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Gun Control  作者: 燐火
第零章 CHAINの日常
20/21

10月28日

「いらっしゃいませー」

「あ、店長さん!」

「あぁー、確か香帆ちゃんの…?」

「はい! あの、ご相談がありまして…」

「ん? 相談? 菓子のことなら喜んで受けるよ?」

「よかった、実はですね・・・」



☆★☆



「あっ、もしもし香帆ちゃん?」

「もしもし、佳奈?どうしたの」

「いやー、香帆ちゃん28日に誕生日でしょ!」

「うん、そうだけど・・・。 あ、もしかして?」

「そう! 香帆ちゃんの誕生日パーティーを開こうと思うの!」

「ほんと!? 嬉しい!」

「だから学校終わりにユニ棟集合ねー!」

「わかった。楽しみにしておくねっ」

「うん、じゃあまたねー」

「またねー」


よしっ、頑張るか!



□■□



 10月26日、土曜日。この日は特にすることもなく、最近していなかったネットサーフィンでもしようと思っていたのだが。昼の2時くらいに携帯が鳴った。

 それは佳奈からメールで、「今から2時30分までに【街のケーキ屋】に集合!場所が分からなくてもなんとしてでもくるのじゃぁー!」とのこと。

 幸い俺は、文の誕生日の時に【街のケーキ屋】にパシりを頼まれたのだが、場所がわからなくて香帆に代わってもらう、ということがあったので、あれから何度か街を見て回り【街のケーキ屋】の位置は把握しておいた。また、文の家でかくれんぼをしたときに、改めて通信手段というものは如何に大事か思い知らされたので、CHAINメンバー全員と電話・メアドの交換は済ませてある。


 なんとなく佳奈のメールをもう一度見直すと、下の方にもう一つ文面が書いてあった。

 それは「香帆ちゃんには言わないでね!理由は察せよ!」という内容だった。

 理由は察せよ!か。香帆に言わないで【街のケーキ屋】に行く理由となると・・・。

 ケーキを買って・・・プレゼント?

 となると、考えられるのはケーキ選びってことかな。

 佳奈からのメールの文面をずっと見つめて考えていると、携帯がまた鳴った。

 次はメールではなくて電話だった。相手は文だ。

「井上も星野からのメール受け取ったか?」

「うん、文も受け取ったの?」

「おう、それでな。実は俺【街のケーキ屋】の場所知らないんだ」

 それは意外だった。文くらいならおやつとして毎日ケーキが出されていそうなのに。

「という訳で俺は井上を頼りに電話をしてみたってことだ。まぁ期待してないがな」

 頼りに電話してみたが。期待はしていないと・・・。

「文、実は俺【街のケーキ屋】知っているんだよ」

「本当か? 見栄張っていないだろうな」

「こんなところで見栄張ってどうするんだよ!?」

「いや…ちょっと疑っただけだ。じゃあ案内してくれるか?」

「ま、まぁそりゃ案内するけど…。じゃあ学校の南門集合ね」

「南な、了解」

 と言った感じに。俺のネットサーフィンする時間は虚しくも散っていった。


 部屋着から外出用の服に着替え、日向学園の南門まで行くと、そこには文だけではなく智也もいた。どうやら香帆以外のCHAINは全員呼ばれたらしい。

 俺と文の通話が終わった後、智也は文に電話をかけたらしく。ついでに智也も呼んだらしい。

 俺が来たところで全員集合。そこからは俺が先頭で学校の南側、商店街のほうへと歩き始めた。

日向学園から南に進むこと数分、商店街の奥にある住宅街、そこの一角にある【街のケーキ屋】はいつも繁盛している。何せこの島で最初のケーキ屋だったらしく。連日洋菓子やケーキを求める人でたくさん訪れている。

 この店の位置を把握するついでに、一つショートケーキを買ってみたのだが、かなりの絶品ものだった。

 程好い甘さの生クリームとふっわふわのスポンジ、それにあの真っ赤な苺とのコラボレーションは今まで食べてきたケーキの中でも上位に入るおいしさだ。

 お菓子好きが判明した香帆が、ここに通い詰める理由も納得がいく。

 開通した駅の近くということもあり、ケーキ屋・・・というか街全体が賑やかになっている。


 以前より人通りが多い大通りを、少し右に曲がった所に【街のケーキ屋】はあった。

 時間帯のせいか、来店客は子ども連れの親子が多い。日向学園の生徒は見たところいないみたいだ。

 自動ドアをくぐり抜け店内へと入る。これで2回目の来店だが、店内に入ってすぐに漂ってくるこの甘い香りは好きだ。

 ここに来い!とのことだが、先にきていると思った佳奈が店内の何処にも見当たらない。

 トイレにでも行っているのだろうかと思って店内で立っていると、一人の女性店員が声をかけてきた。

「あ、あの。日向学園の生徒さんですか?」

 目線が合い、自分に問われているのだと気付き答える。

「そうですけど…」

「えっと…CHAIN?のみなさまでよろしいでしょうか」

 見ず知らずの店員からCHAINの名前が出てくるとは思わなかったが、驚きつつも会話を続ける。

「あ、はい。あと一人いないですけど僕たちのことです」

「店長に奥に連れてくるようにと言われておりますので、どうぞ中へお入りください」

 と言いながらレジとこちら側の仕切りを押さえて奥の方を指す店員さん。

 店長って・・・あの店長さん? 何故奥に連れて行かれるのだろう、と思いながらも行かない理由もないのでそのまま奥に進んでいく。

 入ってすぐ横の部屋は厨房らしく、多くの店員さんがケーキやら色んな洋菓子を作っている真っ最中で、忙しそうだった。その中に店長さんの姿は見えなかったのでもっと奥へ進んでいく。

