No.006 二人くらいなら何とかなる
「おい、奇襲はどうなった」
「不良共返り討ちにあいやがった」
「それで、あいつらの被害は」
「髪が短い女が足に、長い女は腕に傷を負わせたらしい」
「ちっ、たったそれだけかよ…おい、どうする」
「そういえば残り1人はわかったのか?」
「いいや、まだだ」
「そうか…、刀使いはとりあえず無視しとけ」
「わかった、神楽坂自体はどうするんだ?」
「あいつへの直接攻撃はつまらない、精神的に潰すのさ」
「俺らも順調に3回戦へ進んでいる。上手くいけばあいつらと戦うかもしれん」
「そこで潰すのか?」
「あぁ、わざと威力を低くして銃弾の雨を浴びせてやる」
「でも勝ち進む保障はないだろ?」
「そうだな、だったら―――――。勝たせるまでだ」
☆★☆
「三回戦は【交差点】かぁ…」
トーナメント表を見つめている佳奈が呟く。
交差点。東西南北と伸びる大通りに加え、真ん中には巨大なスクランブル交差点がある。
四角いこのフィールドの角にはそれぞれ廃墟のようなビルが建っており、そこへ登ることは可能で、そこでSR狙撃や、敵の位置確認などが行えるようになっている。
隠れる場所が中央には存在しないため、対角線に敵がいたとしたら丸分かりというフィールドだ。
二回戦の迷路とは違って広々としたフィールドにちょっと安心する。
「………そういえば、どうやって3人で相手に勝ったの?」
さっきまでお姫様抱っこされていて、やっとのことで降ろしてもらえた香帆が問う。
それは俺も気になっていた。
いくら文や佳奈、智也が強いからって3人で5人は倒せるものではない。
その質問は佳奈が答えた。
「えっと、最初に智也くんと私で文くんを援護しながら中央塔まで向かったの、そしたらなんと文くん中央塔まで行っちゃってね!」
中央塔まで行っただと!?
だからあそこまで人が集まっていたのか。
今まで前人未到の領域だった中央塔へのゴールを達したということは、かなり迷路で戦いやすくなっただろう。
「それでね、文くんの指示で上手いこと迷路を移動して、一人ずつ倒そうとしたんだけど、やっぱ腕が痛くて、一人目で相討ちになっちゃった」
くっ、やはり腕の傷が試合に支障をもたらしたか…。
今までの話の流れでは、こっちは最初から3人で相手は5人、佳奈が1人倒して、佳奈自身もやられたってことか。
「まぁ、それでね。そこからがすごくて!智也くんが残りの4人は前から後ろから横からバッサバッサと倒していったんだよ!刀で!」
ハ、ハハハ…。
刀でバッサバッサと。それはまた相手側からしたら度肝を抜かれるだろうなぁ。
確かに近接武器は移動速度も銃より速いし、尚且つ攻撃を早く行える。
狭い空間で、さらに迷路により1人になった相手を、文の指示により智也が狙い倒す。
「………すごいじゃん」
まさにその通りだ。
「それもこれも!全部文くんの指示があったからこそなんですよねー!」
「そうだな!文ちゃんマジすごいよ、中央塔に辿り着けるなんて!」
「いやいや…、二人の援護があったから安心して道を進むことができたんだよ」
三人が楽しそうに会話を進める。
俺もこの輪に入れたらよかったな…と思うが、それは香帆にとっても同じことだ。
明日には動き回れるくらいに回復する、と先生に言われたが。本当にそこまで回復するとは限らない。
多分明日はSRが大切になってくるだろう。
でもSR1位の香帆が、この足の状態では…。
「さて、今日はもう帰ろうか」
佳奈の一言で、俺らは解散することになった。
□■□
「ただいま」
「おかえりなさ~い。今日は学校どうだった?」
「おう、まぁまぁ楽しかった」
「今日はハンバーグよ、できたら呼ぶわね」
「わかった」
バタン、と自分の部屋の扉を閉める。
「はぁ…」
また溜め息が出てしまう。
体中の力が抜け、またベッドの上に寝転がる。
昨日と同じように電気点けず、カーテンは閉めていない、そのままの暗い部屋だ。
あぁ、とうとう傷付けてしまった。
星野の逞しい腕に傷を。
天野の力強い足に傷を。
自分はやっていない。
そう言い聞かせる。
星野はなんとか動いていたが戦いでは星野らしくない動きだった。
天野はやっと歩ける状態だ。
怖い。
これ以上仲間を傷つけられるのが怖い。
俺に直接嫌がらせでもすればいいのに。
あえて仲間を狙っている。
やめろ。
仲間に手を出すな。
学校では少しでも笑えたけど。星野と天野を見るたびに何度も泣きそうになった。
まだ強くない。
俺は強くない。
みんなを守れる強さがほしい。
自分を守れる強さがほしい。
だから俺は銃を学びに来たんじゃないか。
身を守る武器を自分の手に取り、強さを手に入れる。
自然と涙が零れる。
泣くな、泣きたくない。泣いてたまるか。
明日も―――勝たないと。
□■□
三回戦、またの名を準々決勝と呼ぶ。
ここまで勝ち登ってくると、若干有名にもなるのだが、CHAINで有名になったのは二回戦に出場した3人で、俺と香帆はほぼ無名のままだ。
元々文と佳奈は有名だし、智也も別の意味で有名らしい。
その3人がまた有名になったところで何も変化はないだろう。
いつも通り校門を通過し、校内へ入る。
