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Gun Control  作者: 燐火
第零章 CHAINの日常
19/21

9月8日

「もしもし?文くん?」

「ん?その声は星野か?どうした」

「文くん明日誕生日でしょー?」

「ん、あぁ、そうだな」

「明日ユニ棟に1時くらいに来れる?というか来て!」

「別に予定はないから大丈夫だが…、サプライズじゃないんだな」

「え、だって文くん驚かなさそうだもん。ならもうハッキリ伝えておこうかなーって」

「そうかそうか、祝ってくれるだけでも俺は嬉しいからな」

「じゃあ明日1時によろしくねー!」

「おう」



・・・にひっ




□■□




「ということで!文くんの誕生日会を行うための準備を行いたいと思いまーす!」


 佳奈の誕生日会を開いた約2ヵ月後、今日9月8日はCHAINの策士こと神楽坂 文の誕生日である。

 2ヶ月前のお礼として今回は佳奈が主催者となったのだが、サプライズは行わないらしい。しかし…なんか嫌な予感がする。


「会場の飾り付けは前回の使いまわしでいいよね?」

「えっ、佳奈っちあの飾り持ってるの?」

「ふふっ、今日のために保管しておいたのさっ!」

 ドヤ顔で語る佳奈、まさか2ヶ月前から考えていたのか…。

 会場といってもユニ棟の最上階、例の部屋なんだけど。まぁ確かに前みたいに飾り付けを一人で作らなくて済むし、時間も短縮される。

「それで香帆ちゃん、例のやつは準備万端?」

「完璧、もう出来てる頃だから取りに行ったらあると思うよ」

「さっすがー!それじゃあ和樹くん取りに行ってきて」

「・・・え?」

 完全に不意打ちをくらった俺は訳が分からなかった。

「ちょ、ちょっとまって、別に取りに行くことに対してはもう慣れたというか、もう当たり前と言うかそこら辺身構えていたけどさ。例のあれって何、そしてどこに取りに行くの?」

「どこって…【街のケーキ屋】に決まっているじゃん!」


 【街のケーキ屋】、このケーキ屋は以前佳奈の誕生日会を開いた際に、香帆の手作りクロカンブッシュを作る際にお世話になった店だ。

 どうやら今回もお世話になっているらしいが、実は俺、未だにその店を知らないのだ。

「あぁ、前お世話になった【街のケーキ屋】ね。別に取りに行くのいいんだけどさ…どこにあるか知らないんだ…」

「「えっ、知らないの!?」」

 佳奈と香帆から同時に驚きの声が上がる。そんなこと言われても経済的にケーキなど買える余裕はないのだから仕方がない。

「使えないなー、じゃあ香帆ちゃんまたお願いできる?」

「う、うん。わかった」

 ・・・なんか、凄く申し訳ない。自分の知識不足で俺がやるはずだった仕事を香帆が変わりにやることになってしまった。

「え、えと。代わりになんかするから…やることある?」

「それじゃあ…和樹くんには別のおつかいを頼もうかな!」




□■□




「誕生日おめでとう、文」

 日曜日、学校は当然休みで俺は午前中から家にいた。

 朝7時にも関わらず親2人は既に起きていて朝食を食べている。

 今日9月8日は俺の誕生日、そして当然祝福の言葉を受ける。

 欲しかったアメリカで販売されている銃の専門誌をプレゼントとして受け取り、そしてまたいつもと変わらぬ日々を繰り返す。

 誕生日の朝なんてそんなものだ、朝からケーキを食べるわけでもないし、プレゼント貰ったらそれ以外変わったことなんてない。

 これが一般的と言えよう。

 だけど今日は違うかもしれない。佳奈から日曜日にも関わらず学校のユニ棟に呼び出され、誕生日会を開いてくれるらしい。

 そのいつもと違った、これから始まる出来事に少なくとも俺は何か期待していた。

 呼び出されたのは1時だ、今は10時。多分みんな今頃準備で急いでいるんだろうな…。




□■□




「ただいまー、買ってきたよー」

「おー!お帰り和樹くん、結構帰り早いじゃん」

「まぁ、時間が余ったからって遊んでいるわけにもいかないからな。それより香帆はまだなのか?」

 それに買ってきたものの組み合わせがどう考えても理解不能なのでその理由も聞きたかったからな…。佳奈はどうせ秘密にしそうだし、香帆に聞いてみるのが一番かと思ったけどまだ帰ってきてないみたいだ。

