No.011 こんにちはって言われたら、こんにちはって返すんだぜ!
やっと上に行ったか…。
何故か考えることだけ自分の意思で、体はまるで別人のように無意識に動く。
とりあえずここから言ったからには【亡霊】だけでも倒さなければ。
今の俺はそれができる気がした。
人間離れしたさっきの行動は自分でも信じられなかった、けどこれはもう後で考えるとして、今は目の前の敵にだけ集中しよう。
俺が投げたナイフで一人地下へ送られ、残り4人となった。
未だ呆然としている亡霊、俺だって驚いているんだ、無理もない。
やっと一人が俺に向かって走ってきた。しかしその動きはスローモーションを見ているように遅い、遅い。これじゃあ次にどこの部位が動くかわかるくらいだ。
真っ直ぐ立ち向かってきたそいつは右手に持ったサバイバルナイフを俺に突き刺してくる。心臓あたりを狙った矛先、俺は半身だけ動かし避ける。
勝手に、避ける。
バランスを崩すそいつを、俺は右手に持っていたAN94で地下送りにする。
次はどうする。残り3人。
めんどくさい、一気に片付けるか。
50mくらいの距離を一気に詰める、まるで飛んだように走った。
3人は綺麗に逆三角形になって立っている。何をしているのだろう、攻撃しないのかな。
そう思ったら目の前にいた女子が短剣を取り出し、足を狙って斬りかかってきた。
俺は上にジャンプする、すると左側の男子がサバイバルナイフを俺に投げようとした。
しかし遅い。ジャンプした状態で俺はAN94を相手に向け撃つ。
投げるよりも早く地下送りにされる男子、着地するとさっきの女子が今度は縦に振りかざしてきた。
考えるよりも早く腕が伸びて女子の細い手首を掴む、そして銃で手の甲を叩き短剣を落とさせる。手首から左手を離し短剣を手に取り、女子の背中を斬る。
背中ならまぁ問題ないだろう。
十分なダメージを受け地下へ送られる。
さてと、あと一人だ。
しかしそいつは俺が睨むなり後退りをした。
さっきまで5人いた仲間が2分くらいの間に4人やられているんだ。まぁ仕方ない。
一歩一歩後退しながら徐に銃を取り出す残り一人。
銃使うなら最初から出しとけよ…。
タタタッッ
3発だけ頭部目掛けて銃弾を撃ちこむ。
銃弾が到達する前に壁が現れ、そいつを守る。
壁がまた地下へ戻るとそこにはもう【亡霊】はいなかった。
全く最新技術ってすごいよ。銃弾の速度は音速を超えるのにその軌道を計算して壁作り出すと共に地下へ送るんだもん。
これで【亡霊】は倒した。
はぁ、疲れた。
門に目線を送ると立ったままの【フュークス】がいた。
こいつらも倒そうかな、今の俺ならできる気がする。
―――残念、もう終わりだ。
え?終わりって、何が?
―――力は返させてもらうぞ?
まてよ、まだ試合は終わってない。
―――お前の力じゃない。ほら、返してもらうぞ?
じゃあ、誰の力なんだよ!
