クールと根暗の境界線
合流した姉さんが俺に抱き付き「三角関係!?」と喫茶店内がよく分からん熱気に包まれた昼下がり。
今俺たちは演劇部の舞台を見ている。
盛り上がって制御不能かと思われた喫茶店は、小笠原妹の「黙れ」という限りなく絶対零度に近い声に沈黙した。
うん、マジで恐かった。小笠原さんは雪女ですって言われたら信じるくらい寒気がした。
仮に小笠原妹が雪女でも、俺には秘密を漏らす相手も居ないから安心だ。ぼっち万歳。
……自分で言ってて悲しくなってきた。
「……」
そして演劇を見る俺の隣の席には、未だ少し機嫌が悪い小笠原妹。
そりゃ恋人と間違われた男と二人で校内練り歩かにゃならんから機嫌も悪くなるだろう。
姉さんと小笠原さんはさっさと二人で居なくなってしまったし、俺たちをどうしたいのだろうかあの人たちは。
「……」
「……!?」
そんな事を考えながら隣を見ると、丁度こちらへと振り向いた小笠原妹と目があった。
「……ハァ」
「!?」
慌てて目をそらしたらため息をつかれた。
ごめんなさい。俺なんかしましたか。分からないけどごめんなさい。
「ごめんなさい」
「!?」
心の中で謝ってたら、逆に謝られた。
もう訳が分かりません。助けてドえもん!
「別に貴方は悪くないのに、イライラして八つ当たりして。恋人扱いが不服なのは貴方の方なのにね」
「……」
予想外の言葉にちょっと固まった。
こちらの事情や内心まで考えて謝ってくるとは、小笠原さんは結構思いやりのある人なのだろうか。
少なくとも、俺の意見を聞かず責め立ててくる奴らとは違うらしい。
「……俺もごめん」
「それは何に対する『ごめん』なのかしら」
「……」
「……ハァ」
答えられずに黙っていたら、またため息をつかれた。
やめて。それ意外にダメージがでかい。何か凄い失望された感がある。
「お姉さん相手なら問題無いんでしょうけど、もう少し話せるようにならないと。将来苦労するわよ」
ごもっともな意見を本気で心配そうな顔で言われた。
間違いない。小笠原妹は良い人だ。雪女とか思っててごめんなさい。
「私で良ければ話し相手くらいにはなるわよ」
訂正。雪女どころか女神やこの人。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
俺が礼を言うと、小笠原妹は朗らかに笑って言った。
可愛いなこんちくしょう。いつもの不貞腐れた顔やめて笑ってれば三倍は可愛いのに勿体ない。表情については人のことは言えないけど。
「今失礼なこと考えたでしょう」
何故分かった。
話し相手になると言われたが、この人俺が話さなくても全部分かるんじゃなかろうか。
そんな事を考えている内に演劇は終わりを迎えていた。