No.004 手を横に、お腹に力を入れて
「いやー!ナイスファイトだったよ、みんなー!」
佳奈がはしゃいでいる。それもそのはず、CHAINは一回戦突破したのだ。
俺は撃たれず、相手のSRを香帆が倒し、残りの相手二人も直後に文と佳奈に倒され、見事相手を殲滅したのだ。
自分は一人も倒していなかったが、そんなのはどうでもいい。
気にするべきことは俺が弾の一つも撃てなかったのだ。
倒すのは確かに自分じゃなくても誰かがやればいい。けど自分に向けられた銃口に対して何も出来ず、自分を守れなかった状況が問題なのだ。
試合に不慣れだったわけじゃない。1年生の頃、友達もそこまでいなくて、逆に一人で練習するか、戦闘に混じっていたくらいだから、むしろ慣れている方だ。
あんなミス、入学して初めて銃持った時でもしなかったのに、今の自分がどうしてしまったかわからない。
浮かれていたから?電子シートに気を引かれていたから?初めてのユニット戦だから?
どれを当てはめてみても納得がいかない。
あぁむしゃくしゃする。
みんなは自分の仕事を完璧にこなしたのに、自分はただ立ち尽くしていただけ。
ただその事だけが脳内をグルグルと駆け巡り、ただひたすらに自分を考える。
いや、別のことを考えなければ。
どうやら全試合が終わるまで2回戦のトーナメント表は公表されないらしく、それまで俺らは待つことにした。それまではまだ続いている他の試合を観て回るっていうことになった。
隣で行われていた健太の試合はまだ続いていて、2対3と人数的に健太の方が優勢なのだが、どうも応援する気になれない。
友達が戦っているのに、声が出てこない。
「はぁ…」
一つ溜め息をつく。
すると隣に座っていた香帆が立ち上がり、俺の前に立ち塞がった。
「………ちょっと来なさい」
と言ったかと思うと腕を無理やり引っ張られ、近くの校舎の裏側まで連れてこられた。
引っ張るのをやめたかと思うと、俺の胸をグーで突き、一言。
「和樹って自分を追い込むタイプ?」
痛い。言葉より突きの方が痛かった。
痛みにもがきながら、香帆に問われた内容をぼやけた頭で整理。答えを生み出す。
「…………多分」
「やっぱり」
確かに俺は自暴自棄になる事も多々あり、何でこんな事くらいできなかったのか?と自分に対して苛立ちを覚える時もある。
そこを見抜かれた俺は再び立ち尽くす。
「いい?自分を追い込んだって仕方ないの、試合は勝ったんだし私がフォローしたんだからそれでいいじゃない。どうせ安全装置を外していなかったとかそういう初歩的なことでしょ?ならもう忘れていたとしか答えがないじゃない。そんなことをいつまでも何故出来なかったのかとか問い続けても時間の無駄なわけ。わかった?」
「…おう」
「わかった?」
「お、おう…」
「足開きなさい」
え? 疑問に思いつつ言われた通り足を開く。
「手を横に、お腹に力を入れて」
手を、横に。お腹に、力を入れる。あれ?なんかやばくない?
「セイッ」
「ぐおっ!」
思いっきりアッパーをくらう。
なんとか立っていようと足に力を入れるが直ぐに抜けてしまい地面に倒れる。若干胃の中のモノが逆流しそうになるが、口を押さえそれだけは防ぐ。
「わかりました?」
「わ、わかりました…」
「………ふぅ、全く男なんだからシャキッとしなさいよ」
こんな状態にさせたのは完全に香帆だよね?