「ん?そろそろくるんじゃない…?」

 佳奈がそう言った直後、後ろのほうでエレベーターのチーンという音が鳴り響く、ゆっくりと扉が開き中から香帆がでてきた。

「ただいまー」

「あ!おかえり香帆ちゃん!どうだったー?」

「うん、バッチリ」

「よしっ、じゃー作り始めよう!」

「おー!」

 意気揚々とキッチンへと向かう2人、どうやら香帆が【街のケーキ屋】で作ったか貰ったやつを使って何かを作るらしい。

 しかし、まだ分からないことが一つ。

「あの、これはどうしたら…」

「あぁ、それも使うから持ってきて!それと作っている間はキッチン立ち入り禁止ね!」

「え、これ使うの?ちょっと何作る気なの!?ていうか立ち入り禁止って…」

「問答無用で立ち入り禁止作るものはお楽しみに!ということでさようなら!」

 バタン!!と勢いよく扉を閉められキッチンから隔離されてしまった俺。

 ・・・これでいよいよ佳奈の考えていることがわからなくなってきた。

 結局俺が買ってきたものが何に使われるかもわからなかったし、香帆が何を持ってきたかも分からない。

 ・・・少しくらい教えてくれてもいいんじゃない?


「佳奈っち…何考えているんだろうね」

 そういえば忘れていたが、この状況を理解していない人がもう一人いた。

 どうやら智也も佳奈から何も教えてもらってないようで、不思議な顔をしている。

「そういえば智也って俺が店行っている間何していたんだ?」

「ん?なんか飾りつけの装飾?あれの修理かなー、結構破れていたところとか多くてさ」

「ふむ、やはり何も聞かされていないか…」

「え、かっきーも聞かされてないの?」

「うん…」

 秘密にする理由とは一体なんだろうか。もしかしたら佳奈と香帆でサプライズを計画しているとか?その可能性はなくはないが、大掛かりなサプライズだとするとやはり人手はいるだろうし、かといって小さなサプライズだと文の心は微動だにしないだろう。

 つまり、佳奈たちは俺達の手を借りずに文を―――ついでに俺たちも―――驚かせるほどのサプライズを考えているのだろう。ならばもうそっちはそっちで任せるだけだ。


「智也…飾りつけするか」

「そうだね…」





□■□




 それにしても夏休み明けの日曜日というのは暇で仕方が無いな・・・。

 約束の1時までまだ大分あるし、テレビでも見るか・・・。

 暇つぶしなので、テレビをつけてすぐ映し出された番組をそのまま見始めた。

どうやら中華街のロケらしく、小籠包がいくつかテーブルの上に並べられていた。

 その小籠包の中に一つ激辛小籠包があるらしく、それを食べた人はこの後のロケで酷い仕打ちにあうというルールらしい。それほど面白そうではないが、どれが当たりでどれがハズレなのか、そして激辛小籠包食べた人はどんなリアクションをするのか、と考えたら面白そうな点はあった。

 こういう場合最初に食べたほうが確率的には当たらないのだが、人数より小籠包の数が多い場合は、一周してまた自分の番がやってくる可能性もある。もちろんこの番組でも参加人数より小籠包の数は多く、また不公平にならないように順番はジャンケンで決めるらしい。

 みんなで一斉に食べたほうが不公平ではないと思うが、それでは緊張感が欠けてしまう。

 やはり番組は番組でよく考えている。どう面白く見えるか、どうリアクションを取らせるか、またこういう食べ物のレポートも含まれている場合、より見ている人に現場の雰囲気を感じさせることが肝心だ。

 …と、変な風に自分で番組を解釈しながら見ていると、若い芸人らしき男性がどうやらハズレを食べたらしい。

 体をくねくね動かし必死に辛さを耐えている。口を押さえ顔を真っ赤にし、とても辛そうだ。すぐに水を手渡され落ち着きを取り戻す男性。

 そして画面は切り替わり改めて小籠包の感想や店の情報を伝え、再び街を歩き始めた。


 ふむ…。やらせる側としては面白そうだな…。




□■□




 と、いうことであれから小1時間。俺と智也で部屋の飾り付けを終わらせた。

 男2人でやった割には結構良い感じにできたと自画自賛してみる。

 まぁ前回は俺と文でここの飾り付けを作ったんだし、飾りつけも参加していたので前回を参考にやってみた結果だ。

 一方女性陣の方はというと、時々香帆の悲鳴らしき声が聞こえてきて、その度に佳奈の笑い声が聞こえ、一応楽しそうだ。

 

 さて、今からどうするかなー…。

バタンッ!

