No.013 お菓子争奪戦 ホワイトテーブルの乱
暑い…。
あっという間に6月が過ぎ7月上旬も過ぎて、そしてやってきた夏休み初日。
みんなが学校から開放された今日、俺は何しているかというと日向島のコンビニで飲み物を買った帰り道だ。
CHAINのみんなが初日から俺の部屋に来るみたいで、午前中はずっと掃除をし、整理整頓を完璧に行った。そして今、集合時間の2時に間に合うように、冷たい飲み物を差し出せるように時間を考えて飲み物を買いに向かっている。
陽の光で飲み物が温められないようになるべく自分で影を作り若干駆け足で自宅へと帰っていく。
視界には未開拓の土地が目一杯広がっている。だから日陰となる建造物が全くないのでここだけ砂漠のように感じる。
そしてその未開拓の土地の中にドデーンと大きいがポツンと建っているのが日向学園南学生寮なのだ。
壁一面を空と同じような水色で塗られており、4階まである階段は全て真っ白で、シンプルだが空と同じような色合いで俺としては気に入っている。
そんな南学生寮の1階、107号室に住む俺は、金属製なので熱せられているドアノブを回して家の中に入る―――。
「おかえり、かっきー!」
「なんで智也は俺の家にいるんだよ!」
「私たちもいるよー!」
「………お邪魔しています」
「遅かったなぁ井上」
「なんでみんな勝手に俺の部屋に入ってるんだよぉおおおお!!!!」
しかも持参してきたのか、リビングに置いてある机にお菓子やらジュースなどが既に広げられている。智也なんかは色々と物色しているし、佳奈も動いてはいないが視線を隅々まで行き届かせ物色している。大人しいのは香帆と文くらいじゃないか!
「とりあえずどうやって入った!」
まず気になるのはそこだ、鍵を持っていないはずのみんなが部屋に入れるわけが無い。
「え? 開いてたよ?」
俺のバカァアアア!! こんな時に部屋の鍵を閉め忘れるなんてなんてことを!!!
「で、でも! 普通入らないでしょ!」
「まぁまぁかっきー、気にしない気にしない」
「とりあえず智也その時計を置いてジッとしとこうか?」
なんだよ…。警察に言えば完璧な空き巣じゃないのか?これ。
「にしても井上の部屋はシンプルだな…」
「つまらないねぇ…」
つまらない、と言われましても。
リビングの内装は、一応真ん中に白い丸型の机が一つと、奥にテレビ、隣にパソコン。そして中央右側に本棚となっている。
最低限の物しか置いていないし、さっき掃除もしたし普段から整えるように心掛けているから汚くは無い。
「かっきーって料理するの?」
「料理は……実はあまりしないんだよな」
買ってそのまま食べられるようなものを冷蔵庫にしまって、それを毎回朝食やら夕飯やらに使っている。昼は学園の購買部で十分だし、ある程度栄養に気をつけていれば問題ないかな…と思っているのだ。
なので、冷蔵庫の中身は―――
「パンと牛乳しかないじゃん!」
さっき買ってきた飲み物を冷蔵庫に入れていたのを見に来た佳奈が驚く。
「しかも牛乳6本!?」
「え? そこは驚くとこ?」
野菜や肉などはコンビニでいつも食べる前に買うようにしているから冷蔵庫の中には無い、だからパンや飲み物くらいしか冷蔵庫にはないのだが、牛乳6本で何故驚くのだろう。
「一日で1000mlの半分くらいは消費しない?」
「「「しないよ!!!」」」
朝にパンと一緒に飲んで、帰ってきて一杯飲んで、風呂上りに飲んで、夕飯に飲んだらもう半分くらいは余裕に消費すると思うのだが。
おっかしぃなぁ、世間一般常識だと思っていたのに。
すると唐突に香帆が立ち上がった。
「………本見せてもらっても、いい?」
「あ、あぁ。別に構わないよ」
「………では」
と言って本棚に向かい1冊の本に手を伸ばす香帆。
この年代の男子と言えばあんな本やこんな本を1冊や2冊持っていてもおかしくないと思うのだが、残念ながら俺はそこら辺興味なく、本と言えば銃関係の本とか教科書とか、少しの少年漫画くらいだ。
SRの武器名や種類、そして特徴などが詳細に載っている本を手にした香帆は、その後黙々と読み始めた。あの本はなんとなく買った本だから、別にそこまで読み込まなかったし、SRも使うことがあまりなくなったので正直俺としてはいらなかった。
物凄い速さでページを捲っていく香帆、流石普段から本を読んでいる人は違う…。
「よかったらその本、あげようか?」