 事務室やトイレなどを通り過ぎ、一番奥の部屋まできた。

 明かりはついており、2回ノックをしたあと、声が聞こえたのでゆっくりと扉を開けた。

 部屋の中は学校の家庭科室みたいで、料理道具とお皿が並べられた棚や大きな冷蔵庫や冷凍庫、オーブンなどが揃えられており。小さな厨房みたいな場所だった。

 真ん中には長方形の白い大きなテーブルが一つ。そしてそのテーブルの脇にいたのが。

「佳奈っちみーつけたっ!」

 そしてその隣にはこの店の店長さんもいた。

「おー! みんな来てくれたのかー!」

 驚くことに、佳奈はエプロン姿だった。学校の制服や私服とはまた違った印象だ。

「あー、ごめんねー迎えに行かなくてー。さぁ中に入って入ってー」

 店長さんは変わらず店の服だった。

 部屋の中に入ってみると、テーブルの上には一つのケーキが置かれていた。色はベースが黒なのだが、若干薄い黄緑が混ざったような色だ。

 チョコレートケーキかと思ったが、なんか違う。

「もしかして…星野、作ったのか?」

 文が俺と同じようにテーブルの上を見つめながら聞いた。

 それに対し佳奈は両腕を腰に回し、胸を張って答えた。

「もちろん! みんなの時は香帆ちゃんが作ってくれたでしょ?でも今回はその香帆ちゃんが主役なんだから、私が作る番だよ!」

 確かに、佳奈の時のクロカンブッシュも、文の時のチョコレートケーキだって、佳奈との共同作品だったとはいえ、香帆も作っていた。

 しかしテーブルの上のケーキが佳奈一人の作品だというと。味はまだわからないが、見た目はかなりいい。

「それで、なんで僕たちここに集められたの?」

 智也がケーキをまじまじと見つめながら聞いた。『ケーキ作りを手伝って』ってことなら、もちろん手伝うが・・・既に完成しているようだし。

「あーそれね、とりあえずまぁ座ってって…椅子ないか」

「椅子なら事務室から取ってくればあるよ~?」

「あ、本当ですか?じゃあ、まぁ、座って。私が作ったケーキを試食してみて!」

 なるほど。ケーキの試食か。確かにそれは一人より多くの意見が必要となるが…。

 他にも理由がある気がする。まぁ勝手な思い込みかもしれない。今はありがたく試食させてもらおう。

 ホール型の謎の色をしたケーキを五等分にして、皿に盛られる。五等分となると角度でいうと72度だ。結構な量があるが今は丁度3時、おやつにはぴったりの時間だから小腹が空いていたところだ。

 事務室と呼ばれる部屋から椅子を5つ持ってきてもらい。テーブルの周りに座った。


 棚からフォークを取り出し。「いただきまーっす」という佳奈の掛け声と共に食べ始める。

 フォークで一口サイズに切り、口の中に入れる。

 最初はやはりチョコレートケーキと思ったが、やはりそうではなかった。なんというか。どっかで食べたことがあるケーキの味がもう一種類入っているような…。

「佳奈、これ何ていうケーキだ?」

 俺が今まさに聞こうとしていたことを文に先を越される。

 聞かれた佳奈は少し誇らしげにこう答えた。

「チョコチーズケーキっ!」

 ・・・チョコチーズケーキ?

ってまさかチョコレートケーキとチーズケーキを合わせたのか!?

驚く俺を気にせず、佳奈は続けて言った。

「いやぁ…香帆ちゃんにケーキ作ろう!と思って。じゃあ何のケーキにしようと香帆ちゃんにさり気無く『香帆ちゃんの一番好きなケーキってなーに?』って聞いたら。『私にケーキを一つに選ぶことなんてできないよっ!』って言われてさ。それで香帆ちゃんがチーズケーキとチョコレートケーキを食べてるところは見たことあって。どっちのケーキ作りましょうかって店長さんに相談したら『チョコチーズケーキ作っちゃえばいいんじゃない?』というご提案を頂きましてっ!」

 笑顔のままチョコチーズケーキを作ろうと思った理由を説明してくれた。

 それにしてもチョコチーズケーキなんて初耳だ。食べた事もなければ見たこともない。一体どんな味になるのだろう・・・。

「実は私も作った事ないんだよねぇ」

 隣に座っていた店長さんがぼそっと呟いた。本職でも作ったことがないケーキってほぼ創作品じゃないか!?

「それにしても佳奈ちゃん。結構これはいい出来じゃない?」

「本当ですかっ!? やったぁー!」

 店長からのお褒めの言葉を頂き無邪気に喜ぶ佳奈。確かにこのチョコチーズケーキ。食べたことはもちろんなかったが、十分美味いと思う。

 智也なんか・・・もう食べ終わってるし。文も何もいわないが。ああ見えて顔に出るタイプだ。結構美味そうに食べている。

 そのまま俺も綺麗に食べ終わり。「ごちそうさま」と佳奈にお礼を言う。

 みんなも綺麗に食べ終わり、しっかりと皿も洗って片づけを終わらせ、一段落したところでまた佳奈が口を開く。


「はいっ、みんな注目! 材料提供並びに場所をお貸ししてくださりました【街のケーキ屋】さんのために! 新商品の【みかんケーキ】販売のお手伝いをしたいと思います!」

 う、うん・・・?確かに佳奈が作ったケーキの材料が【街のケーキ屋】さんからの提供ならばお返ししなければならないし。この場所を俺らのような一般人のために貸し出してくれたことに対しても恩返しは必要だろう。しかし具体的には何をすれば・・・?