そういえばまだ例の5人は俺がCHAINのメンバーだということは知られていない。
だからいつも通り校門を通過できるわけだ。
しかし佳奈と香帆はそのいつも通りを壊されたわけだ。
心配だ。
やはり今からでも2人の元へと向かおうか…。
でもここにいるって言ったしな…。
「わっ!」
「健太おはよう」
「あれ、昨日は驚いたのに」
月曜日から恒例の如く驚かせようとする健太。
昨日はかなりの不意打ちで驚いたわけで、今日はもうなんとなく来るだろうと予想はしていた。
「昨日はいきなり走り出して、どうしたん?」
「いや、まぁ。色々ありまして」
「もしかして星野ともう一人って井上んところのユニットか?」
「あぁ、そうだけど」
「マジか! …そうすると一応これは言っておいたほうが良さそうだな」
健太の表情が曇る。こいつが躊躇するとは珍しい、よほど深刻なことなのか…?
「あ、いや。そこまで悪い話じゃないと思うけど、なんか星野が入っているユニットのメンバー全員を探しているやつがいてさ」
「メンバー全員?」
全員ってことは、俺も含まれる。俺たちを探しているなんて何の用だろう。
「あぁ、神楽坂と星野、天野と中川は知っているっぽくてな、あと一人を探しているって言われて、まぁその時は知らなかったからわかんないって言って過ごしたんだが、まっさか井上がその一人だとはなー。すげぇメンバーじゃん?」
「………は?」
いや、だってよく考えてみろ?文と佳奈と香帆と智也は知っているんだよ。
なのに、俺だけ知らないっておかしいだろ?
二回戦で迷路を観て知ったなら香帆も知らないはずだ。
その後文たちと合流したあと、見て知ったなら俺も知っているはずだ。
香帆と俺は昨日ほぼずっと行動していたから、香帆を知っていて、俺だけを知らないというやつはいないはずだ。
名前だけ知らないとかだったらまだわかるが、顔まで知らないはずはない。
顔を知っているならば記憶を頼りに聞き込みなどせずに自分で探せばいい。
そんな人この学園にいないはず。
――――いや、いた。
あの5人だ。2年7組の教室でユニットとして俺以外の4人を知り、残りの俺はまだ一度も顔を見ていない。知りもしない。
あぁ、くそ。なんだよ、俺を探して何をしようというんだよ。
今度の狙いは俺か?
何をする。何をしてくる。
「あれ?井上、顔色悪くないか?」
「すまない、ちょっと…」
と言い残しふらふらと何処かに歩き出す俺。
どこに向かっている。
―――逃げているのか?
逃げてなんかいない。
―――じゃあどこに向かっている。
誰も、いない場所に。
―――何故だ?怖いからだろ?
怖くない。
―――じゃあ戦え、文は、佳奈は、香帆は、智也は戦った。
あぁ、そうしよう。
そこで俺の意識は途絶えた。
目覚めるとそこは外ではなく、室内だった。
はぁ、倒れたのか俺。
まだ開けきらない瞼を無視してとりあえずベッドから降りる。
少しふらふらするがそんなことはどうでもいい。
「あ、井上起きたのか!」
立つと丁度やってきた健太に声をかけられた。
頭がボーッとする。
ええと。
「健太…。ここどこだ?」
「保健室だけど…私は誰とか言い出すなよ?」
「大丈夫、場所がわからなかっただけ…」
あぁ、どうしたんだろう俺。
何があったかそれだけが思い出せない。
「貧血だとさ。気をつけろよ、井上」
貧血。そんなの生まれてこのかた一度もなったことないのに。
あぁ、どうしよう。試合に出ないと。
「…………今、何時だ?」
「8時50分」
「試合…始まる…」
「お前まだふらふらじゃねぇか!それで出る気かよ!」
「……健太、三回戦には行けたのか?」
「行けたけど…」
「なら……準決勝で戦おうぜ」
「……わかった、けど井上無茶はするなよ?」
「……おう」
外へ出る。【交差点】まではここから距離的に600mくらいだ。10分もかからない距離なのだが俺は結局10分ギリギリでみんなの元へと辿り着いた。
「作戦を伝える」
初日と同じように肩を組んで文が作戦会議を始める。
「まずこのステージは中心に障害物がない。更に角に建物ということで俺たちは北からのスタート。南側に敵という配置になる。こうなると迂闊に突撃するのはダメだ。だからまずは相手の出方を見よう。それからだ、以上」
『これより三回戦を開始いたします。出場されるユニットは指定されたステージへ入場してください。繰り返します―――』
丁度良く入場が開始する。開いた入り口から入場をする俺ら。
試合開始後、まずは相手の出方を見る。
柵の前に立つ。自然と俺、文、香帆は左側に、佳奈、智也は右側による。
まだハッキリとしない頭を叩き起こして、気合いを入れなおす。
やっとしっかり見え出した視界に映ったのは、遥か遠くに見える人影。
え?これってもしかして敵?いきなり銃撃戦とか始まらないよね。
「香帆、これ一気に倒すとか。無理だよな」
文もこの状況は予想外らしく、香帆に自信なさげに聞いてみる。
一瞬困った顔をした香帆だが、すぐに真剣な顔になり。
「二人くらいなら何とかなる」
と答えた。
予想通り試合開始直後に銃撃戦が開始されそうだ。
香帆が愛用SRワルサーを右に持つ。
そして文が腕の電子シートを見つめる。
―――「5」「4」「3」………「1」
ガシャン!
