さようなら私の青春。
見た目年齢14歳。オーラ無し、威厳無し、小さくて存在感も無し。好きな食べ物は竹輪。趣味は掃除と裁縫、特技は速読。そんなツンデレ少女な閻魔様と執事が織りなすラブ(?)コメディです。
私の名前は小坂楓。
普通の会社員の父親と、レジ打ちのパートの母親の間に生まれた。
ごくごく普通に15年間生きてきて、それなりに友達もいて、好きな人もいて、青春していた。少なくとも今この瞬間までは凄く幸せだった。
「…ない…。」
喜んで騒いでる人が大勢いる、大きな掲示板の前。
私が春から通うはずだった高校の玄関の前。
合格圏内だから、もう少しランクを上げてみたら?なんて先生に言われたけど、どうしてもここがよかった。
滑り止めの私立も受けなくて済むし、何より大好きな先輩がいる。
そんな高校の合格発表。私の番号がない。
何度も何度も探す、同じところを行ったり来たり。
「ない…。」
少し離れたところで喜んでいた友人たちが駆け寄ってくる。
「楓。どうした?」
どうした?って、こんな落ち込んでるんだから察してよね。
「落ちちゃったみたい。」
「…まじか…。」
そうだよね、返す言葉ないよね。
「ごめん、私一人で帰るわ。ごめんね!」
涙がポロポロこぼれてきそうで、慌ててその場から立ち去ろうとすると見慣れた人が視界に入ってきた。
大好きな先輩。
中学の時に一目惚れして、ずっと追っかけてきた。卒業式の日に頑張って告白したら、同じ高校に入ったら付き合おうって言われた。
でも、その約束。果たせないみたい。
話しかけようか悩んでいると、先輩を呼ぶ声が後ろから聞こえた。
「ごめんね、待った?」
綺麗な女の人だった。
ほどよく短いスカート、紺色のダッフルコート、チェックのマフラー。
黒い髪が綺麗なその人は先輩のところに駆けて行った。
二人は恋人同士らしい。
私が夢見ていた先輩の隣は、その女の人の場所だった。
お似合いだな。綺麗な人。
私なんかより、ずっと似合うな。
そっか、先輩は私との約束なんてどうでもよかったんだ。
一気に涙が溢れてきた。
悲しくって、悔しくって、どうしようもなくって。
ふいに携帯が鳴って、開くとお母さんからだった。
「もしもし。」
「もしもし楓?もう合格発表見たんでしょ?あのね、今夜お祝いにしようってお父さんが焼肉連れてってくれるって!」
「あー、あのさ…」
「だから夕方には帰って来てちょうだいね!明日も制服買いに行くんだからね!」
一方的に切られた。
かけ直そうかと思ったが、やめた。
もし私が落ちたなんて知っても、別にいつもと変わらないとは思う。責めることもないし、無理に励ますこともないだろう。
でもなんだか言いづらかった。完全にタイミングを失った。
そもそも、高校に落ちたことより失恋したことの方がショックだった。
トボトボ歩いて、自宅のマンションの前まで来てしまった。
エレベーターで最上階まで上がる。
非常階段の扉を開けて、大きく深呼吸した。
悩み事があるといつもここに来る。
空は全てを包み込んでくれる気がする。
私がどんなに泣いていても、黙って見つめていてくれる。空の大きさに比べたら、私の悩み事なんてちっぽけなもの。大丈夫、また明日から頑張ればいいさ。
いつも通り、空は私を見下ろしていた。
「死んだら、人ってやり直せたりしないのかな。」
何を考えているんだろう。
私の悩み事なんて死ぬほど辛いことじゃないのに。バカね。
世界にはもっと辛い人なんてたくさんいるのに。
「でも、私が死んでも。きっと明日は普通に始まるし。」
先輩が、あの人と別れることもないだろうし。
「死んでも、いいんじゃないかな。」