犬より猫派
次の映画まで微妙な時間があり、さてどうするかとなった所で、ユウコさんの希望でペットショップを見てみることになった。
当然何かを買えるはずもない冷やかしだけれど、暇潰し程度なら良いかと行ってみることに。
休日ということもあり家族連れで賑わうペットショップ。その中でもテンション高めなユウコさん。
何というか、子供みたいな人だ。
「わあ、猫だ猫。可愛いね」
「そうだね。でもアユの可愛さには敵わないかな」
「眼科に行きなさい」
さもなくばいね。隣に彼女が居るのに、何で私を引き合いに出すのかこの馬鹿兄は。
「アユミちゃんも照れ屋さんだねぇ」
そして兄の態度を気にした様子もなく、微笑ましいものでも見るような目を向けてくるユウコさん。
やめろ。それでは私が兄に素直になれないツンデレみたいではないか。
「でも可愛さならうちのカズちゃんも負けてないよ!」
「……」
ガシッと抱きつく姉と、無言で微動だにしない弟。
すいませんユウコさん。その可愛さはちょっと上級者向きすぎて私には分かりません。
「確かに、カズマくんもアユに負けないくらい可愛いね」
実の兄が上級者だった。
え、というか私あの目付き悪い男と同レベルなの? さすがにそれは酷くない?
「……小笠原さんの方が可愛い」
「どんな謙遜よ!?」
姉をぶら下げたままズレた発言をする斎藤弟につっこんだら、ちょっと弱気な顔でビクッと震えた。
……今のは確かにちょっと可愛かったかもしれないと思ってしまったのは、私も兄に毒されたせいだろうか。
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「あ、これ凄くおっきくなる犬だよね。えーとグレ……グレーターデーモン?」
「グレートデンです」
何処の養殖悪魔だ。いや、ある意味養殖はされてるけども。
「アユミちゃんは犬と猫どっちが好き? 私は猫の方が好きかな」
「私も犬よりは猫ですね。犬はじゃれついてくるから苦手で……」
「あ、この子抱っこしても良いんだって!」
「……」
姉さんのペースに完全に振り回されてる小笠原妹。困ってるのがよく分かる。
「本当によく動く人ね。いつもああなの?」
「……大体は」
姉さんから離れて話しかけてきた小笠原妹に、なるべく平静を装いつつ答える。
二人きりだと緊張するので助けを求めたい所だが、生憎と姉さんと小笠原さんは店員さんに渡された白い子猫に夢中だ。しばらく戻ってはこまい。
「大変じゃない? お姉さんの相手」
「……まあ」
大変といえば大変だろう。姉さんはマイペースだから、こちらの予定を崩される事だってよくある。
鬱陶しいと思うことだってある。だけど嫌いだと思ったことはない。
結局のところ俺は――。
「姉さんが好きだから、嫌じゃない」
そんな本音を漏らしたら、小笠原妹の口から「プッ」と空気が漏れた。
……待て、今笑うポイントあったか!?
「……」
「……プッ」
無言で抗議の視線を向けたら、目があった瞬間また吹かれた。
いや、マジで何で笑われてんの俺!?
「ご、ごめんなさい。確かにちょっと貴方可愛いわ」
「どうしてそうなった!?」
今のやり取りの何処に萌えポイントがあった!?
お兄さんはちょっと変な人だと思ってたら、妹も変だったのか。
「……小笠原さんはお兄さん好き?」
「嫌いじゃないわよ。もう少し妹離れはしてほしいけど」
嫌いじゃない。その答え方はズルくないだろうか。
そう思いながら視線を向けたら、小笠原妹は再び「プッ」と吹き出した。
……この人の笑いのツボが分かりません。