ダブルデートの意味を調べて来い
「今度の休み斉藤さんと此花に行くことになったんだ」
夕食が終わりくつろいでいると、満面の笑みを浮かべた兄がそんな報告を始めた。
斉藤さんは兄がほぼ一方的に惚れている女の子で、此花は近くにあるショッピングモールの通称である。初デートがショッピングモールというのはどうかと思うけど、確か此花には映画館もあったので案外悪くないのかもしれない。
「アユも一緒に行こうか」
「兄さん馬鹿なの?」
デートに何さらっと妹同伴させようとしてるの。死ぬの?
「え? でも斉藤さんも『じゃあ私も弟連れて行くね』ってノリノリだったよ?」
「畜生! 相手も馬鹿だった!」
じゃなきゃ重度のブラコンだ。そして非常に残念なことに斉藤さんは重度を通り越した末期のブラコンだ。
……やばい。こいつら本気だ。本気でデートに弟妹くっつけてくつもりだ。
「女の子が畜生とか言っちゃだめだよ。大丈夫。斉藤さん明るくて優しい人だから」
「まあ兄さんよりうざい人間がこの世に居るとは思えないけど」
「うん。今日も絶好調だねアユの毒舌は」
顔で笑って心で泣いてる兄は放っておいて、何とか断れないかと考える。
一応デートなのだから、自然と兄は斉藤さんと話す機会が多くなるだろう。というか私だってそうなるように仕向ける。
しかしそうなると、必然的に私と斉藤弟が余るのだ。ハッキリ言って同年代の男子に興味が無い、むしろ嫌いな私には拷問に等しい。斉藤弟が思春期男子の馬鹿代表みたいなやつだったら、私の拳が唸りを上げる可能性もある。
「……やっぱり私行かない。デートなんだから斉藤さんと二人っきりの方が良いでしょ?」
「え? もう斉藤さんにアユも行くって言っちゃったよ?」
斉藤弟の前に兄に向かって私の拳が唸りを上げた。
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「えへへ、週末にデートすることになったんだ」
「へえ……」
いつも通りに部屋に突撃してきて、ニコニコ笑顔でそんなことを言う姉さん。
何で弟にデートの報告とかするのだろうか。普通そういうのって隠さないだろうか。姉が男と付き合うって弟としては複雑だから、できれば見えない場所でやってもらいたいのだが。
「カズちゃんも一緒に行こうね」
「何故そうなる」
楽しそうな笑みでとんでも発言をする姉さん。この人はデートの意味分かっているのだろうか。
もしかして俺を連れて行って相手の男性を牽制するつもりなのだろうか。
「……」
「?」
相変わらずの笑顔な姉さん。その笑顔に裏は見られない。というかこの笑顔に裏があったら俺は女性不信になるしかない。
「小笠原くんも妹さん連れてくるんだって。ダブルデートだね!」
「……」
裏は無いがうちの姉はあほの子かもしれない。そして相手の小笠原くんとやらは確実に阿呆だ。
どこの世界にデートに妹引き連れてくる男が居るのか。目の前に弟引き連れていく気満々な姉は居るけど。
……あれ? もしかしなくても同類?
「……相手の妹さんは同意してるの?」
「OKだってメール来たよ」
それで良いのか小笠原妹。
いや、でも俺が姉さんのデートを複雑に思うのは、俺が姉さんのことをそれなりに好きだからだし、もしかしたら小笠原兄妹の仲はそれほど良くないのかもしれない。
それに思春期の女子というものは我侭で強かだ。兄のデートにかこつけて色々とおごらせる魂胆なのかもしれない。
しかしそうなるとマズイ。
自慢じゃないが、俺は姉以外の女子とは普段ほとんど接触しない。というかぶっちゃけ女子恐い。
大人しめな子はまだいい。だが問題は一部の気の強くて、しかも男子に理不尽な嫌悪感を持っている女子だ。
「男子ちゃんとやりなよ」とか言わないでください。俺はちゃんとやってます。だから十派一絡げにして俺を睨むのはやめてください。
「妹さんはちょっと口が悪いけど、照れ隠しだから気にしなくて良いよって小笠原くん言ってたよ」
終わった。照れ隠しとかシスコン兄の妄想乙なのである。
「アユミちゃんっていうんだって。カズちゃんとアユミちゃんも仲良くなれると良いね」
多分無理だと思います。
しかし楽しそうな姉に嫌だとも言えず、俺は胃痛を抱えながら週末を迎えた。