No.015 全力かくれんぼ 後半戦
さ、寒いっ…!
夏とは言え、和室地下の保管庫らしき場所に閉じ込められたっぽい俺は、あまりの寒さに凍えていた。
『かくれんぼ』の途中なのだが、この状況は逆に見つけてほしい。
しかし、見つけてもらうのを待つだけではダメだ。とりあえず明かりを確保しなければ。
つい最近買った最新の携帯端末を取り出し、電源をつけて画面のライトを利用し明かりを確保した。電力をあまり消費したくないが、とりあえず周囲がどんな状況か把握したかったから明るさを最大限に設定し、周りを明るくする。
ふむ・・・、多分畳二枚分くらいのスペースはあるんじゃないだろうか。
普通に俺が立っていて天井にぶつからないほどの高さだから、結構深さもある。
物置部屋らしき場所の形は四角形で、物はほとんどないが、角に木箱がある。
強度があれば、あれを踏み台にして上に登ることが可能だろう、しかし上の扉が開かなければ何の意味もない。
よし、大体の状況がわかった。
脱出不可能!
せめてなんか内側から出られる仕掛け用意しておこうよっ!
いや俺がここに隠れてしまったのがいけないと思うんだけどねっ!
何故か危機的状況に陥ってテンションが高くなったよっ!
いぇい!
・ ・ ・ 。
泣きてぇ。
どうすればいいんだよ。手元にあるのは最新の携帯端末。
―――携帯端末?
こっから電話を掛ければいいじゃーん!
なーんだ助かるじゃーん。
この携帯端末はタッチ式だから、左手で持ちながら右手をスライド、タッチしながら、電話帳を表示する。友達が少ないので電話帳の中は寂しい。
しかし、ポジティブに『登録数が少ないから相手がすぐ見つかるね!』と考えている。
・・・検索機能を使えば探すより早いとか言わないで。
そんな電話帳を操作し、神楽坂文が登録されている場所を開く。
そこにはちゃんと文の名前があるはず、だった。
焦る。どこにも文の名前はなかった。更に付け加えて、CHAINのメンバー全員が、俺の電話帳に登録されていなかった。
・・・。まさか、アドレス、更には電話番号まで聞いていなかった!?
そういえば、ユニットトーナメント戦の時期に文と電話したことがあった・・・ってあれは香帆の携帯電話じゃん!
あー、もう。畜生、出られないじゃないかここから!
どうする、どうするっ!
その時、誰もいるはずのない密室にいる俺の耳に、声が聞こえた。
「あれ……? 井上……和樹…君だっけ?」
携帯端末で明るさを足していたとはいえ、大分暗かったこの密室に、一筋の希望の光が差し込んだ。明るさに対応しきれなかった眼が、ぼんやりとだが、その光と人物を捉えた。
「………結、さん?」
俺を見つけたのは、『かくれんぼ』の鬼である文ではなく、その母親である結さんが見つけた。何はともあれ、これでこの場所から脱出できるっ!
「こんなところで何してるのー?」
差し込む光と被さって、まるで天使にも見える結さんが上から問いかける。
「いや、かくれんぼしてたらここに閉じ込めら―――」
「そういえば一回井上君と話したかったのよねー」
「え、えぇ?あ、あの話ならとりあえずここから出て―――」
「ちょっと退いていてー」
「は、はぁ…!?」
俺の言うことなど全く無視して、何をし始めたかと思うと何故かこちらに飛び降りてきた…。そのまま上の扉をしめて、光が遮られ再び携帯の光だけの空間になる。
「うぉぃ! 何してるんですかっ!!」
「………いや、この方が雰囲気でるかなーって」
「………はい?」
木箱を3つ持ってきて、一列に並べる結さん。「座って」と言われ、真ん中に携帯端末を置きその横に座る。反対側に座った結さんの顔は、明るさのせいか、表情が暗く見えた。
意外な表情に、俺は脱出することを忘れ、結さんの話を聞くことにした。
「6月に、私何があったか知らないけどね。文が…おかしかったでしょ?」
「あ、あぁ…」
6月、おかしかったと言われると思い当たるのは、ユニットトーナメントしか思い当たらない。やはり、家族に心配されるほどの状況だったんだな…。
「それでね、ずーっと暗かった文がね、何事もなかったように明るく戻ってきたの」
その日は多分、CHAINが優勝した日だろう。結成直後から色々なことが降りかかってきたが、それを全て跳ね除けて優勝することができた。
しかし、その裏で。文が昔いじめていたという過去も知ってしまった。
当然、俺達はそんなこと気にしないが、本人はどう思っているのだろう…。