 

 一仕事終わり、ボーッとしていた所に大きな音をたてながらキッチンから登場してきた佳奈と香帆。そして佳奈の持つ皿の上には、記憶に新しい誕生日会で見たことがあるドーム型のお菓子があった。

「それ…シュークリームか?」

「うん!シュークリーム!ちょっと和樹くん食べてみて?」

「試食か?あぁ、いいよ」

 佳奈の手から皿ごと受け取り、左手に持ち替え、右手でシュークリームを手に取る。

 いよいよ口に運ぼうとした瞬間、手に違和感を覚える。

 

 明らかにシュークリームの重さじゃない。


 シュークリームの中身と言えば生クリームとかカスタードクリームとかが普通なのだが、このシュークリームの質量感は生クリームとかカスタードクリームとかの重さじゃない。

かなり重い。かなりだ。これは何かある、そう感じた俺はちらっと香帆のほうを見てみると満面の笑みを浮かべていた。しかし目が笑っていない。多分中身を知っているからだろう。さっきの悲鳴もこれで説明がつく。

 そして次に佳奈のほうを見てみる、おそらくこっちが犯人であろう。なんてったって買い物を頼んだのは佳奈だからだ。それに今思えば香帆がケーキ屋から持ってきたのってシュークリームの生地なのか。


 さて、智也が不思議そうにこちらを見ているが気にしないでおこう。それより、もし俺がさっき買ってきたもののどれかがこの中に入っているとしたら。かなり危ない気がする。


 頼まれたのは確か…〔納豆、からしマヨネーズ、タバスコ、梅干〕の4つだった気がする。どれ一つとしてシュークリームの中に入ってはいけないものだ。

 さて、まぁこうなった以上、潔く悶絶するか…。


 覚悟を決めて、シュークリームを食べる。

 流石に一口では食べきれないのでちぎり、中身は見たくなかったのであえて視線から外れる場所に持っていく。

 その作業が終わってから口を動かし味を確かめる。

 どうやら一応生クリームがあるようで、ちょっとした甘さが口の中に広がる。

 しかしその甘さはすぐに上書きされた。

 マヨネーズの酸味、さらにはからしのせいで辛さがプラスされ。

 俺の口の中は今、からくてあまい、でも辛いという大変な状況に。

 脳内ではこうして味の分析をしているのだが、現実は違った。

 吐き出したいが流石にそれはまずい。かといって飲み込もうと思って素直に飲み込めるわけでもない。ずっと口の中で甘さと辛さが融合せず、喧嘩をずっとしている。

 生クリームのどろどろとマヨネーズのどろどろで口の中はもうどろどろ。

 兎に角、どろどろしているくせに本当に苦痛を絶え間なく与えてくるので自然と俺は涙目になっていた。

 その様子を見ていた佳奈は大爆笑。早い所水を持ってきてほしいのだがそんな感じは一切ない。次に香帆なのだが、手のひらを合わせて合掌しないでほしい。まだ死んでない。

いや、死にたくないから。

 『死因:シュークリーム』

 どんだけ惨めな人生の終わり方だよおい!

 と、とりあえず水をだな・・・!

「どっ、どうしたの・・・っく・・・和樹く・・・ん・・・どうし・・・ったのっ」

 笑いながら心配しないでくれる!?

 いや心配はしてほしいけど!笑いながらだと効果かなり薄れるから!

 というかこの状態にした張本人じゃないかぁ!!

 と、とりあえず水を!と言おうとした瞬間、慌てて開きかけた口を塞ぐ。

 今、口の中を開けたら真っ白でどろどろのクリームが見えてしまう。と、いうか。口を開けた途端中のものを外に出しかねない。


 何か伝える手段は…とりあえず空中に〔水〕と書いて伝えてみる。

「ん?…氷?」

 智也が分かったようで答えるが残念ながら違う。というか惜しい!

 ここで氷を持ってこられても困るだけなので一生懸命に首を振る。

 えぇっと…空中文字がダメなら・・・ジェスチャーだ!