「いやぁ、本当はお礼なんて別にいらないんだけどねぇ。佳奈ちゃんがどうしてもって言うもんだから。じゃあ新しく売り出す【みかんケーキ】を宣伝してくれればいいかなぁ~と思ってねぇ」

 店長さんが説明してくれた内容によると、新商品の宣伝をしてくれ。ということか。

 宣伝か。宣伝となると一番いい方法は・・・。

「ポスターとか。どうかな」

 思い切って提案してみた。ポスターなら絵もかけるし、字もかける。印刷すればたくさん作れるし。配る事もできる。新聞のチラシみたいにできるので一番いい方法だと思ったのだがどうだろう。

「んー、ポスターか。いいね! それにしよう。他に案は?」

 佳奈が文と智也にも聞くが、2人とも俺の案に賛成のようだ。

 

 ポスター作りに決定したところで、店長さんが事務室からA4サイズの紙とペンを持って来てくれた。ポスターといったら、小学生や中学生の頃に夏休みの宿題として作ったことがあるくらいだが。今回は実用的なポスター。いや配るとなったらチラシと呼ぶべきだろうか。とにかく人の目に触れるものとしてちゃんとしたものを作らなければならない。

 まずは担当決めだ。

『字』担当は文に決まった。理由は一番字が上手いからだ。聞くところによると、別に習字を習っていたわけではないが、母の結さんの字が上手いらしく。子どものころからそれを真似ていたら上手くなったらしい。

みんなで話し合った結果。文字は『街のケーキ屋 新商品! みかんケーキ 明日発売!』というものに決まった。まぁこれが妥当だろう。

 そして『絵』担当は俺に決まった。理由は…恥かしいがこの中で一番絵が上手いからだ。

 『街のケーキ屋 新商品! みかんケーキ 明日発売!』と書かれたその下に、俺が描くスペースはある。とりあえず見せてもらった【みかんケーキ】の絵を左下に描いてみる。アングル的には【みかんケーキ】を斜め上から見ている角度だ。

 【みかんケーキ】はショートの方で出すらしく、人気だった場合ホールも考えるらしい。

色鉛筆を使ってほんわかとした雰囲気を出し、あえてそんなにリアルに描かないことで、実物への想像を膨らませる効果を作る。あとは空いている右下のスペースだ。

「そういえばこのポスターって、配るよね。配るとしたらどこで配るの?」

「んー、みんなはどうしたらいいと思う?」

「もう配るというよりは直接家のポストとかに入れちゃえば?」

 配る、ということは俺も少しは考えていたが。まさか智也から配る案が出るとは思わなかった。するとやはりチラシ的な要素も必要になってくるかもしれない。

 「でもさ、やっぱ店の前でも配ったほうがいいと思う」

 文からの案は店の前でも配るということだ。確かにそっちも効果的だろう。店の前で配ると、その店もついでに覚えてくれるし。何よりその場で違う商品を勧めることもできる。

 配る場所について、少し長い討論が始まるかと思っていたが。

「じゃあ両方にしよう!」

 という佳奈の一言により簡単に片付いてしまった。

 

 結果、右下の方には【街のケーキ屋】の地図を描き、真ん中の方に『値段300円!!』と書いてポスターは完成した。

 そして、何枚コピーしようかという問題に対しては「1000枚くらいでいいんじゃない?」というとんでもない提案がそのまま採用されてしまい。

 このポスターを1000枚印刷することになった。

 そこでまた問題なのが印刷なのだが、この【街のケーキ屋】はケーキ屋にも関わらず何故かコピー機を所持しており、そして何故かコピー用紙を5000枚くらいも所持しており。

「丁度消費できるしいいよいいよー」

 という理由で、1000枚印刷させてもらった。

 1時間弱で完成したポスターを、次はどのように配るのか。ということなのだが。

 まず100枚、店長さんが店の前で配ってくれるそうだ。そして残りの900枚は4人で均等に分けて225枚を、家に帰るついでに、ポストとかに入れていこう!という作戦らしい。

 もっと詳しく言うと、俺たちが住んでいる寮の掲示板は勝手に生徒が貼ることは禁止されているので、寮全てのポストに入れ、そのあまった枚数分、その他の民家のほうへ入れて回ろうというわけだ。

