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バトルになるとつい興奮して心の声が漏れちゃう

短期連載です。良かったら読んでみてください。

「俺は主人の剣だ。俺は主人の敵を切り殺す。俺は主人の命あらば、その白刃を己が血で染める事を厭わない」


 もう何度目かも分からない誓いの言葉を口にする。

 飽き飽きだ。

 

 俺の空っぽの誓いの言葉。それでも目の前の我が主人、ツークリフトは満足げにその美しく整った唇を歪める。

 「そうよ、分かってんじゃない。今後は気をつけなさい! 」

 初めての野宿で気が立っていたのだろう、なにやら俺に当り散らしていたが、誓いの言葉1つで怒りの矛は収まったらしい。

 「じゃあ、この話はここまでね」

 そう言って、焚き火に薪をくべるツークリフトの良く通る声が、宵闇の深い森に沈殿してゆく。


 ツークリフトの唇の形と美しい声だけは俺も認めるところだ。

 だがそれ以外は大嫌いだがな。

 焚き火の明かりに沈む澱のように影を作る、起伏に富んだ肢体も、国1番とも噂される黒髪もだ。


 その大嫌いな俺の主人とは、国中で知らぬものは無い名家の娘、5人姉妹の3女だが家督を継げず、しかし諦めず最強の魔道書とやらを探す旅に出た18歳のお嬢様だ。

 代々魔法使いの家系で、最強の魔法使いが家督を継ぐらしい。本人に聞いたわけでは無いが、ツークリフトの性格を鑑みるに家督よりも最強の称号が欲しいのだろう。

 

 パチン、と焚き火が大きな音をたてる。


 その音が癇に障ったらしい。

 「大体なんでこのあたしが蒔き拾って、焚き火にくべなきゃなんないのよ」

 ツークリフトの感情を読むことに比べれば、虫の感情を読む方が容易いだろう。

 本当に最悪の主人だ。

 「ああ、悪いな。だが、寒いから火が欲しいと言い出したのは主人だし、野宿になったのも、主人がいつまでもダラダラと買い物してたせいだろ」

 「ああ、そうか。じゃあ仕方ないわね。ところでゼファーは寒くないの?」

 ゼファーというのはツークリフトが俺につけた名前だ。奴隷は主人が変るたび名も変わる。

 

 「ああ、俺はそれほど寒くは……」

 「そんなことより今度のダンジョンは本物なんでしょうね? 前みたいに最深部に温泉が湧いてた、なんてことは無いでしょうね?」

 俺はツークリフトに軽い苛立ちを覚えながらも、実は今回の情報には確信を得ていた。

 

 今回のダンジョンは「当たり」だ。


 だがそれはツークリフトにとっての当たりではない。俺にとっての当たりである。

 この女にとってはハズレ。

 いや、大ハズレと言っていいだろう。当然そんなことはおくびにも出さないが。


 「さあな。だがダンジョンの奥には必ず何かがある。主人の求める物がそこにあるかどうかは知らんが、あるとすれば必ずどこかのダンジョンの中だ」

 「全く。ゼファーってホント役に立たないわよね。役立たずのお荷物なんだから、せめて会話くらいは盛り上げなさいよ」

 本当にこの女は他人の神経を逆撫でる事に長けている。

 当の本人に悪気は無いのだが、悪気は無くとも噛み付く犬は蹴っ飛ばされるものだ。

 まあ、俺には蹴っ飛ばせないので誰かコイツを蹴っ飛ばしてくれ。


 「役立たずで悪かったな! ならパパに頼んで有能な騎士でも剣士でも雇えばいいだろ」

 「なによそれ! それが無理だからあんたみたいのと組んでるんじゃない! 」 

 珍しく寂しげな顔でツークリフトが唇を尖らせる。

 「ゼファーもあたしと付き合い長いんだから、今更そんな事言わないでよ……」


  

 確かに今のは失言だった、ツークリフトの言う通りだ。

 ツークリフトの魔力は一族でも最強といってもいい。しかし魔法使いは仲間、パーティーに所属してこそ真価を発揮する。

 ツークリフトは魔力こそべらぼうに強かったが、それを敵に当てることが大の苦手だった。

 否、苦手とかのレベルではない。1000発魔法を放って1発も当たらないなど最早絶技である。ある意味超人と言ってもいい。


 つまり極度のノーコンなのだ。


 ツークリフトとパーティーを組んだ者は、全て後ろから味方ツークリフトに撃たれてドロップアウトした。

 付いた通り名は「味方殺し」

 結局まともな奴はツークリフトとパーティーを組むことを恐れ、剣奴隷である俺に白羽の矢が立ったのだ。

 

 ……先に言い訳しておくが、ツークリフトの寂しげな顔に勘考していたせいではない。

 ついに目指すダンジョンを見つけ、知らず知らず俺は浮かれてしまっていたのだ……


 くそっ、なんたる迂闊! こんなに接近を許してしまった!

 奴等はすでに気配を殺していない。一直線に、全速力で俺達に向かって突進してくる。

 姿はまだ見えないが、剥き身の殺気と貪欲な気配は俺の刀身に無遠慮に突き刺さる。


 「ツークリフト!! 魔物だ! 会敵まで10ピム!! 」

 「10秒?! なにやってんのよ! この役立たず! 」

 「すまん!! 後でいくらでも謝ってやるからとにかく逃げろ! 」

 「方角指示してよ! 」

 「北だ! 北に逃げろ! 」

 

 ツークリフトは大慌てで立ち上がると俺の「柄」を右手で握り、地面に突き刺さっていた俺の刀身を抜き放つ。

 「ばか! 右手で俺を握るな! ばか! 」

 ツークリフトは素早く俺を左手に握り変えると、漆黒の森へ走り出す。

 だが魔物の方が圧倒的に速い。その距離はどんどん縮み、足音も聞こえてくる。

 重く響く音から重量級が5~6体か。

 

 「追いつかれるぞ! もっと早く走れ! うすのろ! 」

 「あんたさっきから言いたい放題ね! だったら自分で走ってみろっつ-の!! 」

 俺を左手で握り締め、呼吸を乱し必死で走りながらもツークリフトは悪態をついてくる。

 「主人に向かってバカだのうすのろだの、剣奴隷の癖に生意気なのよ!! あと何秒? 」

 「15秒! 死ぬ気で逃げろおお!! 」

 魔物の足音、いや、もうとっくに肉眼で確認できる。 完全に追いつかれた。

 その巨体はツークリフトの身の丈ほどもある棍棒を振り上げ、今まさにそれを振り下ろさんとしていた。

 ツークリフトは一心不乱に前だけを見て走っているので全く気付いていない。逃げる時はそうしろといつも言っている。

  

 「避けろ! ツークリフト! 」

 俺の叫びにツークリフトは一瞬の躊躇もなく飛ぶ。彼女の華奢な体が地面を転がる。

 直後、振り下ろされた魔物の棍棒が大地を揺する。とんでもないパワーだ。

 もしまともに食らったら彼女の凹凸に富んだ肢体は地面と一体化していただろう。


 ……しかし……


 「よし、30秒経過! 良く凌いだなツークリフト」

 「あんたがもっと早くこいつらに気付いていれば、こんな逃げ回らずにすんだのよ! 膝擦り剝いちゃったじゃない! あと前から言おうと思ったんだけど、戦闘の時名前呼び捨てするのやめてよね。次呼び捨てにしたら、その刃叩き折るからね」

 



  最早俺達に危機感は微塵もなかった



 続く

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