「戻るよ、みんな心配してるかも。それとここであったことは言わないでね?」
「なんで?」
「………色々と困るの」
「そ、そうか」
と言うと香帆は先に戻ってしまった。説教+暴行 (?) をして帰った彼女は、何故か少し清々しいようにも見えた。
けど最後の台詞の時に見せた、その優しそうな目の色は。
何か、俺が理解できないような底知れない悩みと、悲しみを隠したような。複雑な目の色をしていた。
それが一体何なのかは今の自分には分からない。
いや、これ以上後ろ向き姿勢はやめよう。
香帆に言われた通り、自分を追い詰めたって、責めたって何も変わらない。
さっきのはただのミスだ、忘れていただけ。それ以上でもそれ以下でもない。
そう考えると少しだけ心が軽くなったような気がした。
よし、みんなの所に戻ろう。
そして精一杯健太を応援しよう。そうしよう。
「ただいま」
「おかえり!」
と一番に佳奈が返事をしてくれる。
「おかえりカッキー!」「おかえり井上」「………おかえりなさい」
みんなそれぞれ返事を返してくれる。
いいな、ここが自分の“家”って感じがして。
☆★☆
「えー、第一回戦が終了しました。二回戦のトーナメント表を職員室前にて公表します」
ふぅ…長かったな。
どうやら健太のクロス・バードは勝利したらしく、俺らと同じように二回戦目へと駒を進めていた。
それを見届けた俺らはその後も色々と試合を観て回り、暇を持て余していた。
最後となった試合はすごい人が集まっていて、みんなはその中に入るのを嫌がっていた。自分だってあんな暑苦しそうな所行きたくはない。
第一回戦終了のアナウンスが聞こえてくるのと同時に逸早く職員室前まで辿り着き、次の相手ユニットと試合フィールドを確認する。
次の試合フィールドは【迷路】だ。コンクリートでできた壁で形成される迷路のスタート地点から始まる 。上はマジックミラーで、上を見上げると自分しか見えないが、中心には高い塔が聳え立っていてそこからは迷路全体を見渡せるようになっている。
迷路の難易度が高いのと、鉢合わせになっていきなり銃撃戦が始まるという点からこのフィールドはあまり人気がない。そのせいもあるのか、迷路を攻略し、中心塔まで行くことができたという人は聞いた事が無い。
また迷路ということでMAPが使えないようになっている。
これはめんどくさいフィールドに当たったな…。
「腹減ったぁ~」
うな垂れる智也。それも無理はない、今の時刻は〔11:49〕。もうすぐお昼時だ。
いつもの2年7組に戻り、この先どうするかを話し合う俺ら。
しかし智也の発言により、一つの行動が生み出された。
「飯でも食うか?」
文が言うとみんなが立ち上がる。余程その言葉を待ち望んでいたのだろう。
俺も立ち上がり、場のノリに乗って発言してみる。
「こりゃ購買部にダッシュか?」
購買部、これは部活ではなく、先生とは別に雇われた学園の人が開いているお店だ。
主に売っているものは武器とか、武器とか、武器なのだが。
「購買部なのにご飯類が売っていないとは名前詐欺だ!」とかいう奴が出てきて、その訴えに購買部のみなさんも「それもそうだな」と納得してしまい。つい1ヶ月前くらいに実際のお金、”円”でパンやおにぎり、弁当類が発売されるようになった。
全て手作りらしいのだが、それが家庭の味と評され生徒から先生まで幅広く全員から好評を得ている。
「いや、それだけじゃあつまらない。ジャンケンしてパシリを一人用意しよう」
パシリか、いいだろう。ジャンケンは強いわけでも弱いわけでもないがなんか勝てそうな気がした。
「なんで俺がっ…」
見事に一発で勝負を決められてしまったジャンケン。
俺がチョキで俺以外は全員グーというなんとも悲惨な状況。
それぞれのご注文を聞き、金は後払い。
自分で購買部行きを提案して自分がパシリになり、引き受けるという形になんとも納得がいかない。
そんなことをブツブツ呟きながら購買部の前に着く、購買部は南舎、北舎両方とも1階の一番右側のスペースを借りて開かれている。
みんなの注文を思い出しながら、メロンパン2つと焼肉弁当と、から揚げ弁当。それに梅おにぎりを注文する。女子2人はメロンパンで、焼肉が智也、文がから揚げで俺が梅おにぎり。メロンパンを見たときおいしそうだなぁと思ってしまったが、それほど”円”を持ってきていなかったのでやめた。
計1500円を支払い2年7組に戻る。
階段を登り、2階へと登る。3階、そして4階へ登っていく中、3階と4階の中間、上の4階から厳つい体をした男5人が横に並んで降りてきた、俺は少し邪魔だなぁと思いつつ、階段の途中で体を横にし、買った弁当が入った袋を体の側面につける。
5人は俺のことなど気にせず何かを話しているみたいで、その話が聞こえてきた。
「神楽坂のやつ、震えていたな」
「あぁ、ざまぁみろってんだ」
「あいつのユニット、徹底的に潰してやろうぜ」
俺はその話の内容に驚愕した。
神楽坂―――。文か!?