「その日からね、ほぼ毎日。あなたや、みなさんの話をするようになったの。話している時の文ったら、すごく嬉しそうでね。この子も昔から変わったんだなーって思ったの」
文が、家で俺達の話を…。照れくさいが、とても嬉しいことだ。
「本当は母親である私がね、過去から救い出さないといけなかったけれど、代わりにあなた達がやってくれたね…。私、母親失格かしら?」
確かに、俺達はあの時文を変えたかもしれない。それは本来、家族である結さんや、お父さんがやるべきことだったかもしれない。けど、
「そんなことはないと思いますよ。家族って言うのは、側にいてくれるだけで心の支えになりますし、知らない間に結さんも、文を助けているんじゃないですか?」
家族っていうのは、そういうものじゃないだろうか。
食事や、買い物などを共にし、喜怒哀楽を一緒に感じる一番身近な存在だと思う。
それは少なからずとも。自分の居場所となり、自分を助けてくれる。
俺はそれを知っていた。
「そっ、か…。ありがとうね。井上くん」
「いえいえ、そんな」
「私の代わりに文を支えてくれてありがとう。これからもよろしくね?」
「………はい、わかりました」
多分、支えられる側の方が多いと思うが、こんな形でお願いされたら頷くしかない。
別に嫌なわけではないが、果たして俺は支えられるほど強い柱になれるのだろうか…。
「よしっ、じゃあ出ようか!」
「………えっ!?」
そういうと、結さんは俺達が座っていた木箱を踏み台にし、扉に手をかける。
その扉は押しても開かなかった。
―――押してもダメなら?
「もしかしてそれって…引くんですかっ!?」
俺がここに隠れたときは急いでいてどうやって扉を開けたか分からないが、押してダメなら引いてみろってやつか!?
「え? スライドよ?」
と疑問の顔をこちらに向けながら、結さんは扉を横に移動させた。
ほぼ無音で扉は消えてなくなり、畳の裏が見える。やがてその畳も押し退かされ、再び光が差し込む。
・・・ハハ、・・・スライドね。
密室でもなんでもなかったじゃん!
「…あれ?母さん何でこんなところにいるの?」
差し込める光の向こうから聞こえてくる文の声、すごく今更だが、まだ俺は『かくれんぼ』の最中で、見つかっていなかったのだ。
脱出方法もわかったんだし、やっぱりここに少しいようかな…。
でもなんかもう疲れたし、出たいな…。
そうこうしている間に、
「あっ!和樹くんいたーっ!」
佳奈に見つかってしまった。
「おっ、マジか? そんなところにいたのか…。井上みーつけた」
はぁ…。文に『見つけた宣言』され、これでゲームオーバーだ。
「………ほら、いつまでそんなところにいるの」
「かっきーお腹減ったよー!」
俺が閉じ込められていた地下の物置部屋(の上の和室)にみんなが集まる。相変わらず智也は自由だなー。なんて思いながら、木箱に足を掛け地上へ出る。
「お腹空いたなら…カキ氷でもしましょうか?」
「結さんいいアイデアです!」
カキ氷か…、地下はまだ涼しかったけど、やはり上は暑い。みんなも一遊びして、時間も丁度いい感じだと思うから、大賛成だ。
「じゃあ…作りますね。文、リビングにお連れして」
「わかったー、って。そういえばなんで井上と母さんは同じ場所にいたんだ?」
「いや、それは―――」
「もしかして井上まで俺の母さんにぃ!?」
「本当か、かっきー!」
「いや違うから!結さんが勝手に来ただけであって…ってなんで智也まで反応しているんだよ!本当は智也のほうが狙っていたりするんじゃないか!?つか結さんも顔を赤く染めないでくださいよ、そんなに恥ずかしそうにしないでくださいよーっ!!!」
「冗談だ」「冗談だよー?」「冗談に決まっているじゃない」
「うへぇぇ…」
まさか文と同じ溜め息を吐くことになるとは…………。
燐火:はい、おはこんばんにちわー。
ガンコン十五話目は、全力かくれんぼ 後半戦です。
美帆:よかったねー井上脱出できて。オチ酷かったけど。
燐火:酷いっていうなよー!
よくあるだろー!?押すと引く間違えたりー!
美帆:しないよ?
燐火:嘘だー!
美帆:嘘じゃありません、それで話変えるけどなんで若干微妙なところで終わったの?
燐火:この後また神楽坂の家で1話できるからです。
美帆:神楽坂家出来事たくさんだね!
燐火:と、いうことで!
美帆:次回もお楽しみに!!
燐火:今後もともどうぞよろしくお願いします!!!!