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Gun Control  作者: 燐火
第零章 CHAINの日常
18/21

7月1日

【街のケーキ屋】オープン!

 この短い言葉の羅列にこれほど魅了されたのは多分生まれてから初めてだろう。


 見つけた瞬間、我を見失うほど興奮してしまったケーキ屋さんの前に、今一番前で並んでいる。

 オープン初日が休日とのこともあり、たくさんの人が来ることを見込んで、朝4時辺りから並んでいる。流石に4時というのは暗かったが、誰もいなくて一番前に並ぶことができた。


 そしていよいよ…。

「いらっしゃいませ、【街のケーキ屋】へようこそ!」

 お店の中に入ると色んな御菓子の甘い香りが漂い、普段上がらないテンションがどんどん上昇していく。

「あら、学生さん? そういえば4時くらいからずっと並んでいる可愛い学生さんがいるってもしかしてあなた?」

「えっ、あ、はい!」

「そう、ありがとうね~、ケーキ好き?」

「大っ好きです!」

 そんなの当たり前じゃないですか! もうケーキで一日過ごせるよ私!

「へぇ…、そんなに好きなら、特別にお客様第一号だしケーキ一つ半額にしてあげるよ」

「えっ!? …そんなことしていいのですか?」

「まぁ店長だし」

「そ、そうなんですか!?」

 見た目は20歳にも見えなくないのに、若いときから店長ってこの人すごいなぁ・・・。

「じゃあ…遠慮なく、この【季節の花籠ロール】を一つください」

「ん、半額だから…。120円丁度でいいよ」

 け、結構適当だな…。

 でも私自身、初対面の人とこんなに喋れるなんて初めてだなぁ…。

「お待たせしました、またのご来店をお待ちしております。ありがとうございました~」

 出口に向かおうとしたが、つい振り返ってみると、店長さんはニコっと笑い、軽く手を振ってくれた。

 もしかしたら、仲良くできるかも…?



□■□



 午前5時30分、まだ誰もいないはずの北舎三階で、4人の少年少女が今、ある作戦を計画していた・・・。


「いいか、バレるなよ? 勘だけはいいから気をつけろ」

「「「了解」」」

「それじゃあ・・・、作戦開始だ」



□■□



 いつもと何も変わらない登校を終え、いつもの2年7組に教室に入ると、香帆ちゃんが相変わらず机に座り外を眺めていた。

 そこでちょっとした意地悪を思いついた私は、自分の席には向かわず香帆ちゃんの背後に忍び寄る…。

「香帆ちゃんおっはよー!」

「ふわっ!?」

「えぇっ、ど、どうした…?」

「あ、えぇっと…考え事してた」

「そっかー」

「ね、ねぇ。今日授業終わり、空いているよね?」

「ん? 今日もユニ棟に行こうと思ってるよー?」

「う、うん、ならおーけーだよ」

「………?」


と、いうか。学校に来た日は毎日帰る前に、誰もいなくても誰かいても行っているけど・・・。

香帆ちゃんの様子も若干おかしかった気もするし…どうしたのかな。



□■□



「どうだった香帆りん」

「多分、大丈夫…かと…」

「それで、どうだって?」

「うん、空いているって」

「じゃあ次は僕の番かなー」



□■□



ふう・・・一時間目終わったー!

 いつもの如く戦術の先生は無駄話が多かったけど…。

「佳奈っちー!」

 あ、れ・・・? 智也くんって違うフロアじゃなかったっけ・・・。

「ど、どうしたのー?」

「いやー、あのね? もし授業終わり空いてたら、一回だけ僕と試合してほしいなーって」

「試合? 智也くんにしてはめずらしいね」

「え、あぁ、えぇっと…そ、そう! 銃撃のテストが近いし、少しでも的に当てれるようになりたいから…稽古してくれたらなーと…」

 今までの智也くんなら『銃撃のテスト…そんなのあったっけー?』って感じでどうでもよさそうだったのに、そろそろ自分が危ういって思い始めたのかな・・・?

「へぇ…わかった、いいよー」

 言った後に気付いたけど、稽古するのに一回でいいのかな・・・?

