水色の花
「・・・うん」
と、佑二はどことなく不安そうな面持ちで席から立ち上がるあたしの顔を見上げた。
お手洗いがある方向に向かって歩いて行く途中に一枚の絵画が飾られているのをあたしは見つけた。それは花を描いた絵だった。どこか哀しいような感じのする淡い水色の花。何となく懐かしい感じがするなと思って見ていたら、あたしは唐突に思い出した。いつだったか兄が花の絵をあたしにプレゼントしてくれたことがあることを。
兄とは最近はほとんど話をしていない。おはようとか挨拶を交わすことくらいはあるけれど、会話らしい会話を交わした記憶が最近ほとんどない。どう接したらいいのかわからないのだ。兄は家族全員に対して心を閉ざしているようなところがあって、そんな兄のよそよそしい態度があたしたち家族を戸惑わせてしまう。下手に刺激したら兄を傷つけてしまいそうで怖い。
きっと兄は自分に自信が持てないのだ。三十歳を目前に控えて自立できていない自分が情けなくて許せなくてでもどうすることもできなくて苛立っている。家族に疎まれていると感じて心を開くことができなくなっている。そんな兄に対してあたしは伝えたい。少なくともあたしは兄のことを嫌っていないことを。兄のそのままを受け入れたいと思っていることを。でも、それをどう伝えたら良いのかわからない。