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習作

【習作】囚われたもの

作者: さとう

 かつての英雄を笑い貶し、すべての救世主を詰り罵った男がいた。

 ――英雄はただの人に過ぎない、閉塞した時代と荒んだ空気を自由の嵐で吹き飛ばそうとしただけであると。

 ――救世主はなにもしていない、人が勝手に絶望の幻想を抱き、勝手に救済されたと勘違いしているだけだと。

 その姿を見た人々は彼を恥知らず、罰当たりだと言った。世界を変えた者らを馬鹿にするなど、気が触れているとしか考えられず、誰も受け入れることなどしなかった。


 それからは彼は信じないものになった。その根底にあるのは、終わりなき孤独から生まれるものであった。誰とも分かり合うことのできない過酷な運命に苛む彼にとって、人は信ずることのできないものだった。この境遇を語ったことが何度もあったが誰も信じない。人によっては馬鹿にして、頭のおかしい奴だと決めつけるものもいた。

 男は諦めた。誰も彼を信じない、だから彼も人を信じないのである。

 また、信じることは己の放棄と考えていた。何かに寄り添い生きることは愚かな行為だと認識していた。彼は信じるものをみて悟った。かつての英雄の為に己の考えを殺し盲目の僕となる、すべての救世主の為にその身に宿る全て捧げる、彼らは何もしていないのになぜそこまでするのか。その行為を成すことによって彼らは何を手にする。あるのは英雄の名を投影された己への陶酔と、主の名のもとに行われる欺瞞に満ちた救済と祈りだけである。そう男は考えた。


 歴史では栄光に満ちた勝利の図式を持って二人の結末を語られるが、真実ではなかった。英雄は地に落ち失意の中で最期を迎えた。救世主は何もせず自失の中で朽ちていった。後世では偉業として称えられるようになったが、実際は己がするべきことや何も成すことが出来ず無念の内に終わった。

 本来行うべき行動はもっと違う、ただひたすらに己のために行われるものだった。誰のためでもない、自分自身の自由と救済のために闘い、駆けずり回った。しかし、夢の果てはならず、結果として人々を救いだしたようにみえたのだった。


 男だけが知っている。自分こそが、かつての英雄であり、すべての救世主であることを。いつからか繰り返される人生。男は世界に囚われ、同じ世界の過去と未来を廻り続ける。

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