「ほんとっ!? ありがとう!」

「でも一回だけでいいの?」

「う、うん! 一回だけ、あ、いやでも場合によっては…」

「えっ…?」

「ううん、なんでもないよ! とりあえず一回だけよろしくね! 授業終わりに来るから!」

「わ、わかったー!」


なんだか、風みたくやってきて嵐になって帰っていったなぁ・・・。

まぁ、とりあえず二時間目の準備しよっと。



□■□



「ど、どうだった…?」

「もう完璧!問題なし!」

「どれくらい稼げそう…?」

「試合に付き合ってもらうように頼んだから、一応何分でもいけるんじゃない?」

「そう…あとは、二人次第だね」

「ま、どうにかなるっしょ!」



□■□



「ねぇ文、これあとどれくらい作るの」

「あと…たくさんだ」

「具体的な数は…」

「とりあえず、たくさんだ」

「じゃあ文も手伝ってよ!」

「じゃあ井上がこれを書いてくれるか?」

「あ、えぇっと…」

「じゃあ精進しろ」

「はーい…」



□■□



 三時間目終わったー!

 銃の種類の授業なのになんであの先生は性能まで語りだすかな・・・。

 それにしても、暇になっちゃったな・・・。

 こういう時は!

「ねぇ文くんー」

「うわっ!? ほ、星野、どうしたんだ?」

「ちょっと驚きすぎじゃなぁい? 暇になったから話しかけただけだよ」

「そ、そうか。俺はちょっとこれから用事があってな」

「む…何の用事なのー?」

「いや、それは言えないな」

 言えない用事ねぇ・・・。いつも文くんはおおまかな話なら教えてくれるのにー・・・。

「えー、別にいいじゃん、私と文くんの仲なんだし」

「俺と星野の仲ってどんな仲になっているんだよ、とにかく、俺は席を外すぞ」

「いってらっしゃーい」


じゃあ香帆ちゃんは・・・いない?

むう・・・二人とも忙しそうだな・・・・・・。



□■□



「危なかった…」

「何が?」

「いや、星野に話しかけられた」

「マジか、ばれなかったよね…?」

「俺がそんなへますると思うのか?」

「思いませーん」

「じゃああと20個くらい作れ」

「あと20個も!?」

「手伝いにきたよ・・・?」

「あっ! 香帆、いいところに来てくれた! ちょっとこれ手伝って・・・!」

「わかった」

「早く終わらせないと間に合わないぞ、頑張るんだ」



□■□


 四時間目終わったー!

 ご飯ーご飯ー♪

「ねぇねぇ香帆ちゃん」

「ん、なーに?」

「今日弁当?」

「いや、購買部でいいかなーって思って持ってきてないよ」

「じゃあ一緒に買い行こうよ!」

「うん、いいよー」



 今日はどれにしよっかな~。

 あっ、うどんもいいな・・・きつねうどんとか。

 でも蕎麦でもいいかもなぁ・・・。

「香帆ちゃんどれにするー?」

「・・・ケーキ!」

「え、ケーキ?」

「あぁいや、なんでもない独り言! えっと、私はきつねうどんにしようかな」

「ほんと? じゃあ私もきつねうどんにするー!」

 独り言でいきなりケーキとか言っちゃう香帆ちゃん、・・・・ちょっと可愛いかも。

「ケーキを忘れるとは…私としたことが…」

「えっ? どうした香帆ちゃん」

「ううん、なんでもない。きつねうどん2つお願いします」


 そんなにケーキ食べたいのかな・・・。

 そういえば最近ケーキ屋が近くにできたんだっけ・・・?



