楽しい?昼食
何だかんだで此花に到着。何かえらい疲れたのは何でだろう。
「やっぱり休みだと人が多いね」
「そうだね。少し早いけど先にお昼にしようか。後で行くと混むだろうしね」
小笠原さんの意見に反対もなく、とりあえずはレストランの並ぶ区画へ。
ファーストフードはもちろん中華料理店やデザート専門店と色々あるのだが、オーソドックスなファミリーレストランへ。
しかし案内された四人用テーブルで俺はいきなり試練に見舞われた。
「奥にどうぞユウコさん」
「ありがとうシュウくん」
流れるような動作で姉さんを座らせ、さらに隣に座る小笠原さん。
やはり意外に仲は良いらしい。恋人たちの仲が良いのは大変よろしいのだが、その二人が隣り合って座ると俺的に大きな問題が発生する。
「……」
「……」
残されたのは入り口側の二人がけの椅子。さらに残されたのは俺と小笠原妹。
……並んで座れと? ただでさえ苦手なタイプな上に、まともな会話すらしてない女子と並んで座れと?
「……奥どうぞ」
「ええ」
小笠原さんに習い奥を譲ってみたが、何という微妙な雰囲気。
テーブルのあっちとこっちで空気が完全に違う。温度差で竜巻でも発生するのではなかろうか。
「あ、お子様ランチがある。懐かしいね」
「そうだね。ごはんの旗をどうやって倒さずに食べるか悩んだなぁ」
「あ、私もやった」
小笠原さんの持ったメニューを見ながら和やかに話す兄姉。
「……」
「……」
対して無言で並んでメニューを眺める弟妹。
……何これ。何か話した方が良いのか?
いや、メニュー見るだけで話題も何もないし。でも姉さんだったら雑談ふってくるタイミングだし、現に向かいでは歓談してるし。
「二人とも注文決まった?」
「決まったわよ。斎藤くんは?」
「……決まった」
横が気になりすぎてメニュー一切目に入ってないけど。
「すいません。注文お願いします。僕はオムライス」
意外に可愛らしいものを頼む小笠原さん。いまいちこの人もキャラが掴めない。
「私はグラタンお願いします」
「私もグラタンお願いします」
姉に続き小笠原妹もグラタンを頼む。
そして俺は……
「カズちゃんはカレーでいいかな?」
……カレーを頼もうとしたら姉に先回りされた。
黙って頷く俺を小笠原さんはにこやかに見つめていたが、隣の小笠原妹にどんな目で見られているかは恐くて見れなかった。
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……何この空気。そう言わざるを得ない。
向かいで兄さんとユウコさんがいちゃついてるのは良い。
「グラタンも美味しそうだね」
「食べてみる?」
「あーん」
のバカップルコンボを決めたのも予想外だけどまあ良い。
むしろ今まで私を溺愛していた兄さんに、有り余る愛を受け止めてくれる相手ができて何よりだ。できるなら見えないところでやってほしいけれど。
「……」
問題は横で黙々とカレー食ってる斎藤弟。
無口なのは良い。しかし警戒心丸出しなので、こちらからも話しかけづらい。
悪い人ではない。今もわざわざ通路側に座って、店員が持ってきたものを受けとる気遣いを見せてくれている。※小笠原兄を真似しただけです。
悪い人ではないからこそ、その警戒の意味が分からなくて困る。姉弟仲は良いらしいので、兄さんを警戒するのなら分かるけれど、何故私を意識するのか。
「ふふ、カズちゃんはアユちゃんが美人さんだから照れてるんだよ」
そんな私の疑問に答えるユウコさん。言われて横に視線を向けてみれば、眉間の皺を深くしてカレーを食べ続ける斎藤弟。
……これが照れているのなら、この男の表情筋には重大な欠陥があるに違いない。多分気の弱い女子がこの人の横にいたなら泣いてる。
「そうかいカズマくん。君から見てもアユはやっぱり可愛いかい?」
「……そうですね」
満面の笑みで問う兄さんに、最近終わった昼の人気番組みたいに投げやりに答える斎藤弟。
うん、本当に何考えてるんだろうこの人。
そんな私の疑問は解けることはなく、微妙な空気の昼食は何事もなく終わった。