 文と智也が方角的に被るのだが、文は夕飯の買い物を結さんから頼まれているらしく。ついでに東のほうの学生寮にも配りに行ってくれるそうだ。

 これで東西南北全ての学生寮と、その付近の住民の下へは一応このポスターが配られるってわけだ。

 あとは口コミなどで広がるのを期待しておくしかない。

 225枚のポスターをみんな受け取った所で、『今日はありがとうございました!』と店長にお礼を言って、この日は解散となった。

 冬も段々と近づいており、午後5時となった秋の空はオレンジ色に染まっていた。

 その空の下、急いで走って家に帰り、まずは寮の個人ポストに一枚一枚ポスターを入れて、そのあと余った分だけ近くに家のポストに入れさせてもらった。

 人見知りな俺にとっては、人に手渡しするよりは随分楽な仕事だった。



 翌日、気になったので様子を見に行ってみると。

「みかんケーキ2つください」「私は5つ!」「4つください!」

 というように、【みかんケーキ】が飛ぶように入れていた。

 店内は既に人でいっぱい、店の中に入るための列は約100m近くの距離まで伸びている。

 俺もその列に並んで、【みかんケーキ】を買うことにした。

 20分ほどで店内に入ることができ、5分ほどで俺の注文の番がきた。

 丁度相手が店長さんで、話を聞かせてくれた。

 まずは、みんなのポスターのおかげですっごく繁盛していること。まぁ自分達の恩返しがここまで影響を及ぼしているとなると、とても嬉しい。どうやら日向学園の生徒も多く来てくれているみたいで。店内から帰っていく人の中には見たことある顔もあった。

 そして俺がこの店に来る前に、既に香帆と文、佳奈が【みかんケーキ】を買っていったそうだ。結構俺も早めに起きて、朝10時くらいに【街のケーキ屋】に辿り着いたはずなのだが、それを上回ってみんなのほうが早かったようだ。

 ちなみに例の如く香帆は列の一番前にいたそうで、【みかんケーキ】を5個、それに加え違う種類のケーキを5個、合計10個の洋菓子を買っていったらしい。

 香帆のケーキ好きは筋金入りということがわかった。

「ありがとうございました、頑張ってください!」

 とお礼の言葉と激励の言葉を残して、袋に入った【みかんケーキ】に少しテンションを上げながら、俺は少し早歩きをして寮に帰った。




□■□




 今日、10月28日は私の誕生日。

 しかし一人暮らしなので、当然朝起きて『おめでとう』と言ってくれる人もいるわけじゃないし。『はい、プレゼント』と言って何かをくれる人がいるわけでもない。

 少々寂しい誕生日の朝を迎えた私だけど、そう言っている間に時間はどんどん過ぎていく。夏休みには弟がいたが、夏休みが終わると中学生なので、船で愛知県の南知多まで戻らせた。夏休み中は鬱陶しくてしょうがなかったが、いざ、いなくなると妙に物静かだ。

 別に寂しくない。もうちょっとマシになってくれればいいのに。

 と、心の中で弟に愚痴りつつ、学校へ行く準備をする。

 冷蔵庫からパンとジャムを取り出すついでに、少しだけ見えた昨日買ったケーキに少しだけテンションが上がる。

 突然やってきたチラシのようなポスターのような紙に書かれていたのは私行きつけのお店【街のケーキ屋】の新商品のお知らせだった。

 少し時期的には早い気もするが、みかんが使われているケーキということで朝5時くらいに起きて一番に並んだ。

 なんで昨日は5時に起きれたのに、学校がある日はこうも遅く起きて、更に眠気が付き纏ってくるのかな・・・。

 パンを食べ終え、時計を見るともうギリギリだった。

 

 今日はユニットのみんなが私の誕生日会を開いてくれる。

 文の時みたいにロシアンルーレットだったらちょっと嫌だなぁ・・・なんて想像を膨らませながら私はドアを開け、木々が並ぶ道を歩き始めた。



□■□



 学校に着いたらすぐさまユニ棟の私たちの部屋にくること!

 というメールを登校中に受け取り。俺はクラスに向かわずそのままユニ棟へ向かった。

 既に香帆以外の3人は集まっており、俺が最後だったらしい。

「ということで!今日はあまり時間ないけど、授業と授業の合間の僅かな時間でもこの誕生日会の準備に費やすよー!」

 と言いながら佳奈は文、俺、智也の順に表情を見て回る。

 そして全員を見終わったあと、佳奈は文に視線を向けた。

「文くんなにか不満そうだね!? 言ってごらんなさい」

「なんで前日とか、もっと前に準備を―――」

「じゃあ担当を発表するね!」

「言ってごらんって言ったのは星野だろ!?」

「まず文くんがプラカード作り、それが終わり次第部屋の飾り付け! 智也くんは飾り付けの装飾品の修理と、それが終わり次第文くんと一緒に部屋の飾り付け! そして和樹くんは材料の買出し!」

 うん、なんとなくは予想していたよ。文がプラカード、智也が飾り付けっていうのも結構定番の役割になっている。俺は全般的にパシリ役だ。

「佳奈、材料ってなんだったっけ」

「えぇーっとねぇ。卵と板チョコと、あとはクリームチーズ!お金は私が出すよ~」

 お金を払わせるということに、多少の抵抗はあるが。まぁここは素直にお言葉に甘えさせてもらおう。

 卵と、板チョコと、クリームチーズ。多分スーパーとかで売っているだろう。最悪なかったら【街のケーキ屋】に頼ってしまえばなんとかなるだろう。

 あそこの店長は本当に人柄や気前がいい。香帆と店長さんの関係のおかげでもあるが、大変助かっている。

 材料は早めに買ったほうがいいだろう。ということは1時間目が終わったらダッシュだなぁこりゃ。

「それじゃーみんなよろしくっ!」

 という佳奈の一言で朝はこれにて解散となった。



□■□



 1時間目が終わり、10分の休み時間に入る。10分というのは長い気もするが、例えば校舎から実戦訓練場の距離は約1km、また校舎からグラウンドまでは1,5kmというようにとてつもない距離がある。故に10分という時間なのだが、教室で過ごす場合はかなりの至福の時間だ。

 私は大抵こういう時は本を読んだり、仮眠を取ったり、窓の外をボーっと眺めたりするのだが、今日は何故かそわそわしてしまい。なんとなく動きたくなってしまった。

 そして悩んだ末、起こした行動が階段に行くということ。

 自分でもなんで階段になったかわからないけど、とりあえず来てみた。

 教室よりも寒く、見たところ人影もない。静かだけど・・・寒い。

 今日は誕生日会を開いてくれるらしいけど、毎回和樹がクラッカーを買ってくるのが定番にもなってきている。毎回ギリギリで買ってくるから大変なことになっているけど、三度目の正直として、ちゃんと買ってきているのかな・・・。

 教室行って教えておこうかな?

