第9話
『生徒8人殺害!謎の集団の目的とは!?』
という見出しで夜のニュースでトップを飾っていた。
テレビのリポーターは島の外にある警察署の前で事件の状況を説明している。
しかしテレビ局どころか警察も動機やどうやって解決したかなどの詳しい状況はわかっていない。
犯人は全員無月たちが殺したから犯人たちの動機はわからないだろうし、
生徒たちの無月たちが戦っている時の記憶は消されているので何が起こったか覚えてるはずがない。
「あれからニュースはこればっかだな」
学園はこの事件の整理をつけたり、生徒の精神の休養のためしばらく臨時休暇となった。
「大変な事になったよね。警察は何もわかってないみたいだし」
祢音がキッチンから夕食を運び、椅子に座った。
「ああ、全員操られてたわけだから目的なんてあるわけないからな」
そう言って無月は魚をきれいに身と骨を切り離していく。
「組織の方にはメデスが報告しに行ってくれたから、
そっちで色々と分析はしてくれるみたい」
現在メデスは本部で詳しい状況の説明をするため、本部に行っている。
「そうか。アレだけあって何もできないのは悔しいもんだな」
「そうだね」
事件の解決後、全校が体育館に集まり、校長自ら事件の内容を説明していた。
内容といっても何が戦闘中の記憶はメデスによって消されているため起こったかわからず、
事件の序盤と終盤しか話せなかった。
生徒の中には殺された生徒の友人であろう生徒が何人か泣いており周りの生徒に慰められていた。
クラスメートの中にもそのような生徒が何人かいた。
「一刻も早く親父のいる場所を見つけないと犠牲者が増える一方だ」
無月が言った瞬間、窓に何かが当たる音がした。
「ん?」
祢音は立ち上がり、窓を開け、辺りを見回す。
「紙飛行機?」
窓の下の地面に紙飛行機が落ちていた。
そして窓から身を乗り出し、祢音は紙飛行機を拾い上げる。
「何か書いてあるみたい…………お兄ちゃん!」
祢音は読み終えると慌てて無月の所に紙飛行機を広げた紙を持ってくる。
「どうした?…『水月湖で待つ』だって!?親父からか?」
そうして無月は紙の表裏を眺めるが誰からの手紙かわかるような事は書いていない。
「行ってみるしかないな。行くぞ」
「うん」
2人は夕食をそのままに立ち上がると黒いコートを羽織り水月湖へ向かった。
「ここだな」
2人が水月湖に辿り着くとそこには水月湖の上に浮いている少女がいた。
少女は影があるせいか少し灰色のかかった白い髪でショートカットにしている。
そして紅に染まった瞳をしていた。
そして少女は水月湖の中心の水面に映る満月の上で美しく舞っていた。
「お前がこの手紙を寄越したのか?」
無月がそう言って紙を広げて見せると少女は一度ちらりと見ると舞うのを止めこちらへ向く。
「そう」
そして少女はゆっくり頷く。
「何のようだ?」
無月が問うと少女は静かに微笑み言った。
「お父様の障害となるあなたたちには死んでもらおうと思って」
すると少女は魔法で研ぎ澄まされた剣を取り出す。
その剣は月の光に反射し美しく光り輝いている。
「『お父様』…だと?」
それを聞いた無月はそう言って眉を狭めるが
「まぁいいお前が誰であろうと邪魔をするならお前も殺すだけだ」
そう言いながら無月も刀を取り出すと結界を張った。
「祢音は下がってろ。オレ1人で十分だ。いくぜっ!」
祢音が無月から離れると無月は真っ直ぐ少女へと飛び近づくと刀を横に振った。
「単純な攻撃」
少女はそう言ってヒョイと跳ねるように上に飛んだ。
「まだだっ」
無月は振った勢いをそのままに上に斬り上げる。
「くっ」
迫り来る刃を少女は剣で防ぐと衝撃で少女と少しばかり距離ができる。
無月と少女の距離が広がると2人は何度もぶつかり合うようにして刃を交える。
「「はあああ!!」」
何度も2人の刃がぶつかり、その度小さな火花が散る。
キィィン
大きな金属音がして2人は互いに離れ、無月は少女に向かって掌をかざす。
「くらえ!『ファイアボール』」
すると無月の掌からバレーボール大の火球が放たれた。
しかしバレーボール大とはいえ魔力が凝縮されている。
少女が剣で防御すると火球は爆発し、少女は煙に包まれる。
「!?」
少女は一瞬驚いたような表情を見せるがすぐに冷静になり表情を戻すと目を瞑った。
「右…」
少女は呟くように言うと剣を右側に突き出した。
「く――」
剣の突き出した先には今にも斬りかかろうとする無月の咽があった。
