に立った。校門までは意外と遠いので近道として中庭を通ろうかな、と思っていた時、私は中庭にぽつりと立っている人影を見つけた。零の事も気になったけど、濡れている寂しそうな背中を見て、思わず足が動いてしまった。駆け寄って傘をその人に傾ける。一人で佇む姿がなんだか昔の私と重なって、放っておけなかった。

「あの……風邪引きますよ?」


 はっと気付いたように振り向いたその人の瞳に、私は引き込まれた。全てを包み込んでしまうような深い藍色。垂れ気味で優しい目は長く伸びた前髪に隠されているが、その輝きが失われることはない。高い身長と少し大きい制服だが、細い体のおかげで威圧感がなくなり、優しい雰囲気になっている。凜さんに負けないくらいの整った顔立ち。どこか中性的だからズボンじゃなきゃ女子と間違っていたかもしれない。


「あ、えっと、いきなりごめんなさい。寒くないのかな~って」

「これくらい大丈夫だよ……へくしゅっ」

「ほら、言ったじゃないですか」


 私は傘を持ってもらって、その人の頬を両手で包み込んだ。頭一つ分くらい高い肩がびくりと震えた。やっぱり、体は氷のように冷たい。急いで温めないと。でももう下校時間になっているので保健室も先生もいない。どうしよう。

「これくらい大丈夫だよ。僕、体は丈夫なんだ」

「そんな細い体して何言ってるんですか。あぁもう。どうしよう……」

「抱き合ったら愛の力で温まるよ」

「冗談言ってる場合じゃないです」


 冷静に却下されたせいか、その人は元気なときの愛莉みたいに唇を尖らせた。

 そして、おずおずと私の手を握ってくる。ひんやりとした大きな手にぎゅっと力が入り、突然その力を緩めたかと思うと、私との隙間を埋めるように指を絡ませてきた。体の距離が近付いて、腕が微かに触れる。どきりとした。

「ちょっ……なんなんですか急に」

「ん~? だって弥生ちゃんの手あったかいから」

「ど、どうして私の名前知って……」

「同じクラスじゃん。覚えてない? じゃあ『はじめまして』って言っておくよ」

 同じ学年だったのか……正直クラスメイトには興味がなかったので愛莉や零以外の人達の名前とかは知らない。顔くらいは覚えておくべきだったのかな。


 恭一郎、と名乗ったその人は悪戯をした後の子供のようにニイッと笑う。絡み合った手にまた力が入り、恭一郎さんは歩き出す。私を引っ張るように少し前を歩くその髪は濡れていて、先から大きな雫が垂れていた。


 男の人と手を繋いで下校する。私はそんな初めての体験に少し戸惑っていた。なにか話をしなくちゃいけないのだろうか。微妙に私の傘に入っていない恭一郎さんを見て、また傘を傾ける。



「あ、そうだ」

 いきなり立ち止まられて、前を向いていなかった私はその背中に顔面をぶつける。痛い。

 振り返って、彼が私のほうを覗き込んだ。綺麗な顔が近くなって、目を合わせないように横の方を向く。目を合わせたら美しい瞳に引き込まれて、戻って来れなくなりそうだから。


「弥生ちゃんって、可愛いよね。肌もすべすべで睫毛も長くて。あ、頬は真っ赤。まるで――」

 ――りんごみたい。



 硬い何かに唇を塞がれる。




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