□■□


「み、みんなっ!」

「どうしたの香帆りん!? そんなに急いで…」

「ねぇねぇ!ケーキを忘れていたよ私たち!」

「あっ、そういえば確かにな…」

「結構重要なものを忘れていたね…」

「そういえばケーキなら、この前学園の近くにケーキ屋できたって知ってる?」

「・・・! そうだ、それだよ智也、よし、ケーキなら私がなんとかできるかも」

「え? どうにかって、どうするつもり?」

「せっかくだから私が作ろうかなっ!」

「えっ、香帆りんケーキ作れたんだ」

「む・・・、失礼な。私料理得意なんだよ!」

「ご、ごめん…、じゃあ僕はお菓子とか買ってくるよ」

「うん、そしたら文と和樹はユニ棟で飾り付けをお願いできるかな」

「わかった」「了解…だけど、天野。どうやってそのケーキ屋まで行くんだ?」

「え、う、うーんと…走る?」

「大丈夫なのか?」

「うん、多分間に合うと思う。銃撃のテストが近いおかげで昼放課が長くなってるし」

「そうか、じゃあ気をつけてな」

「うん、じゃあ解散っ!」



□■□



 五時間目終わったー!

 ご飯の後の実戦練習はちょっときつかったけど、楽しかったなー!

 よし、毎回恒例実戦練習後の香帆ちゃんイジりを・・・って。あれ、またいない。

 でもさっきまでいた気がするから廊下とかに・・・。

 あ、予想通り廊下にいた。しかも文くんも一緒だ。

 何か話してるみたいだけどっ・・・!


「二人で何話してるのっ!」

「なっ!」「ひえっ!」

「べ、別に何も話してないぞ…」

「そんなことはないでしょ~」

 やっぱりなんだか様子がおかしいなぁ・・・。

「い、いや、ほんと。何も話してないよ?」

「ほんと~?」

怪しい…、そして様子がおかしいといえばもう一つあった。

「そういえば香帆ちゃん実戦練習始まる前から汗だくだったけど…どうしたの?」

 実戦練習が始まる前、見かけた香帆ちゃんが汗だくだったのを気になって聞いてみたけど…。

「あ、あれはね、準備運動だよ」

「準備運動なら授業の中でも十分するじゃん」

 と、いうか準備運動が既に運動というか・・・それほどきつい実戦練習なのだけど。

「そ、そうだけどね。今日のは特にきつそうだったから準備を大切にと思って」

「でも香帆ちゃんって実戦練習自体が嫌でそんな前々から準備とかしてたっけ…?」

「星野、ほら、天野もこういう時ってあるよ。多分」

「文、それあまりフォローになってないから」

「ご、ごめん…」

 明らかに様子がおかしい・・・。

「ねぇ、隠し事とかしてる?」

「「・・・・・・」」

 うん。わかりやすい反応ありがとう。

 ・・・・・これは確実に何かあるな・・・。

 まぁ、だとしたら予想できることは一つしかないかな。

「うん、まぁ六時間目始まるし教室戻ろうか」

「あぁ、うん。そうだな」

「そうだねっ」

 これは面白い一日になりそう・・・なのかな?



□■□



「えー、ここでみんなに報告がある」

「どうした文ちゃん」

「多分、バレた」

「……え」

「わかんないけど、怪しんでいるのは間違いないと思う…」

「マジか…、どうする文」

「何故俺に聞く…、まぁこのまま実行に移すしかないだろ」

「とりあえず、ケーキは何とかなりそうだし、お菓子も揃ったし、飾りつけはまだだけどどうにかなると思うから、予定通り…かな。気付かれていないと信じるしかないよ」

「そうだな」

「じゃ、予定通り僕は佳奈っちと一戦交えてくるよ~」

「俺たちは飾り付けだな」

「じゃ、私はそろそろケーキを・・・と、いうかケーキじゃないけどね」

「「「・・・え?」」」



□■□



 ふぅ・・・。

 文と俺でこの広い部屋全部を飾り付けるのは大変だったけど、なかなかじゃないか?

「ほら、あとはクラッカーの準備だ」

「おう」

 やっぱりこういうサプライズの最初はクラッカーだよね。

 確か俺が商店街で買って来たのだが・・・。

「ない、だとっ・・・!?」

「馬鹿野郎!買ってこい!今すぐに!はやく!」

「うわぁあああああああああ!!!!」


「あ、和樹くんどうしたの~!」

 まっず!なんでこんな時に佳奈と会うんだよ!