5人と擦れ違う、一番右にいたやつと肩がぶつかり、袋が一つ落ちる。
中に入っていたメロンパンと梅おにぎりが落ちる。
「おい、気をつけろよ」
と言っただけで拾わずそのまま下の階へと降りていく。
なんだ、なんだよ、震えていたって。あいつのユニットって。俺らの…CHAINじゃないか!
潰すって、徹底的に潰すって…?
訳も分からず急いでメロンパンと梅おにぎりを拾い、2年7組へと走り出す。
閉まった扉を塞がれた両手で無理やり開く。
中にはいつものみんな、けど様子が明らかにおかしい、佳奈と香帆と智也と、そして俯いている文がいた。
重く暗い空気に俺は押し返され、扉の前でただ呆然と立っていた。
「あ!おかえり和樹くん!」
佳奈が俺に気付いたようで、明るく声を掛けてくれる。
なんでこんな状況で明るく振舞えるかわからないが、その事は問題でもなんでもない。
むしろ聞きたいのは…。
「何が、あったんだ?」
「と、とりあえずご飯にしよ!このメロンパンすっごくおいしいんだよねぇ!」
そういうと少し乱暴に俺の手から袋を取り、中身をそれぞれ注文した人の元へと配り始める。みんなビニールや袋を取り始めるが、一つ一つの動きが遅い。
その中でも文は届いたから揚げ弁当に手を伸ばそうとすらしなかった。
おかしい。絶対にここで何かがあった。
「おい、一体ここで何が―――」
「黙れ」
俺が最後まで言い終わる前に文が呟く。
「なんだよ黙れって、何があったのか聞いただけだろ?」
「いいから黙れよ!」
強く言い放つ文。普段の文からは想像つかない今の態度に少しだけ自分は怖気づいていた。文の腕と足が震え、顔を一切上げようとしない。
そして噛みしめた口をゆっくりと開き。
「……ごめんな」
と言うと文は俺の横を通り廊下へ行ってしまった。
文の目には涙が溜まっていた、それを見てしまった俺は文を止めることができなかった。
4人になった教室にまた重い空気がのしかかる。
そんな中今までずっと喋っていなかった智也が立ち上がり「僕心配だから追うわ。大丈夫、傷つけるような真似は一切しないから。任せておけ!」と言い残し文の後を追った。
その後俺は残った2人から何があったかを聞くことが出来た。
2人によると、俺がパシリされた5分も経たないうちに5人の厳つい体格の男が入ってきて、「神楽坂、お前に復讐する」「まず手始めにお前のユニットをぶっ潰す」「覚悟しておけ」
等など言いたい放題言われ、帰ったそうだ。そして俺が階段で出会い、戻ってきた。
という事らしい。
まだ不明な点は多数あった。あの5人は何者なのか、復讐の理由、方法、そして何故ユニットを潰すのか。文が何故あそこまで怯えていたのか。文の”過去”に何があったのか。
この疑問の中、いくつかは文を追いかけ、帰ってきた智也が解決した。
まずあの5人は文が小学校のころ”いじめていた”5人だそうだ。
昔から成績が良く、周りからよく褒められていたのを嫉妬したのか、元々はあの5人がいじめていたのだが、その頭の良さから色々といじめを潜り抜け、いつの間にか立場は逆転していたらしい。最初はそんなつもり全くなかった、それでも毎回馬鹿にしてくる奴らに痺れを切らし、いじめへと発展した。
中学校に進学すると5人と文は離れ、文もいじめ自体を良く思っていなかったこともあり、やめることができた。
しかし高校になって、あいつらは文に小学校の頃の復讐を果たすためにこの学園に入学した。入学そうそう呼び出され、入学した目的を告げられたそうだ。
1年生の時から色々と悪戯を繰り返されていたらしいが、文がユニットに入った事をどこかで知り、このユニットを潰そうとしているらしい。
ここまでが智也が文から聞いた内容だ。その後文は帰ってしまったらしい。
「………どうする」
香帆がそこまで聞いて、無表情で言った。
「どうするって言ってもなぁ、復讐?する方法がわかんなきゃ対応しようがないし?」
「そうだな…」