 右手で筒の形を作りコップを表現。そしてそれを口に近づけ前に後ろに動かしてみる。

 こ、これならっ・・・!

「んー…、薬?」

 なんでそっちになるかなぁ!?

 ていうかこれ飲み込んだ時点で胃腸薬が必要になりそうなんだけど・・・。

 せ、せめて本当に水を―――と、誰かに背中を叩かれた。

 振り返ってみるとそこには水を持った香帆がいた。

 ・・・!! 女神なのか!?

 智也が理解しなかったあのジェスチャーで香帆は理解したのか!してくれたのか!

 いや智也がおかしかったのか…?そうだよな、あの動作でわからない智也がおかし――

「飲まないの?」

 その言葉を受けて何かを考える前に、すぐさま香帆たちに背中を向け、少しだけ口をあけて水を流し込む。

 少しどろどろ感が減った口の中を半ば強引に飲み込む。

 うへぇ・・・喉が気持ち悪い・・・。

「ひっ・・・ふっ、ふぅ・・・。実験は大成功だねっ!」

 実験って言ったよね、今実験て。実験って・・・!

「和樹くんごめんねー?一番実験台に適しているのは和樹くんしかいないかなーって思ってさ。まぁこれで効果絶大ということがわかったから!ありがとうね」

「お、おう…」

 なんだかんだ言って長い間あのどろどろを口の中に含んでいたので喋ろうと思い、口を開くと未だにどろどろ感は消えておらず、簡単な返事しかできなかった。

 二杯目の水を飲み、なんとか普通の口を取り戻した。

「じゃあこれをたくさん作っていくよー!」

 ほぅ、さっきのような悶絶物のシュークリームをたくさん・・・はぁっ!?

「ちょ、なに俺達の口の中を麻痺させる気!?」

「あ、間違えた間違えたー、言葉の(あや)だよ!ちゃんと普通のシュークリームも作るから!」

「そ、そうか。ならよかった…」

 あんなものを笑顔で出されて食した文の反応はある意味見てみたいがな。




□■□




 正午丁度に昼飯を食べる我が家では、いつも通り父さんと母さんと俺で食卓を囲む。

 あいつらは4人で食べているんだろうなぁ…と思いながら早めに箸を進める。

 かと言ってたくさん食べ過ぎてあいつらが用意してくれるであろう菓子を一口も食べられない、というのは最悪なので。いつもよりちょっと少なめに量を調整する。

 そういえば俺が1時から学校に行くと言うことはまだ両親には伝えていなかったな…。

「えっと…あのさ、今日実は1時から友達と遊ぶ…というか誕生日を祝ってもらうというか…そんな感じなんだけど、いい?」

「お!いよいよ文にも誕生日を祝ってもらえる友達が出来たかー!」

「父さんそれ何気に傷つくから」

「ほらお父さん、この前話したユニットのみなさんじゃない?」

「おぉー!文が彼女と愛人を連れてきたっていう時の?」

「母さんなんでそんなとこまで話すの!?」

 というかあれは冗談だって自分でも言っていたじゃないか!