 せっかく階段まで来たんだし、と言い聞かせて階段を降り始める。

 和樹がいる二年五組は3階にある。13段ある階段を一つずつ降りていって、また同じ数だけある階段を降りる。そういえば小さい頃は階段の段数をよく数えてたっけ・・・なんて思いふけっていると・・・。

「うぉっっと…」「あっ…ご、ごめんなさい」

 誰かとぶつかりそうになった。慌てて一歩下がり、下に向けていた視線を上げると、その人は和樹だった。

「あ、丁度いい。そういえば和樹、クラッカー買ってある?」

「ん? クラッカー…、あ! 買ってないわ。ありがとう香帆! じゃあまたね!」

「うん、頑張ってー」

 どうやらクラッカーのことを忘れていたらしい。

「楽しみにしておいてねー!」と言いながら慌しく階段を降りていく和樹。多分今から買い物に出かけるのだろう。と、すると。かなりタイミングが良かったのでは・・・?

 ちょっとだけ人助けをした気分になり、私はそのまま階段を登って教室へと帰った。



□■□



 香帆のあの一言が無ければまた前々回、前回と同じように叫んでいただろう。

 今回主役の香帆に助けられてしまった。

 買ってきた材料を冷蔵庫の中に、そしてクラッカーは部屋に設けられている個人用ロッカーの中に大事に入れておいた。これならなくしたり、誰かが間違えて捨てたりすることもないだろう。

 そのまま二時間目の授業を受け、それを終えてユニ棟に向かうと既に飾り付けが始まっていた。プラカードも既に完成したみたいで、相変わらずの達筆だった。

 ちょっとクセがあるが、本物の書道家が書いたような字だ。

 そして飾り付けだが、何故か前回よりバージョンアップしていた。

 風船が部屋の隅に置かれていたり、カーテンの止め具が白からピンクに変わっていたりと、細かい所から目に見えるところまで色々とバージョンアップしていた。

 まぁ確かに毎回同じだと、ある程度予想がついてしまって面白みにかけるからな。

 しかし三時間目、5組は近くのフィールドでSR狙撃の練習があったので、手伝うことはできなかった。

 その三時間目も難なく終え、やっと飾り付けの手伝いをした。

 どうやら全体的に部屋を可愛くするらしく。どこから持ってきたのかわからないが、大きなクマのぬいぐるみまで用意されていた。その時間だけでは全てを飾ることが出来ずに、結局飾りつけが完成したのは昼休みが始まって5分後だった。

「ふぅ…いつもと違う飾りつけをしたせいか結構時間かかったねー!よし、じゃあケーキ作り始めるね! みんなはもう帰ってもいいよ~?」

「おう、わかった…けど、今から作り始めて昼休み中に間に合うか?」

「ん~、正直ギリギリかも。まぁとにかくやってみるよ!」

 とエプロンに着替えながら佳奈がいう。残りの昼休みの時間は25分、果たして大丈夫なのだろうか…。俺たち3人は帰っていいと言われたが、不安もあったせいか。3人とも残って佳奈の作業を見続けた。

 時々文が「手を貸そうか?」と聞いてみるも、「私一人でやるっ!」と頑なに断り一人で作業を続ける。

 そしてケーキがオーブンの中で焼かれている途中で、とうとう昼休みのチャイムが鳴ってしまった。

 しかしケーキはまだオーブンの中、それをじっと見つめ続ける佳奈。

 流石に授業に遅れるわけにはいかないので、一旦教室に戻ろうと言ったのだが、佳奈は何も言わずオーブンの中を見続けている。

 仕方が無いので、俺たち3人は佳奈一人を残してユニ棟を後にした。



☆★☆



 どうしたのだろう…、授業に対しては一層真面目な佳奈が、今日は先生が入ってくるギリギリの所で教室に帰って来た。私の誕生日会の準備をしていて大変なのもわかるが、それでも授業ギリギリに教室に帰るということは今まで一度もなかった。

 文はしっかりと昼休みが終わってから数分で戻ってきたのに、佳奈一人だけ・・・遅れてきた?