確かに佳奈の言った通りだ、一番肝心な、あいつらが何をしてくるのかがわからなければ、俺らも備えようがない。
じゃあ今、何ができるか。それは文を励ます事か?いや、励ましてもあいつら5人は変わらない。また同じようになるだけだ。
しかも今はトーナメント中、あいつらは丁度5人いたから、ユニットを設立しているとなれば試合で戦う可能性だってある。
いや、今はトーナメントどころじゃない。
違うな、こんな形で参加を取りやめてしまえば文が責任を感じてしまう。それは避けるべきだ。だとしたら。
「智也、文を明日試合フィールドの【迷路】まで連れてきてくれ」
「えっ、なんで?」
「もちろん勝つためだ。こんな形で試合参加をやめてしまったり、負けたりしてしまえばそれこそあいつら5人の思い通りだと思う」
「なるほどね。了解したよ、かっきー!任せておけ」
「それであとの女子二人は常に一緒に行動していてほしい、あいつらが何をしてくるか分からない内は一人で行動するのは危ない、女子なら尚更だ」
考えたくもないが、女子を襲って人質に取るなど、想定されることは色々とある。
それを少しでも防ぐために2人で行動してもらう。まぁ佳奈や香帆を襲ったりしたら反撃をくらいそうだが。
「そしてみんなすぐに【迷路】まで来てくれ、俺は朝来たらすぐに入口で待っている」
「和樹くん一人じゃん。襲われたらどうするの?」
佳奈が心配する。しかし俺には襲われないという少しの確信があった。
「大丈夫だ、俺は2年7組にいなかったから仲間だと思われてない可能性の方が大きい、それに階段で擦れ違った時だって普通に通り過ぎて行った」
「………和樹って結構頭良い?」
「みんなよりは悪いかと」
「………そう」
驚いた顔でこちらを見つめる香帆。頭良いかと聞かれたが、文や佳奈ほどではない。だが、智也よりは良いだろう。
「よし、じゃあ。帰ろうか」
いつもの笑みを見せる佳奈。確かに、ここにいるよりは帰ったほうが安全か。
「うん、みんな気をつけて」
みんな、じゃない。ここには……文がいない。明日文が来てくれることを願おう。
「………気をつける」
不安げな表情を抱えながらも返事をしてくれる香帆。
明日何事もなければ良いのだが…。
「襲ってきやがったらカッターで返り討ちしてやる!」
何故か智也がカッターを所持していたことはスルーしておこう。
こうして、順調に二回戦へと進んだように見えた俺らは、思わぬ外部からの攻撃で崩れていった。
文のことが心配だけど、大丈夫。
だってCHAINという名の絆の鎖に繋がっているから。
まだ繋がってから一週間も経ってないけど、それでも俺らが繋がっているのには変わりないから。
燐火:はい、おはこんばんにちわー。
ガンコン四話目は、神楽坂に関するエピソードの始まりです。
強さとは、弱さとは、そして自分は何ができるか。
そんな感じです。
そしてこの後書き、一人じゃつまらないのでゲストをお呼びします。
美帆:呼ばれたねっ。
燐火:色々と協力してくれている僕の友人をお呼びしました。
美帆:うん。
本編の話になるけど、この後雰囲気的には重くなるんだよね
燐火:はい、重くなります。
しかしそれでも僕はこのエピソードを書きたかったのです。
美帆:この後CHAINのみんなはどうなるのー?
燐火:えっとですね。井上はバカです。とりあえずこれだけは言っておきます。
美帆:全然わからんね、うん。
燐火:ていうことで次回予告。
美帆:了解っ、次回は二回戦行くかなー、行かないかなーって感じだよね?
二回戦前にある事件が発生します。
私個人としてはちょっと許せない事件だけど、井上が活躍すると思います
バカらしいけど、バカはバカなりに頑張る?みたいな。
燐火:そうですね。
思い込みが激しかったり、変に気を使ったりしますが、根はバカです。
と、いうことで。
美帆:次回をお楽しみに!
燐火:今後ともどうぞよろしくお願いします!!