 父さんも母さんと似ていて天然と言うか冗談好きというか・・・。

「と、父さん信じなくていいからね…?」

「おぅ。まぁ誕生日会楽しんでこい。あ、でも夕飯が食えるくらいは腹空かしておけよ?こっちはこっちで用意しているんだからな」

「うん、わかったよ」

 とりあえず許可は貰った。後は言われたとおり、人生初となる友人主催の誕生日会だ。


「ごちそうさま」

 と言って素早く食器を洗い、学校は制服じゃないと入れないので制服に着替え、俺は玄関を開けて歩き出した。




□■□




「よしっ!これで準備万端っと!」

 腰に手をあて、飾りつけのおかげですっかり変わった部屋を見渡す佳奈。

 男2人で装飾した飾りもそこそこ気に入ってもらえたようだし、一際目立つように装飾した机には既にケーキが用意されている。

 中身はチョコレートケーキだそうで、なんでもスポンジ部分を佳奈が、その他の部分を香帆が作るという女子2人の合作らしい。

 佳奈の料理の腕は未知の領域なのだが、香帆の料理の腕は前回の誕生日会で既に証明されている。

 多分香帆が一緒にいたし、失敗しているということはないだろう。

 そして俺がとんでもない被害にあい、そして作ると宣言されていたシュークリームはまだ登場していない。多分ケーキを食べた後に出すものなのだろう。

「あとはクラッカーを…、あれ、そういえば和樹くん。クラッカーって買ってきた?」

「え?頼まれてないから佳奈が買ってきたものだと…」

「ううん、買ってきてない」

「………」

「………」

「買ってくるの?」

「もちろん和樹くんが」

「………う、うわぁああああああああああああああああああ!!!!!!!」

「どんまい、かっきー・・・」




☆★☆




「はぁ…はぁ…間に、合った…」

「おかえり和樹くん!」

 なんかデジャブを感じたよ・・・。

 しかし不幸なことは連続でやってくるもので―――

チーン

 ―――背後で扉が開く音と同時にエレベーターの中から文が姿を現した。

 疲れきってエレベーターの前で座り込んでいる俺と、エレベーターでやってきたばかりの文の目が合う。

 それからはもう無心だった。とりあえず勢いに任せてクラッカーの入った袋を破き、3人に1つずつクラッカーを渡して、話し合って決めた所定の位置に文を囲むように並ぶ。

 そして、何事もなかったかのように・・・。


パ、パァァーン!!

 

『神楽坂 文 誕生日おめでとう!』

「はい、どうもー」

「もっとテンション上げていこうよ文くん!!」

「はいはいっ」

 な、なんもなかったんだ。うん、あの視線は間違いだ。

「井上…クラッカーお疲れ様」

 いや、間違いじゃなかった・・・というかクラッカーまで推理されていた・・・。

 恐るべし神楽坂 文。




□■□




 なんで井上はクラッカーを忘れるかな。


 ま、余興と思えばそれはそれで面白いので、スルーしておこう。

 気になるのはこの扉の先だ。

 扉の前まで立ち、ゆっくりと目を閉じる。

 どうせ前回と同じ飾りつけなんだろうなぁ…。なんて思いながらドアを開き部屋へと入った。

 再び、ゆっくりと目を開ける。

 まぁ、パッと見は予想していた通り星野の誕生日会の時に使った飾りの使いまわしだな。

 若干とめ方が雑な所があるが…多分井上か中川がやったんだろうな。

 

 そう思いながら辺りを見合していると、目に留まる部分があった。

 机の上に置かれたケーキが入っていると思われる箱だ。

 綺麗に包装されていて、少し良い匂いが漂っている。これは・・・チョコレートケーキか?いつのまに星野は俺の好きなケーキの情報を入手していたのやら・・・。

「あっ、気付いた?というわけで今から恒例のあれやるよ!」

「あれ…って…?」

 恒例と言われても、今回が最初だし、人生でも初めてだし。家族では毎年やってもらっているが違うと思うし・・・。

 俺が疑問に思っている間、星野は箱から包装用紙を綺麗に剥がし、中からケーキを取り出した。

 しかし包装されていることから予想していたのはお店のケーキかと思っていたが、中身はシンプルで、どうもお店で売っているようなケーキではなかった。

「もしかして…手作りか?」

「大正解!私と香帆ちゃんの共同作品だからね?味は100%保証するよっ」

「そ、そうか…」

 やはり手作りを送る側と―――といっても俺が作ったわけではないが―――受け取る側ではかなり心境が違うものだな。

 このケーキを食べるのが楽しみになってきた・・・!