 授業中もずっとそわそわしている。自分から挙手する積極的な授業態度が嘘みたいに消えて、しまいには先生の質問に対して全く違う回答を答えるという佳奈らしくない発言までしている。

 何かがあった。そうとしか思えない。

 授業終了のチャイムが鳴ると同時に佳奈の席に駆け寄り、ゆっくりと声を掛ける。

「佳奈・・・大丈夫?その、調子でも悪いの?」

「・・・えっ?ううん、そんなことないよ?大丈夫大丈夫ー!」

 それでも私が心配に思っていると、

「全然大丈夫だから、香帆ちゃんが心配することないよっ!じゃあ行ってくるねっ!」

 と、言って。何処かへ行ってしまった。多分ユニ棟に行ったのだろうと思うけど、本当に大丈夫なのかな・・・。



□■□



 五時間目が終わり、昼休みのこともあったので、俺はユニ棟へ再び足を運んだ。

 そこにはやはり、佳奈を始め文と智也もいて。みんなオーブンの前に集まっていた。

 みんな無言のまま、黙って手元のほうを見ている。

 その輪の中に入って、視線の先にあったものは・・・。

「こげ・・・てる、ね」

 真っ黒とは言えないが、上の部分が一部焦げたチョコチーズケーキだった。

 多分長く焼きすぎたのか、火力が強かったのだろう。

「でも焦げた部分取り除いたらどうにか・・・」

「取り除いても、もう・・・だめだよ。こんなの」

 智也の提案に弱く否定する佳奈。

 あと4分くらいしたらすぐに授業が始まってしまう。今から急いで作ったとしても間に合わない。これはもう、事情を説明して香帆に許してもらうしかないだろう。


佳奈は俯いたまま、ケーキをゴミ箱へと捨てる。


 そのまま俺たちは今日一日の授業を終えた。



□■□



 授業が終わり、みんなが帰っていったり、残って戦闘を楽しむ中、私は教室にいた。

 と、いうのも。私は授業が終わった後、誕生日会を開くことは聞かされていたが、何時ユニ棟に行ったらいいのか聞かされていないからだ。

 佳奈の時は指示を出して智也が連れてきたし、文は時間が指定されていた。

 しかし私は未だに連れていってくれる人も現れないし、時間も指定されてない。

 どうすることも出来ず教室で待っているのだが・・・。

「こーないなー…」

 誰もいない一人の教室で、体を左右に揺らしながら待ってても、やっぱりこない。

 持ってきた小説はもう読み終えちゃったし、本当にやることがない。

 なんか、なにか今の私の時間を埋めてくれるものは・・・。

 ケーキ? なんでケーキが出てきたのか不明だけど、ケーキは本当に美味しい。

 あ、そういえば誕生日ケーキって誰が作るのだろう。この前は佳奈がスポンジ部分を手伝ってくれたけど…、和樹は作れなさそうだし。智也も作れな・・・いや、ああいうタイプに限って案外作れちゃったりするのかな。

 文は作れそう、なイメージがある。佳奈は頑張ったら何でもできる人だからなぁ・・・。

 ケーキも3日くらいでかなりの腕前に上達しそう。

 こうやってCHAINや、4人のことを考えているだけで楽しくなってくる。

 1年生の頃から人とあまり関わらずに過ごしてきた私を、友達になってと頼んできて、2年になってからはユニットまで入れてもらった。

 殆ど成り行きみたいなものだけど、それでも1年生の頃の私と比べると、自分でも驚くくらい人と喋れるようになった気がする。

 話す前に一間空けてしまうクセも、かなり治ったと思う。

 私の何かがこの数ヶ月で変わった、その何かはわからないけど。変えてくれたのは確実に佳奈や文、和樹と智也のおかげだ。この4人には感謝しなければ。

 と、CHAINについて色々と考えていると。

「おぉ、やっぱり教室にいたんだな天野。さてと、主役の入場の準備をお願いします?」

「なんで最後疑問系なの・・・ふぅ、わかりました。今行きますっ」

 席を立ち、廊下に立っている文の元へと駆け寄る。

 私たちがいた北舎からそのまま連絡通路を使ってユニ棟へとはいる。

 エレベーターは丁度止まっていて、それに乗り込む。

 相変わらず物凄い速さで登っていくエレベーター。最上階に部屋を持つ私たちにとってこのスピードはとてもありがたいのだが、今だけはもう少しゆっくり登ってくれと願いたい。段々と緊張してきてしまった。エレベーターのドアが開き、廊下の奥にある扉を開けばそこはもう私の誕生日会の会場だ。

 しかし願いも虚しく。チーンという音と同時にいつものように開いていくドア。

 文が先に降りると、左側には佳奈と智也が、右側には和樹が立っていた。

 和樹の手前に文は立つと、ポケットからクラッカーを取り出し。


パ、パァァーン!!


『天野 香帆 誕生日おめでとう!』

 クラッカーと共に祝福された。そして何故か沈黙、全員私の反応を窺っているようだ。

 こ、ここは盛り上げないと・・・。

「あ、ありがとう。いぇー・・・い?」

「いぇーい!」

 全然ダメダメだった私の盛り上げを受けて、智也がハイテンションに答えてくれた。

 やっぱ智也は盛り上げ役だなっ。他のみんなも拍手を送ってくれる。そしてそれが静まった後、文が扉のドアノブに手をかける。

「準備はいいか? 驚いて大声だすなよ・・・?」

「大丈夫、大声は絶対に出さないから」

 とい小芝居のようなやりとりをしてから、私はゆっくりと目を閉じた。

 ガチャ、という扉を開く音がしてから5歩くらい、目を閉じたまま部屋へ足を踏み入れる。いつもの飾りつけかな…と予想しながら、しかし期待もしながら私はゆっくり目を開いた。

 ・・・・・・!?

