Be you
「はい小笠原さん。いやー、モデルが良いと描く気がみなぎるわー」
そう言いながら渡された絵は、何と言うか無駄に気合いがはいったものだった。
毛先に至るまで分かる質感。光の陰影の繊細さは写真かと思わせるレベルであり、本当に鉛筆で描かれたものなのかと疑問に思えてくるほど。
というか普通似顔絵は特徴をとらえてデフォルメするものではないのか。
「わー、アユちゃん絵になっても美人さんだね」
そう褒めてくるユウコさんの似顔絵は、可愛らしくデフォルメされた上に何故か耳と尻尾が生えていた。
……大丈夫かうちの美術部。
「……ほぅ」
「……」
そして今現在似顔絵を描いてもらっている男二人……というか描いてる美術部員二人は大丈夫だろうか。
兄さんを描いてる子は時折手を止めて恍惚としてるし、カズマくんを描いてる子は微妙に視線を反らして涙目になってる。
「あはは、カズちゃん緊張しちゃってるね」
女子を泣かすレベルの圧力を放つのは緊張と言って良いのか。
果たしてカズマくんの似顔絵は無事に完成するのだろうか。
「……弟さんは昔からあんな感じなんですか?」
「ううん。全然」
何気なく聞いてみた疑問に、予想外の答えが帰ってきた。
……後天的なのあの性格? 一体どんなトラウマ刻み込まれたらああなるの。
「昔はお喋りでお調子者で友達もいっぱい居たんだけどね、中学生になったころから急に無口になっちゃったの」
さらりと言われてもまったく信じられないんですが。
お喋りでお調子者で友達いっぱいなカズマくん?
……うん。今のカズマくんのまま想像してみたら非常にキモい。
「理由は知らないんですか?」
「教えてくれなかったんだ。男の子だし、きっと私には言いたくないこともあると思うの」
そう言って寂しげに笑うユウコさん。その姿はいつもより大人びてて、やはりこの人も『姉』なんだなと納得してしまう姿だった。
「だけど、例え自分が望んだことでも、一人ぼっちは寂しいと思うの。私はお姉ちゃんだからカズちゃんと一緒に居られるけど、お姉ちゃんだからずっと一緒には居られない」
ああ、そうか。だからこの人は。
「……“友人”の性格矯正くらいは付き合いますよ」
だけど私は、知らないふりをしてそう応えた。
「……ありがとうアユちゃん」
それでもユウコさんは、安堵したように笑顔でそう言ってくれた。