「智也くーん、電気ー!」

「はいよっ」

 と、同時に部屋の電気が消える。

 いつの間にか灯されていたケーキのローソクだけが部屋の中を照らす。

 あ、もしかしてこれは・・・。

『Happy birthday to youー』

 歌うやつか!しかも本当に恒例の歌だ。

 いつも両親に歌ってもらっていたけど、この4人というのはまた違った雰囲気で面白い。

 それに悔しくも何気に歌が上手いのだ。

 こいつらにこんな歌スキルがあったとは・・・。

『Happy birthday, dear 文ー Happy birthday to youー!!』

 そしてこれも恒例、というか常識である『この歌を歌い終わったらロウソクの火を消すというものを実行する。

 フーッと息を吹きかけ部屋が暗闇に包まれる。

 それも一瞬ですぐに中川が電気をつける。小さな拍手が生まれ改めて『神楽坂 文 誕生日おめでとう!』とプラカード付きで祝福された。

 星野の時に俺が書いたプラカードだが、今回も誰かが作ってくれたみたいだ。

「ありがと」

 と短く返事をする。

 こういう時なんて言ってお礼を言えばいいかわからない。

 だから毎回お礼はぎこちない形になってしまうのだが、これは直したい所である。

 まぁそんなことは置いといて、今は目の前のチョコレートケーキを食すのに専念しよう。




☆★☆




 ふぅ・・・。やはりあれだけ味に自信を持っていただけあるな。

 かなり美味しかった。甘いだけではなく、程よく苦味もあって、特にあのチョコクリームは最高だった。

 これから、たまにお腹空いたら天野に何か作ってもらおうかな・・・。


「文、まだお腹……空いてる?」

「ん………、まぁ大丈夫かな。結構昼抜いてきたし」

「そ、そう……どんまい……」

「なんか言ったか?」

「あっ、いやなんでもない…」


 天野が最後何か呟いた気がするが、よく聞き取れなかった。

そういえば星野が見当たらない、まだ何か仕掛けようとしているのか・・・?


「おっまたせー!」

 はいきた、星野のご登場です。大きな皿を一枚持ち、その上にシュークリームをのせている。今度はシュークリームか。

「例のシュークリームの登場でーす!」

「れ、例の…?」

 例のとはなんだろう、見た目は一般的なシュークリームと何も変わらない普通のシュークリームなのだが、『例の』とわざわざ言うのだから何かが違うのだろう。しかもこういう場合は大抵誰かがその『例の』内容を知っているんだよな。

「井上、これ中に何入っている?」

「え、えぇ。あー……、生クリーム?」

「その答えに辿り着くのに凄く時間かかったな。しかも最後疑問系なのだな」

「お、おぅ………」

 中身知っているな、井上・・・。

「中川は知っているのか?シュークリームの中身を」

「えっ、いや僕そんなバカじゃないよ!? 生クリームとカスタードじゃないの…?」

 この反応からして、多分中川は知らないな・・・。

 と、なると天野と星野、それに加え井上が知っているのか。

「さてさて~?文くんが中身を予想していますがー。答えは教えられませーん!何故なら今からロシアンルーレットを行うからですっ!!」

「ロ、ロシアンルーレットってあの…食べ物の?」

「そう!それをこのシュークリームでやるんだよっ!」


 今日テレビで見たばかりなのだが・・・!?

 しかも星野が異様にノリノリだし、これはまずいな。多分あの小籠包よりやばいだろうな。俺が予想するに、井上が材料買ってきて、天野と星野が作って、何も関わっていない中川はわからぬまま。って感じかな。あーこれ実際やるとなると嫌だな・・・。

「………っていうかなんで誕生日にこれやるんだよ!」

「いやー面白いかなーって」

「そりゃやらせる側は楽しいだろうよ!?でもハズレ引いたら楽しくねぇじゃん!」

「いやいや…ちゃんと私もやるよ?全員参加だからよろしくー」

 まぁ、それが普通だと思うのだが。うわぁ・・・中に何入っているんだろ。




□■□




「ていうことで始まりましたロシアンルーレット!ルールは簡単、ここに16個のシュークリームがあります!それを一人一つずつ食べていきます。でも中には1つだけ私特製スペシャルシュークリームがあるから注意してねっ!それ以外は料理上手の香帆ちゃんが作っているからおいしいよ!てことで始めていこー!」

 ハイテンションのまま説明を終えた星野。

 多分自分がハズレを引くとかこれっぽっちも思っていないんだろうな。

 さて、シュークリームは16個。俺たちは5人、一人一つずつ食べていったら3周目で残り1個、つまり最初に食べ始めた奴は最終的にハズレを引くことになる。

 ハズレを引く可能性は一つでも消したいから最初だけは避けたいな・・・。

 順番の決め方はジャンケンらしい。勝った順に食べていくということは、勝っちゃだめなじゃんけんだな。



 結果:2番目

 まずまず、と言ったところか。まぁ1番じゃなかったらあまり変わらないと思うがな。

 ちなみに1番星野、3番井上、4番天野、5番中川。

 いっそ3週目までハズレ引かずに星野に食べてもらいたいのだが。

「ていうことで1番!いきまーっす!」

 ハイテンションのまま一口目を口にする星野。

「んー!んまぁい!」

 どうやらハズレじゃなかったようだ。

 そして予想したよりもずっと早く回ってきた俺の番。

 数は1個減って15個、そしてハズレは1個。

 14個の内1つを選ばなければいいのだ。そう、簡単なことだ・・・。

 若干迷いながらも、見た目では完全にわからない。諦めて適当に一つ手に取る。

 これが、うまければいいのだがっ!