 か、可愛い! 白が基本とされていたこの部屋は、シンプルさと清潔感が保たれていたが、今は所々にピンクが使われている。それどころではない、部屋の隅にはぬいぐるみや風船、ハート型のクッションなどが置かれている。

 普段のこの部屋とはかけ離れた光景に、大声を出す以前に声すら出せなかった。

 驚いた、多分私に合わせてこういう部屋の内装にしてくれたのだろう。

 とても、凄く嬉しい。

「ありがとう、凄く感動した」

 素直に気持ちを伝える。

「香帆りんこれねー、佳奈っちの案なんだよー?」

「ほんとっ!? ありがとうね佳奈!」

 男子3人がこんなこと思いつくはずがないと思っていたので、なんとなく予想はしていたけど。改めて佳奈の発案ということを聞くと更にテンションは上がった。

 佳奈に向き合ってお礼を言うが、佳奈からは何も返事が無い。

 そういえばこの部屋に入ってから、佳奈は一言も喋っていない気がする。やっぱり具合でも悪いのかな・・・。

「佳奈、だいじょう・・・っ!?」

 喋り終わる前に佳奈が抱きついてきた。けどその行動にすら元気はなく、いつもなら少しは抵抗するのだが、抵抗ができなかった。

 未だ状況ができていないけど、ふと私の胸に顔を埋める佳奈を見てみると目が涙で濡れていた。

 私は佳奈の意外な表情に、自然と私も佳奈を抱きしめていた。

「どうしたの? 佳奈、よかったら話してくれる…?」

 優しくそう言うと、佳奈は顔を少しだけ上げて話してくれた。

「あのね、ケーキ。失敗しちゃったんだ…」

「…え? ケーキ?」

「そう、私がね。香帆ちゃんのために作ったんだけど。焼きすぎちゃって…」

 ケーキは確かに料理だ。料理として見るなら焼きすぎは失敗とも言えると思う、けど。

「そっかぁ…、でも私。佳奈が作ってくれたケーキならどんなやつでも食べたよ?」

 佳奈が作ってくれたケーキは違う。料理としてのケーキだけではなく、佳奈の思いが込められたケーキだ。親友からの贈り物を拒む理由なんてどこにもない。

「でも私の誕生日の時は香帆ちゃん完璧に作ってたじゃん…だから私もできるだけベストのものを渡したくて…」

 佳奈の言うとおり、佳奈の誕生日のクロカンブッシュはかなり出来が良かった。けど完璧ではない。いや、完璧なんてありえない。

「佳奈、私料理に完璧はないと思うの。どんなに上手い料理人でも、絶対に素材に対して完璧な料理っていうのは作れないと思うのね。だから、私だって完璧じゃなかった」

 寧ろ失敗はみんな絶対にするものだ。

 失敗を積み重ねて、失敗から学び、失敗から成功に繋げる。これが料理だ。

「失敗は何回もしちゃうかもしれないけど。料理は素材さえあれば何度でも、作りなおせるんだよ? だから……その、佳奈がよかったら、もう一回作り直さない? みんなで」

 料理は一回きりじゃない、だからこそやり直しができる。だからこそ何回も何回もチャレンジできて、いつかは必ず成功する。

 更に料理というものは、一人だけではなくて協力して作る事もできる。

 人数が多すぎるとやりづらいときもあるけど、5人くらいなら丁度いいくらいだ。

 CHAINみんなで料理を楽しもうよっ!

「………え? でも、それって香帆ちゃんの誕生日の意味がなくなるというか……」

「じゃあ私だけ見ていようか?」

「………ううん、香帆ちゃんも手伝ってくれる?」

「よしっ、そうと決まれば早速準備しないと!」

「うん! わかった!」

 声の色が一気に戻り、佳奈の表情には笑顔が戻っていた。涙なんてすっかり乾いている。

 佳奈は私から離れると、ニコッと笑い、右手でVサインを作った。

 私もお返しにニコッと笑って、左手でVサインを作った。

「よしっ、いつもの星野 佳奈復活だよ~? ということで和樹くん! 材料卵以外ないから買ってきてちょうだいっ!」

「了解っ! ・・・ついでにエプロンも買ってくるね~」

 佳奈の命令に和樹は快く受け入れてくれた。いつもはブツブツ言いながらパシられるのだが、文句一つ言わずにエレベーターに乗り込んだ。

 

待っている間に私は佳奈からレシピを聞いた。

チョコチーズケーキかぁ・・・! 全然思いつかなかった組み合わせだ。

これは一度家で一度作ってみる価値がありそう。

その後、和樹は20分ほどで買い物を済ませてきた。

買ってきてもらったエプロンを着て、板チョコと、クリームチーズ、そして冷蔵庫にあった卵を机に用意する。


佳奈が卵を割って卵白と卵黄にわけて、文が板チョコを細かく刻み、湯煎で溶かした。智也がクリームチーズを混ぜて滑らかにし、私がハンドミキサーでしっかりしたメレンゲ状になるまで混ぜた。

次に和樹が溶けたチョコと滑らかなチーズの中に、それぞれ一つずつ卵黄を入れ、二つともかき混ぜる。次に智也が半分だけチョコにチーズを投入し、かき混ぜ、残り半分を文が投入し、かき混ぜた。

次に私が卵白を数回に分けてヘラでよく混ぜ、最後に佳奈が型に流し込みオーブンに入れた。

30分後、竹串でしっかり焼けているかチェックし、今度は上手くいったようだ。

「おぉ~!」と智也が歓声をあげる。オーブンから出てきたチョコチーズケーキは、名の通りチョコとチーズの香りが部屋中に広がってとても良い匂いだ。

「よしっ、今度はちゃんと完成したっ!」

 佳奈が嬉しそうに話す。料理が完成したときの達成感は、私にとって本を一冊読み終えたのと同じ。本当に気持ちが良い・・・!