勝手に体から力が抜ける。足が体を支えられなくなりそのまま前に倒れこむ。
あぁ、なんだよ。これっぽっちかよ。せっかく勝てると思ったのに、まだ5人もいるじゃないか。
声が聞こえる。よく聞き取れないが段々と近づいてくる。
「………え!い……うえ…!………きこ…るか…!井上…!」
これは…文か?2階に行ったはずの文が、何故ここにいる。
目で正体を確認しようとしたが体が動かず地面しか見れない。
するとまた、自分の意思とは関係なく勝手に体が動いた。
しかしこれは違った、智也と文が俺の肩を持ち上げ、立ち上げてくれたのだ。
「しっかりしろ!かっきー!こんなところで5人も倒した英雄を見捨てるかよ!」
「ったく、俺の命令は聞けても井上の命令は聞けなかったらしいな!」
「聞かなかったんじゃないよ!助けに来ただけだ!」
「だそうだ、井上」
ハ…ハハ…。助けにきてくれたのか…。
耳を澄ませると、前と後ろのほうで銃声が聞こえた。
後ろではAKが、前にはワルサーの音がした。多分【フュークス】に対して佳奈と香帆が動きを封じるために銃撃を行っているのだろう。
俺を助けるために総動員か…。俺がもっと実力があればなぁ…。
「にしてもかっきー凄かったね!なんで隠していたのさ!」
隠していたわけじゃない。ただ、声が聞こえて、いつの間にか体が動いて、信じられないくらいに人間離れした動きをしていた。そんなこと一度もなかったし、自分だってなんでこんなことができたのかわからなかった。
「それより今は早く城の中に逃げ込むんだ」
そうだ、門に立たれている以上城外から出られない。ならば逃げ道は城内だろう。
けど足を動かそうとしても全く動かない。だから文たちが支えてくれているのだが、ほぼ引きずられている状態だ。
なんとか城内へ入ることができ、ゆっくりと2階へあがる。
香帆も佳奈も戻ってきて、5人ちゃんと揃った。
「とりあえず作戦はある、お前らを信じている。よろしく頼んだ」
☆★☆
「お―――――い!!俺はここにいるぞ――――!!!」
文が大きな声で叫ぶ、どこにいるかわからないが、3階にいる俺にもはっきりと、うるさいくらいに聞こえる声量だ。【フュークス】はまだ城内に入ってこないらしく、それを挑発しているのだろう。しかしまだ足音は聞こえない、そう簡単に挑発に乗ってくれない。
『天野、いいぞ。見える範囲潰していけ』
文が次の命令を出す。香帆もまた俺の見えないところに配置されているみたいで、さっき、文の知らない武器とワルサーを交換していた。
武器の交換は戦場内限定で認められている行為だ。相手の武器を借りる代わりに自分の武器も貸すのだが、戦況によってはそれが重要になってきたりする。また特例として、武器の弾数がなくなった場合、敵の武器を奪ってそれを使用することが可能でもある。
流石に武器を奪って使った例は本当に僅かだが、戦場での武器交換はよくあることだ。
交換は仲間としか行えないのが難点だが、それでも良く見る光景だ。
それを行い文の武器が香帆に、香帆の武器が文に渡ったのだが、文は何を考えているのだろうか。
「ふわぁああああっっっ!?!?」
「うえぇえええええいいっっっ!?!?」
どうした!?外から敵と思われるとんでもない悲鳴が聞こえてきたのだが…!
え、外が見たい。けど足がまだ動かない。しかも俺の周りに誰もいない。
誰か状況説明してよ!
しばらくして複数の足音が聞こえてきた、敵が階段を登っているのだろう。
あのあと何があったかがすごく気になるのだが…。
ここは四階、そして俺がいる場所は三階から登ってくる階段のすぐ側だ。
文に『ここにいろ』って言われたが、このまま相手が登ってきたら俺と鉢合わせするじゃないか。けど俺は文を信じる。
足音が段々近づいてくる。
不安になる。
すぐ下で足音が聞こえる。
ちょっとやっぱ…。
トダダダダダダッッッ!!!
「………ハ、ハハ」
「あぁ?」
相手は3人。残りの2人はどこにいったのか知らないが3人が四階へと登ってきて俺の前で止まる。
とりあえず、出会ったならば…。
「こんにちは…?」
「さようならっ!」
と言いながら銃口を俺へと向ける3人。
ちょ、ちょっと、ま、ちょま。落ち着こ?とりあえず江戸のお茶でも飲んで落ち着いて…?