 ・・・これはなかなか美味い。シュークリームなどはコンビニで売っているものくらいしか食べたことが無いが、これはそれを遥かに超えているだろう。単純に美味い。

「うむ、美味しいな天野」

「ほんと? ありがとっ」

 嬉しそうに微笑む天野、料理人の至福の時って、こういう時なのだろうな。

 続けて井上、天野、中川と食べていくが、全員ともハズレではなかった。

 とりあえず1週目は終わり、みんな美味しいほうは食べられたみたいだ。

 最初からハズレ引いたら美味しいものでさえ美味しく感じないかもしれないからな。


 そして2週目、数は16から減って11個。そろそろハズレにあたってもおかしくないくらいなのだが。どうなのだろう。

「いっただっきまーっす!」

 さっきよりもテンションが上がった気がする星野が2個目を口にする。

 ・・・無言で嬉しそうに食べ続けている所を見ると、これもハズレじゃないようだ。

 さて、俺の番か。



――――――!?




☆★☆




 香帆ってなんであんなに美味いもの作れるのだろう・・・。

 早く2個目も食べたいなー、ハズレはいらないけど。

 次は文の番か、最初は結構選んでみたいだけど、今度はすぐ手に取ったな。

 あー早くたべた―――

「ん゛!ん゛ー!」

―――――!?

 まさか、文がハズレを引いたか?

 とりあえず水をだな・・・。

「文ちゃんはい水!」

 あ、既に智也が水を用意していたのか?やけに用意がいいな。

 急いで受け取った水を口の中に流し込む文。

 これで少しは緩和できるんじゃないか?

 俺も実験で試されたときは水でどうにか・・・あまりならなかったけど。ないよりはマシだったはず。

 しかし文は変わらずもがき続けていた。

「ぐっ、ん゛!」

「あ!ごめんそれ塩水だった!」

 なんで塩水が用意されているんだ!?

 絶対智也わざとだろ!?文結構な量飲んじゃったよ!?どうするの!

 慌ててコップを取り出し俺がちゃんとした水を渡そうとするが・・・。

「はい!ごめんこっちだった!」

 またも智也が先に水を渡した、しかし、嫌な予感しかしない。

 多分文も嫌な予感しかしていないと思うが、一々疑っている場合じゃない。受け取った瞬間急いでコップの中身を流し込む・・・。

ドンッ!

 コップを叩きつけるように机に置く文。

「あーごめんそれは砂糖水だった!」

 塩の次は砂糖ですか!?

 智也が怖い、正直俺がハズレを引かなくて良かったと心の底から思っている。

 その内レモン水とか出てきそうだが、流石に可哀想なので今度こそ俺が水を手渡す。

 受け取るのに5秒かかったが、なんとか受け取ってくれた。



「中川、後で戦闘訓練な。もちろんお互いに銃を使った」

 うん、まぁこうなるだろうね。

「えっ!ちょまって!謝るからごめん!」

 多分もう手遅れだと思うよ。

 智也の謝罪を無視して3杯目の水を飲んでいる文。多分相当やばかったのだろう。

「な、なぁ…聞くの怖いのだが、星野あの中に何入れた?」

 コップの中に4杯目の水を入れながら恐る恐る質問する文。

「んー?和樹くんに買ってきてもらったもの全部だから……」

「あれ全部いれたの!?」

「井上、お前何を買ってきた」

「え、えっと…納豆、からしマヨネーズ、タバスコ、梅干…」

「あぁ…道理で口の中が異常にねばねばしているわけだ、というか最悪だろその組み合わせ」

 うん、やっぱりハズレ引かなくて良かった。

というか、からしとタバスコの辛さって違うから、ダブルの辛さに納豆のねばねば、梅干のすっぱさ。更に生クリームとなると口の中が大変なことになりそうだ。

 それに加え智也の水と見せかけて塩水と砂糖水、このコンボは・・・。

 あれだけ冷静な文が取り乱すくらいの状況に陥ることは安易に想像できる。

 さてと、残りのシュークリーム食べるか…。




☆★☆




 あれは人が食べる物じゃない・・・。

 誕生日にあんなものを食べるとは多分最初で最後の誕生日だな。

 まぁそれはそれで面白いが、できれば二度と食べたくない。

 水を飲むだけではまだ口に残っていて、歯磨きを2回やってやっと大丈夫・・・ってところだ。流石に口にした瞬間は殺意が湧いてきたが、みんなが慌てながらも笑っている所を見ていたら、怒る気も失せた。まぁ、誕生日に怒るっていうのも嫌だしな。