「ねぇーねぇー! このケーキ写真に写そうよ~!」

 という佳奈の言葉によって、ついでに集合写真も撮ることになった。

 毎回誕生日会には持ってきているマイデジカメを取り出し、三脚を立ててセットする。

 初めは慣れない機械に手こずったけど、何回か撮っている内に結構上達した。

 カメラの先には既に佳奈たちがスタンバイしている。どうやら私は真ん中らしい。まぁ主役だからそれもそうなのだが、私が座って右手側には佳奈が、左手側にはケーキがあり、その後ろに男子3人が右から和樹、文、智也と順に立っている。

 佳奈の案によりみんなエプロンを着よう!ということで着ているのだが、男子のエプロン姿がまた面白い。


「文くんなんでそんなにエプロン姿フィットしているの!?」

「あー…、まぁ母さんの代わりにたまに作っているからな」

「へぇー、対して和樹くんは全然似合ってないね」

「まぁ料理なんて全然作らないしなぁ、最後に作ったのが中学の調理実習じゃないか?」

「調理実習懐かしいー!」

「ねぇねぇ、佳奈っち僕は!ねぇ僕はどう!?」

「んー、それが私服って言ってもおかしくは思われないね」

「それ喜んでいいの? え、わかんない!」

 ・・・すごく楽しそうだ。あの眩しい輪の中に私も入っていると思うと俄に信じられないが、今は一刻もあの輪の中に入りたい気分だ。

「おーぃ、カメラセットできたよー?」

「あ、うん! ほら、みんなちゃんと立つ!」

 カメラのタイマーを15秒にセットし、スタートボタンを押す。

 急いで私の立ち位置に向かい、佳奈とケーキの間に挟まれる。

 するといきなり佳奈が私の左肩に手を伸ばして、私を引き寄せた。

 もう、佳奈ってばたまにちょっと強引なところあるよね。

 言ってくれればするのに。

 私も佳奈の右肩に手を伸ばし、左手でピースを作ると、佳奈は右手でピースを作った。

「俺たちもピースするか」

 と後ろのほうで文が言った。多分男子も同じようにカメラに向かってピースをしているのだろう。そういえば集合写真でまともなポーズをしたのって初めてじゃない?

 なんて思っていると、唐突に佳奈が後ろの男子に聞こえないように言った。

「香帆ちゃん、大好きだよっ」

 いきなりの告白に、一瞬ドキッとするが。私も迷わず即答した。

「私もだよっ」


ピ、ピ、ピ、パシャッ


 出来上がった写真は印刷するときの楽しみに置いといて。それよりケーキっ!

 いつものように五等分して、一番始めにいただく・・・。

 口の中に入れた途端、最初にやってきたのはチョコレートの味だった。しかし後からチーズの味がふんわりとやってきて、ゆっくりとチョコレートを包んでいる。優しい甘さだった。その後もどんどんフォークが止まらず、5分足らずで完食してしまった。

 ちょっと急ぎすぎた感じもあるけど、家で多めに作ってゆっくり味わおう。

 この日、みんなで作ってみんなで食べたチョコチーズケーキは、私のケーキランキングの堂々1位を取った。いや、もうこれは殿堂入りといえるかもしれない。絶対にこのケーキの上をいくケーキは出てこないだろう。

 CHAINみんなの想いが込められているから。

「ごちそうさまでしたっ!」





「あ、ねね、香帆ちゃん」

「ん、なぁに?」

「はいこれ、プレゼント、飾りつけにも使った私のクマのぬいぐるみ」

「ほんと? いいのっ!?」

「男子には内緒だよ?」

「うん、内緒っ!」


燐火&美帆&無名:天野香帆!誕生日おめでとーっ!


燐火:はい。誕生日です。

美帆:香帆ちゃんの誕生日ですよー?

無名:そうだねっ、ちゃんと誰の誕生日か言わないと駄目なんですよー?

燐火:あれ・・・?一番最初に言った気が・・・。

無名:今までは二回目にも言ってたよねーっ。

美帆:ねーっ。忘れちゃ駄目じゃないか君!

燐火:え、作者僕ですよね・・・?

無名:と、ゆーことで!前回に引き続き登場の私が香帆ちゃんについて説明するよー!

美帆:お願いしまっす!

無名:香帆ちゃんはー、基本物静かで本とか読んでるんだけどお菓子のことになると、いつもの調子はどこいったー、ってくらいに饒舌になる癖(?)がありまーす。

燐火:文に比べると小さいよね。

美帆:ちっちゃいね。

無名:誰と比べてもちっちゃいと思うよ?佳奈ちゃんがスタイル抜群長身美人で文くんが完璧超人の長身イケメン君なら香帆ちゃんは甘いもの好きのちっちゃ可愛い子だよね。

燐火:そうですね。さらりと前回前々回のことを無名ちゃんがまとめてくれました。

美帆:よしっ、それではっ・・・。


燐火:次回のCHAINの日常 第四弾

無名:お楽しみにーっ!

美帆:果たして第四弾まで続くのだろうか・・・?

燐火:え?これ終わんの?終わんないよっ!?続くからね!?

無名:お楽しみにーっっ!!


※終了フラグではありません。ちゃんと続きます。

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