「……………………え」
香帆が顔を上げ驚いた表情でこちらを見つめる。
かなりその本に熱中しているようだったし、あげてもいいかなーと思ったので聞いてみたのだが、かなり眼が輝いている。
「俺SR使わないし、その本、香帆には役立つかなぁと思いまして」
「………でも…悪いし…」
「遠慮しなくていいって! 眼が輝きっぱなしだしな」
「………ホントにいいの?」
「お、おう。俺って一度読んだらその後あまり読まなくなるから、欲しい本とかあったら持ってっていいぞ?」
「………じゃあ遠慮なく」
と、言うと本棚からSR関係の本を5,6冊手に取り積み重ね、上機嫌で机の側に戻ってくる香帆。嬉しそうでなによりだ。
「それで…何やるんだ?」
「わかんない」
「知らん」
「………同じく」
「かっきー考えてよ!」
「無責任だなぁオイ!」
丸く白い机の周りに、更に円を描くように座ったCHAIN。
俺の家に来たのはいいのだが本当に必要最低限しかないからゲームもないし、ネットゲームするといっても一人しかできないし。正直やることがないのだ。
「んー…、夏休みの計画でも立てようか!」
夏休みの計画かぁ、確かにこの先無計画で俺の部屋に集まられても困るし、いいかもしれない。
「そうだな」
文もその意見に賛成のようだ。
「………和樹、パソコン」
「え?使うの?」
「………バカ、逆」
「あぁ、俺が使うのか」
そりゃ他人のパソコン使うわけないよな。
俺は立ち上がり自分のパソコンを起動させる。インターネットに接続し何を検索しようと迷っていると智也が俺の肩に手を乗せ、
「夏といったら海だよな!」
と一言。海か、この島の海でいいんじゃないか…?疑問に思った俺は聞いてみると…、
「そうだな!」
簡単に解決してしまった。
日向島は夏休み中人気ないし、いるとしてもこの島にはいくつか砂浜はあるし、そこまで人が集まることはないだろう。
「ていうかこの島って夏休み中何かイベントしないの?」
佳奈がスナック菓子を頬張りながら俺達に問う。
確かにこの島で何かイベントがあって、そこにみんなで行くとなったら無駄な交通費とか移動距離とかがなくて済む。案外いい提案かもしれない。
『日向島 イベント』と打ち込み検索をかける。
一番上に出てきた日向島の公式ホームページをクリックする。
色々な項目がある中夏のイベントという項目を見つけそれをクリックする。
すると7月と8月のカレンダーが表示され、その中に色々と線が引いてあり何か書いてある。
「へぇ…夏祭りあるんだって!」
パソコンの画面を一緒になって見つめる智也が呟く。
去年は夏祭りなんてなかったから多分今年からのイベントだろう。
夏祭りと言えば色々な出店があって、それをみんなで巡って、わーい楽しかったねと終わるあれか。友達と言ったことなんてないからよく分からないが、それでも行ってみたい。
「最終日には花火もあるんだって!」
花火か…。それは一回だけ行った事がある。海で打ち上げられる花火を見に家族全員で出かけて確か3万発くらいの結構大きな花火大会を見てたっけ…。
あれは迫力あったなぁ…。
「その花火含む祭りはいつあるんだ?」
文がクッキーを摘みながら聞いてきた。
祭りの線は青色だからそれが始まっているところは…。
「8月の最後の週だな」
「長いな、長いね、長いよね」
文が呆れながら三段階に分けて突っ込む。確かにそんな一ヶ月くらい先の話を今決められても…と感じがする。
「………他に、ないの?」
佳奈と同じスナック菓子を摘みながら香帆が問う。
目線を再びカレンダーに送ると、一つ面白いものを見つけた。
「移動式の遊園地がやってくるんだって、しかも8月上旬からそこで遊べるらしいから結構近いんじゃない?」
「小学校以来全然行ってなかったけど久しぶりに行ってみるのもいいかもねー!」
いつの間にかテーブルでコーラを飲みながら俺の意見に賛成する智也。
「移動式じゃなかったらもっと良いが…。まぁ、文句は言えないし」
確かに移動式じゃなかったらもっと大型の乗り物とか乗れるのだろう、しかし行きたい場所があちらからやってくるのだ、乗り物に一々文句など言っていられない。
「まぁ…それくらいかな?」
他に目立ったイベントは無さそうだし、まぁこれだけでも十分夏休みを楽しむことはできるんじゃ―――
「えぇ~! なんか少なくない…?」