「よしっ!じゃあ記念撮影でもしようかー!」

 おぉ、そういえば星野の誕生日の時も写真撮ったな・・・。

 言われるままに椅子に座らせられ、前では天野がカメラの準備をしている。

 最後には酷い目にあったが、いつもの誕生日とは全然違って、それが楽しく思えてしまった。仲間と過ごす誕生日っていうのも悪くないな。


「みんな、ありがとな。今日は楽しかったよ」

 一応、お礼くらいは言っておかないとな。

「え!? 今文くんがありがとうって言った!?」

「文ちゃんがデレた!?」

 な、なんだよ星野と中川は・・・。俺がお礼言ったらそんなにおかしいのかよ・・・。

「よし、準備できたよー?」

 カメラの準備を終えた天野が俺の右隣に立ち、左隣りには井上。そして天野の後ろに星野、井上の後ろに中川が立つ。



「じゃあタイマー15秒ねー?」

「・・・っ!? 急に腹が痛く・・・」

「腹痛?もしかしたら実験で食べたあれが原因じゃ?」

「え、じゃあそれ以上のものを食べた俺はもっと危なくないか?」

「まぁまぁ、多分大丈夫だよ文くん」

「かっきー、大丈夫・・・?」


 急にお腹を抑え苦しむ井上、天野が言うに実験で食べたものが原因と・・・、多分作っているときにどういう反応を示すか人体実験の実験台になったのだな。

 しかしだ、実験ということは本番で食べたやつよりはまだ軽かったはず、それで井上が腹痛を訴えると言うことは、それ以上の食べた俺はもっとやばいはず・・・。

 思わず顔が引きつってしまう。

 星野の大丈夫とか何のフォローにもなってないし。中川は井上の心配をしているが、一回、星野作超絶シュークリームを食べてみるがいい。

 そんなことを思っていると・・・。


ピ、ピ、ピ、パシャッ



 出来上がった写真を見てみると、俺の顔は引きつったまま。井上は苦痛の表情、中川は井上のほうを向いているからカメラ目線ですらない。そして何故か満面の笑みを浮かべている星野。この状況に苦笑いをしている天野。

 なんか、まともな写真じゃないな。

 まぁ、このバカさといい賑やかさもCHAINか。





「そういえばプレゼントは?」

「私は貰ってないのに文くんだけ貰うってのはずるいでしょ!」

「あ、あぁ…そうだな。なんかすまない」

燐火&美帆:神楽坂 文! 誕生日おめでとう!!


燐火:はい、ていうことで。

美帆:今回のお話は文くんの誕生日~!

燐火:祝っていこうぜー!

美帆:突然ですか燐火さん。ゲストをお呼びします。

燐火:んぁっ!? 聞いてないよ!?

美帆:無名さんでーす!

無名:どうもー!!!無名です!!!

燐火:む、無名さんね。はい、えーっと…。

美帆:いや、無名ちゃんは私の友達でね。ガンコンを結構気に入ってくれてるんだよ?

燐火:お、おぉ。本当っすか。

無名:うん!それでね、今日は美帆ちゃんの代わりに文くんを解説しようかと!

燐火:お、おぉ。それじゃあお願いします。

無名:文くんはーっと、完璧超人の長身イケメン君なんだよ!!

   仲間思いで優しいところもあるんだよ!

   案外仲間思いで優しい文くんですっ!

燐火:お、おぉ…。ほぼ完璧じゃないか…!

美帆:どうだー!

燐火:美帆さんが誇れる所ではないですね。

   それにしてもそこまで理解してくれている人がいるとは嬉しいね!

無名:えへへ…このまま例のやつやっていい?

燐火:あぁ、もちろんですよ!ではでは…。


燐火:と、いうことで!

美帆:次回のCHAINの日常 第三弾

無名:お楽しみにっ!

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