柵が降りるのと同時に安全装置を解除し銃を構える香帆、そしてスコープに右目をつけて、少し銃を動かしたかと思うと――
パァァアンンンン!!!!
香帆のワルサーが弾を撃つ。
そしてまた少し横に動かして――
パァァァアアンンンン!!!!
2発目の弾を撃ち終わると銃を抱えて走り出す香帆。
そこでやっと思い出す。建物に入って身を隠さなければ!
香帆がしっかりと走れているか心配したが、その心配は無用だったらしく、武器を抱えて走ることができていた。
建物の中に辿り着く、電子シートでMAPを表示させ見たところ、この建物は4階建てらしい。息を整え、物に身を隠しながら2階へと上がる。
上がったところで通信が入った。
『さっきの狙撃で一発目は1人倒したけど、2発目は当たらなかった』
2発目は当たらなかったと言ったが、1発目で当てて倒しただけでも十分すごいと思う。
建物の中は廃墟ビルを想定して作られたのか、色々なものが散乱している。
プリンターや、パソコン。プラスチック製の机などからして多分オフィスだろう。
それを避けながら窓に近寄り、割れている部分から外を覗く。
対角線上の建物には今のところ人影なし…と。
『ねぇ…みんな交差点中央見て』
佳奈から通信が入る。しかしその声には何故か元気がない。
言われたとおりに少し窓から体をのりだして大通りを見る。
そこには4人、相手チームが交差点の中央で立っていた。
『…なんだよ…舐めた真似しやがって、香帆りんのSR見てなかったのかよ…!!』
智也も見たらしく、怒りの声をあげる。
『僕が全員斬ってくる』
『まて、罠の可能性もある』
怒りに身を任せ相手を攻撃しようとする智也を止める文。
罠、しかしあの交差点の中央でどのような罠があるというのだ。
東西南北は大通りで、障害物となるものはデザインで付けられている信号くらいだ。
しかも相手は4人で最初の一人以外全員があそこに立っている。
罠を仕掛けているとは考え難い。
『………どうするの文、撃つなら撃つけど』
『―――――』
『………文?』
狙撃準備が取れている香帆が文に許可を求める。しかし返事がない。
会話が途絶える。
ダダダダダダッッッッ!!!!
不意に聞こえてきた銃声に身を屈めて物陰に隠れる。
CHAINのメンバーが持つ武器ではない銃声から判断して敵のようだ。
しかし飛んでくる銃弾はまとまりがなく、誰かを狙っているわけではないようだ。
つまり―――
『乱射してやがる』
智也の言ったとおり。ただ適当にトリガーを引いて銃弾をそこらへんに撃ちまくっているだけなのだ。
『撃て』
文の声が聞こえてきた。
冷酷で、残酷な一言だった。
『………了解』
少し遅れて香帆が返事をする。
その後、相手4人は香帆の狙撃によって地下へ送られた。
燐火:はい、おはこんばんにちわー。
ガンコン六話目は、トーナメント三回戦目です。
美帆:しかし対戦相手がCHAINとまともに戦わないという事件が発生します。
燐火:戦わずして得た勝利は何を意味するのでしょう…?
美帆:それにしても、自分のことを探られていることが分かった途端に貧血で
倒れる井上くんはどうなの…?
燐火:それが井上。でも実は―――なんて、はい。次回予告です。
美帆:えっ…あ、はい。次回は多分四回戦目に突入です。
納得のいかない形で勝利を手にしたCHAIN。
怒りに燃える中川!涙する天野!?
燐火:果たして勝利を手にすることは正しいのでしょうか…。
いよいよトーナメントも盛り上がってきます。
CHAINのみんな、一人一人応援していただけたら嬉しいです。
と、いうことで。
美帆:次回をお楽しみに!
燐火:今後ともどうぞよろしくお願いします!!