 と、いうか佳奈がいるなら智也も・・・。

「かっきー! 今から戦ってくるんだー!」

「お、おう。そうか」

「和樹くんは何してるのー?」

「えっと俺は今からクラッカーを買いにいこ」

「わっ、わわっ!ちょっとかっきー!?」

「あっ…」

し、しまった。日常生活にクラッカーなど使わないのに、買いに行くなんて言ったらただえさえ怪しまれているっていうのにより疑いが…。

「な、なに?どうしたの?クラッカーってなんで…?」

 ほ、ほら! やっぱりこうなってしまったじゃないか! ど、どうしよう…。

「さ、さぁ佳奈っち早く戦闘にレッツゴー!」

「え、ちょ、どうしたの智也くん…!?」

 な、なんとか助かった・・・のか?


「た、ただいま…走りすぎて死ぬかと思った…というか死んだ」

「天野に比べればまだいいだろ、ちゃんと人数分買って来たんだろうな」

「あ、当たり前じゃん」

 ちゃんと5つセットになっているクラッカーを買ってきた。

 一つ余分だけど、セット以外なかったのでこれを買うしかなかった。

 あとは、香帆のケーキがここに運ばれてくるのを待つのみ!

 それまでずっと智也が時間稼ぎをしてくれているのだが…大丈夫かな。




□■□



「か、佳奈っちもうちょっと手加減してくれてもよくない!?」

「え~、でも手加減とか苦手だし…、ほら、まだやる?」

「そりゃやるけどさ~、流石に開始10分で地下送りにされるのは悲しいよ~?」

「だって智也くん、立ち回りが刀のまんまだもの。銃撃戦で正面から突撃してくるなんて『私はここにいますっ、どうぞ撃ってください』ってアピールしているようなものだよ?」

「うぅ…」

 だって本当は銃撃のテスト練習とかしたくないもん!

 時間稼ぎとはいえ、咄嗟に出てきた案が銃撃テストの練習だなんて、流石に自分自身バカって思っちゃったよ・・・。

 全然当たらないし、クセで正面から突っ込んで行っちゃうし・・・。

 早くみんなの準備終わらないかなー!

「ほらー!次いっくよー!」

「は、はーい…」



□■□



「お、お待たせ………」

「お、来たか!」「お疲れ天野、それでどうなった」

文の質問に答える前に、香帆の後ろから一人の若い女性が顔をだした。

その人は珍しいものを見るような目で辺りを見渡して、次に俺達に目を向けて言った。

「へぇ…学園のことは詳しくないけど、もしかして香帆ちゃんのユニットって結構強いとこ?」

 だ、誰だ・・・?香帆ちゃんと呼んでいるあたり香帆の知り合いと判断すべきか・・・。

「まぁ…トーナメント1位取っちゃいました」

「あら、これはまたすごい子と仲良くなっちゃったわね~。次店に来たときまた半額してあげるわ」

「あっ、そんなのいい……ですか? また行っちゃいますよ?」

「あははっ、いつでもお待ちしているわ」

「あの…失礼ながら、どなたでしょうか?」

 文があまり慣れていなさそうな敬語を駆使して尋ねてみるが、答えたのは香帆だった。

「あぁ、紹介遅れちゃった。この人が学園近くの【街のケーキ屋】の店長さん。私がケーキ作るとき色々と手伝ってもらった人なの。それでクロカンブッシュを運んでくれたんだ」

「なるほどな…、えっと。店長さんありがとうございます」

「いやいや~、店一の常連さんのためならなんなりと~、だよ」

「店一なんですか? 私」

「ん? ハッキリとは数えてないからわからないけど、多分一番多く来てくれているんじゃない?」

 話の内容から推測すると、香帆は【街のケーキ屋】の常連で、そこの店長さんと仲良くなっちゃったーみたいな感じですか。

「そういえば、さっきケーキじゃない何かしら分からぬ物体の名前を言っていたよな…?」

「クロカンブッシュのこと? んー、簡単に説明すると。ミニシュークリームをタワー状に積み重ねたやつ? あれ、店長これであってる?」

「まぁ、土台にミニシュークリームを生クリーム糊の代用として使い、タワー状にしたやつだから、大まかな説明はそれでいいんじゃないか?後はちょっとしたデコレーションをちょちょいっと」

「………流石本職」

「あら、意外に照れるねその言葉。さてと、このクロカンブッシュ何処に置いたらいいー?」

「あぁ、そこのテーブルにお願いします」

 と、置く場所を指示されると。店長さんの背後から40cmくらいのクロカンブッシュと呼ばれるものが出てきた。

 説明通りミニシュークリームがたくさん積まれてタワーの形を作っている。

 甘い香りが部屋中に漂い、とても良い匂いだ。

 よし、これで準備は完璧。

 あとは智也に頼んで、佳奈を連れてくるだけだ!