「『こんにちは』って言われたら、『こんにちは』って返すんだぜ!」
「………それくらい常識」
「「「………はっ?」」」
思わず声をあげる敵と俺。だっていきなり智也と香帆が壁から登場してきたんだから。
正確には回転扉を利用して何処からともなく現れた2人、既に銃を構えて3人に向けている。助かったぁ…。
「はんっ!同数で俺達の機関銃に勝てるとでも?」
そうだ、相手が弾数多い分、俺達が外せば相手のほうが弾を当てる確率が多く、この状況ではまだ勝てると確信できたわけではない。
しかし、俺達は5人全員生き残っている。
「俺を忘れていないだろうな!」
「登場の仕方は回転扉以外にもあるんだよっ!」
「「………はっ?」」
シュタッという着地音と共に現れた文と佳奈。
それをみて再び声をあげる敵。
回転扉で2人に登場された上に、外から更にもう2人現れるんだから。
「さて…、これで5人対3人だ。最初は俺ら5人対10人だったのにね」
「大人しく負けを認めようか…?」
「………状況的に私たちのほうが圧倒的」
そう、目の前には俺が、その左右には回転扉から現れた香帆と智也が、そして前後には外から入ってきて現れた文と佳奈が、それぞれの銃(と刀)を突きつけているのだから。
これはまさに…、
「形勢逆転じゃん?」
「くっ…」
「神楽坂」
1人が悲鳴を上げる一方、相手リーダーはこの状況で文の名前を呼んだ。
「ん? なんだ?」
文は銃を構えたまま返事をする。
「お前は昔から、変わってないな」
「あぁ、俺はいつもこんな感じだ」
「少し………安心したよ」
その言葉に大きく目を見開く文、そして少し笑ってから…。
香帆に借りているワルサーの引き金を引いた。
BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBB!!!!!!!
試合終了のブザーが城中に鳴り響く。
あぁ、終わった。文を守ることができた。あいつらの復讐から解放された。佳奈にウィンチェをあげることもできる。初めてのユニット戦で1位を取る事もできた。
「ふぅ…」「終わったぁ!」「疲れたぜ!」「………眠い」
それぞれが気を緩めてその場に座り込む。
決勝戦、誰も死亡仮定を受けないで、10人の相手に勝つことができた。
そのうち半分は俺が倒したのだが、あれは俺であって俺じゃない気がする。
兎に角、無事決勝戦を勝つことができた。
それだけで俺は大満足だ!
「何勝手に自分だけ満足しているんだ?井上」
「あれ…そんなに顔に出てた?」
「井上は分かりやすいんだ」
そんなつもりはないんだがな…、顔に出やすいのか俺。
「井上立てるか?」
言われて、足に力を入れてみる。よろけながらも何とか立つことができた。
「………歩ける?」
香帆に心配され、試しに一歩踏み出してみる、しっかりと地面を踏みしめ、右足を前に出すことができた。
「よし、井上こっちに歩いて来い」
立ち上がりながら文が言った、何をするか知らないがとりあえず俺もゆっくりと歩く。
立ち上がった文は歩きながら右手を上げた、なるほど、そういうことか。
俺も右手をあげて、徐々に距離を縮める。
そして、擦れ違う瞬間―――。
お互いの手のひらがぶつかり合う、そしてそのまま離さず手を握り締め、振り返る。
何一つ迷いのない、吹っ切れたような笑顔がそこにはあった。
「仲直りだ、井上」
「仲直りだな、文」
こうして俺達の第一回全ユニット対抗トーナメント戦は優勝という形で幕を閉じた
燐火:はい、おはこんばんにちわー。
ガンコン十一話目は、決勝戦後半部分です。
美帆:優勝おめでとぉおおおおお!!!
燐火:おめでとーですよ。
美帆:えっ? ちょっとテンション低くないですか?もっと盛り上がりましょうよ!
次もまた壮絶な戦いが繰り広げられるんでしょ!?
燐火:いえ?全然違いますよ?
美帆:え、違うの?
燐火:寧ろ正反対。次回からはトーナメント後の話とCHAINの夏休みの話となります。
美帆:本当に正反対だ・・・。ということは次回は決勝戦後の話ですね?
燐火:はい。と、いうことで!
美帆:次回をお楽しみに!
燐火:今後ともどうぞよろしくお願いします!!