佳奈は違ったみたいだ。佳奈は続きを話そうとしたが、既に手の中にあったお菓子が優先だったみたいでそれを半ば強引に飲み込み、少し咽ながらやっと話を続けた。
「やっぱみんなの家に行こうよ!」
ビクッ
見たことがあるリアクションを取る二人。
「香帆ちゃんはOKとして、智也くんは……大丈夫だよね」
「…え……なんでOKなの……」
「だ、だだ、大丈夫ぅ…かな…、ハ、ハハ。今日起きたら瓶がいくつか地面に転がっていたからね、うん、大丈夫だよ…」
智也が全然大丈夫のように見えない。
「とりあえず文くんの家訪問しようか!」
「俺は構わないが」
「なら明後日どう?」
「おう、みんなはどうだ?」
勝手に話が進み文の自宅訪問がほとんど決定しまっている。
俺は夏休み中ほとんど暇だし、さっきからビクビクしている二人次第だな。
「………家から離れられるなら行きます!絶対に行きます!」
「香帆りんに同じ!」
「じゃあ決定ね!」
みんな…大変そうだなぁ…色々と。
「和樹くんは何か面白そうなもの用意しておいてよね!」
「面白いもの…とは」
確かに俺の部屋には何も遊べるものは無い。
ゲームとかトランプとか人生ゲームとか色々とあれば良いものの、ずっとネトゲで過ごしてきたからある程度のPCがあれば十分に暇を潰せたのだ。
「え…それって文の家で遊ぶときの物?」
「ちーがーうー!和樹くんの家でまた遊ぶときに今日と同じだったらつまらないでしょ!何かこう毎回楽しめるものを用意しなさいっ!」
毎回楽しめるものか…、それって単にトランプとかゲームとかなのか。
人生ゲームとかトランプならすぐに買えるけど、それだと俺一人の時に使い道が無い。一人で人生ゲームとかトランプやるってどんなに寂しいんだよ。
だとするとやはりゲームか…。
いくらか貯めていたお金を崩せば多少なりともすぐに揃えられるけど果たしてそれほどの価値がこの夏休みにあるのだろうか。
「用意してくれないと罰としてこの部屋、色々と物色するからね。問答無用で」
その価値は強制的に決められたみたいだ。
俺はどんどん憂鬱に浸っていく。
そんな中、原因となった当の本人の佳奈は俺との会話を一段落させると、再び棒形のスナックチョコレート菓子に手を伸ばしポリポリと食べ始めた。
みんなも無言でテーブルに広げられた菓子に次々と手を伸ばし口の中へ放り込んでいく。
しかし、それに気付いたみんなが一瞬手を止め、お互いの顔を窺い始める。
俺を除いた四人の目線の間に、見えない火花が散ったように見えた。
ふと、時計を見る。2時59分。秒針は進み、あと10秒ほどで3時だ。
―――――カチッ ………ピピピッ
その音をきっかけに、四人は次々にテーブルへと手を伸ばし、凄い勢いで菓子を食べ始める。
文は右手でマカロンを食べながら、智也のポテチを阻止するかのように左手で掴み取る。その隙に佳奈が文のマカロンをそっと横取りする。智也は文の左手を避けながら右手でポテチを手に取り、左手で真ん中にあるチョコレートに手を伸ばす。そこに新たな乱入者として香帆が右手でチョコレートを取りながら、佳奈の目の前にあるクッキーに左手を伸ばす。それに気付いた佳奈は文のマカロンから目を離しクッキーを死守する。佳奈が香帆の魔の手によって目を離した隙に、文は取り戻したマカロンをまた口の中に入れて、佳奈が守るクッキーに手を伸ばす。そして邪魔がいなくなったポテチを急いで口に詰め込む智也。
そしてこの目まぐるしい動きが一気に止まり、それぞれの顔を見合わせ、一言。
「「「「邪魔するなっ!!!」」」」
次々と戦況が変わっていくこの菓子争奪戦を観客として見守っていた俺は、ふと思う。
邪魔をするな…?ふふ、では最初からこの戦いに参加していない俺は邪魔者以下。論外ということか…。
何故か冷静を保てなくなった俺は、こう叫ぶ。
「俺も混ぜろやぁぁああああああ!!!!」
こうして五人となった小さな白いテーブルの上での戦争は、菓子が無くなるまで続いた。
燐火:はい、おはこんばんにちわー。
ガンコン十三話目は、お菓子争奪戦です。
美帆:もう突っ込みどころたくさんあるよ?
燐火:全部スルーしてください。
美帆:そういうわけにもいかないから、私も一言言わせて貰うよっ。
私もお菓子争奪戦混ざりたい!!
燐火:えっ?
美帆:えっ?
燐火:あっ・・・はい。
と、ということで。
美帆:次回もお楽しみにっ!
燐火:今後ともよろしくお願いします!!