□■□



「うへぇ…もうしたくない…」

 18回目の戦闘を終えたとき、待ち望んでいた僕の携帯の着信音が鳴る。

 急いで出ると希望通り香帆だった。

「香帆りん! 終わった!?」

『うん、終わったから連れてきて』

「了解しましたぁあああああ!!!」

 やっとこの苦しい拷問から逃れられる!


「智也くん……香帆ちゃんから電話?」

「あっ、いや! …もういっか、うん。香帆りんから電話だね、ユニ棟に来てほしいって」

「へぇ…、じゃ、行こうか!」

「え、あぁ…うん」

 なんで疑問に思わず素直に行くことにしたんだろう…。

 ま、いっか。



□■□



 さーってと。どんなサプライズが待っているのかなー…?

 そんなわくわくを胸の内に潜めながら、なんでもないフリをして最上階へいくためのエレベーターを待つ。

 エレベーターはすぐに降りてきて、中から一人の若い女性が降りてきた。

 その人からは、なんか良い匂いが…あれ?

 そういえばあの人の服学園のものじゃなくて…どっかで見たことある気が…。

 思い出せそうで思い出せない、すっごいもどかしい!

 とか思っているうちにもう最上階、相変わらずこのエレベーターは凄いと思う。


チーン


 と良い音がし、扉が開く。いつも通りエレベーターから一歩踏み出そうとする。

 けど踏み出した先の景色は、いつも通りではなかった。


パ、パァァーン!!


 クラッカーの音が鳴り響き、紙屑が降り注ぐ。

 小さい頃によくみた、色紙で作られた輪が天井や壁に飾られていて、部屋に入る扉の前には【佳奈 誕生日おめでとう】の文字が。

 バレバレなサプライズだったけど、それでも嬉しい。

 クラッカーを鳴らし終わり、私の表情を窺う4人、そんなに見つめなくてもいいのに。

 私は少しニコッと笑って、小さく

「ありがと」

 と呟いた。


「えっ? 佳奈なんか言った?」

 誰にも聞こえないように呟いたのだが、一番近くにいた和樹くんにはハッキリではないが聞こえてしまったらしい。

「ううん、何も言ってないよー? ねぇねぇそれよりさ、扉の向こう行っていいのー?」

「あぁ、いいぞ。どうぞ驚きやがれ」

「おぉ~?自信満々だね文くん」

 ではその扉の向こうを拝見させていただきましょー!


 扉の取っ手を掴み、ゆっくりと内側に引く。

 向こうのほうが明るいので、光が徐々に差し込んでくる。

 光のせいか、それとも自然になってしまったのかわからないが、目を閉じてしまった。

 なってしまったのは仕方がないと思い、扉が全部開き終わったと思う頃にゆっくりと瞼を開く。

 そこには、エレベーターホールより多く飾られた色紙の輪の鎖、より色鮮やかに描かれた【佳奈 誕生日おめでとう!】の文字。2つも作らなくてよかったのに…。

 そして何より、一際目立つのが水色のテーブルに乗せられたクロカンブッシュ。


 ・・・え? クロカンブッシュ・・・?


「どうだ佳奈、驚いたか?」

「……うん。え、これってどうしたの!?」

「えっと、これは私の手作り…」

「え!? ほんと? 香帆ちゃんすごい!!」

「そ、そんなことないよ?」

「あるあるすっごいあるよ!」


 お店に売っていてもおかしくないくらいの完成度に、一瞬言葉もでないくらい驚いてしまった。

 香帆ちゃんの手作り~♪


「本当は、店長にも少し手伝ってもらったの…」

「て、店長?」

「う、うん。会わなかった、かな?」

「あぁ!」

 思い出した、エレベーターに乗る前に擦れ違ったあの人か!

 いい甘い香りもするわけだ!

 でも、手伝ってもらったからってそれでもクロカンブッシュ作っちゃうのはすごいよ!

「あ、それとこの飾りつけって和樹くんが作ったでしょ」

「え? そうだけど…なんでわかった?」

「私なら和樹くんに頼むもの」

「ハハハ…なるほどね」


 和樹くんこういう地味な作業得意そうだし?

 それになんだかんだ言って結果的にはやってくれそうだし。

 逆に智也くんとかこういう作業苦手そうだなー。

 と、勝手に想像してみる。


「ねね、この誕生日会? 誰が計画したの?」

 勘付きはじめてから、ちょっとした疑問だったことを投げかけてみる。

「ん? んと…みんな、かな」

「へぇ~…そうなんだ」

 みんな、か。これはちょっと意外だったかもなぁ…。


 というか、このクロカンブッシュ。段々食べるのが勿体無いって思えてきちゃた。

 どうしよう、せめて写真でも・・・!

「ねね、香帆ちゃん。カメラとか…」

「・・・! 持ってるよ!」

 わぉ! 準備万端だね! そして『すっごい待ってましたー!』っていう雰囲気が漂っているよ香帆ちゃん!


 そして決まっていたかのように、香帆ちゃん作、クロカンブッシュの前に集まる。その前に三脚を立て準備する香帆ちゃん。その間に私は文くんに前に行くよう誘導される。

 わー、ちょっとドキドキしてきちゃったな…。

 香帆ちゃんのセットが終わったみたいで、カメラ越しに右手の親指を立てて、サインを送る。

「じゃあ、タイマー15秒ね」

 そういうと香帆ちゃんは、こちらに走ってきて私の隣にちょこんと座った。

「あ、そうだ。星野」

「ん?こんな時になーに?」

「この誕生日会、天野が企画したんだぜ」

「……え!? ほんと!?」

「あっ、もうなんでこのタイミングで言っちゃうかなぁ…」

「香帆ちゃんありがとー!」

「ほわっ! ちょ…佳奈ってば…」

感動と嬉しさが一瞬で込み上げてきて、思わず抱きついてしまった。

「はぁ…お前達は相変わらずだな」

「ま、全くだね~。まぁこれがCHAINらしいけど」

「あ、あの俺が写らない…」


ピ、ピ、ピ、パシャッ


 一生続いてほしいと思うこの瞬間を、一つの時として留めてくれる。

 例えどんな状況になろうと、どんなことが訪れようとも、私はこの日にあった一瞬、記憶をずっと留めておこうと誓った。


「…みんな大好き」







「ねね、これ聞くことじゃないと思うけどさ、プレゼントは?」

「「「「………あっ」」」」

「ハハハ…私はみんなの気持ちだけがプレゼントだけどねっ!」

燐火&美帆:星野 佳奈! 誕生日おめでとう!!


燐火:はい、ていうことで。

美帆:今回のお話は星野ちゃんの誕生日~!

燐火:いえーい!ということで祝えー!

美帆:え、もうめっちゃ祝ってるじゃん。

燐火:あ、はい。

美帆:あー今のでめっちゃテンション下がったわ

燐火:え!? ちょ、んと…。ごめん…。

美帆:嘘だよ?

燐火:……………佳奈は基本明るい子です。

   それにリーダーシップもあってみんなを引っ張っていくタイプの子です。

美帆:え、そういう話の切り替え方する?

   ええっと、それにスタイル抜群だよ!

燐火:運動1位だしね…。

美帆:ねね、燐火さん?

燐火:はい、なんでしょう。

美帆:もしかしての単発企画とかにならないよね?

燐火:・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

美帆:その沈黙が怖いのですが!?

燐火:と、いうことで次回の CHAINの日常 第二弾 あるかわからないけど!

   お楽しみに!!

美帆:お、お楽しみに…!?

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