「こんな小細工じゃ無理か」
無月はそのまま咽が刺される前に退くと、刀に炎を纏わせた。
「いくぞっ!」
無月は少女に真っ向から向かい、少女は迎え撃とうと剣を構える。
「隙アリ…だ」
無月は一瞬にして少女背後に回り込むと炎を纏った刀を十字に振る。
『クロスファイア』
すると炎が巨大な十字の形となり後ろから少女を襲う。
「きゃああああ!!」
少女は十字の炎をまともに受け悲痛な叫びを上げる。
少女は湖へと真っ逆さまに落ちていくが水面にぶつかる直前に体勢を立て直すと水面に立つ。
すると水面に波紋がいくつも現れ水面に映った月が揺れる。
「どうしてお父様を理解してあげないの?」
表情には表れていないが、明らかに怒りのこもった眼で無月を見る。
「さっきも聞いたが『お父様』って誰の事だ?」
「許さない!!」
少女は無月の質問に答えず叫ぶと少女から膨大な魔力が放たれる。
「な――!?」
無月が「何!?」と言い終える前に少女は一瞬にして無月の目の前まで迫ると無月の胸に斬りかかる。
「ぐあ…」
無月の胸に真一文字の傷ができ、それが足をつたい滴り落ちると湖を朱く染める。
「お兄ちゃん!」
今まで湖の外で見ていた祢音が無月の傍に寄り、ふらつく無月を支える。
「手伝うよ」
「ああ、頼む」
そして祢音は銃を取り出し戦闘態勢に入る。
「2人になろうとも同じです」
少女は再び剣を構える。
「くるぞ」
「うん」
少女は一瞬の内に間合いを詰めると突きを放つ。
しかしその前に2人は少女を挟むように移動していた。
「いくぞ、祢音!」
「OK」
2人が両手を少女に向けてかざす。
「「くらえっ!『炎の竜巻』!!」」
すると少女の下から竜巻が発生し、それに無月の炎と湖の水が合わさって少女を巻き込む。
炎は強い魔力でできた炎のため、水で消える事はない。
「……………」
竜巻の中から少女の呪文を唱える声が頭に聞こえてくる。
「……来なさい、『妖狐』」
そして呪文を唱え終わり少女がその名を呼ぶと竜巻は内側から弾けるように消え去り、
そこから少女と背後に少女より何倍も大きな妖狐が現れた。
「あれは…」
「…聖霊なの?」
―コオオオオオオオオ―
妖狐は甲高く叫ぶような鳴き声を出す。
「ならばこちらも」
「やるしかないね」
続いて2人が同時に呪文を唱え始める。
「「調律者の名の下に命ずる!いでよ!」」
「フェニックス!!」
「ハーピィ!!」
そして2人の背後にそれぞれフェニックスとハーピィが現れた。
―こやつただものではないな―
―そうだとしても殺っちゃえば問題なしよ―
「いけっ『ヘルフレイム』!」
無月の命を受けフェニックスは大きく息を吸い込むと全てを焼き尽くす地獄の炎が放たれた。
「妖狐…」
『邪炎』
少女は向かってくる炎にたじろぎもせず妖狐に攻撃の命を下す。
すると妖狐は口から紫に染まった邪悪な炎をはき出した。
2匹の激しい炎がぶつかり合い普段の戦いとは比べものにならないほどの熱気が発生する。
「ちぃっ、なんて魔力だ」
―後ろガラ空きよ―
少女の妖狐と無月のフェニックスが戦っている間にハーピィは少女の背後へと近づく。
「させない」
少女は後ろに振り返ると剣を構えハーピィと数M離れているにも関わらず剣を振る。
―バカじゃないの?そんなに離れてたら当たるわけないし―
躊躇いもなく少女剣を振ると空振りするはずの剣はハーピィの躰を斬り裂いた。
―!?―
少女の持つ剣の刃の長さはそのままだったがその先に魔力で創られた刃があった。
「ハーピィ!一旦その子から離れて!」
―わかってるわよ―
そう言ってハーピィは少女から離れようと後ろに飛ぶが
「逃がさない」
少女は一瞬にして回り込むと再び剣で幾度も斬り刻む。
風の聖霊であるハーピィが避ける間も与えないほど素速く。
―きゃああああああああああ!!―
次第にハーピィの姿が薄れていき、最後には消えてしまった。
「は、ハーピィ…そんな…きゃっ」
祢音は少女の少女とは思えないほどの力で蹴られ林の中へと吹き飛ばされる。
「あぅ」
そして林の中にある木の一本に背中を強く打つ。その時に何かが折れるような音がした。
「これで終わり」
さらに少女は木を背もたれに倒れかかっている祢音に迫り剣を突き出す。
「くっ…」
祢音は瞬時に立ち上がり避けようと試みるが体に力が入らず、
辛うじて心臓を外したものの脇腹に刺さった。
「あなたはもう終わり。妖狐の方はどうなったかしら」
少女は力なく崩れ去る祢音を背に妖狐の方へと飛んでいった。
一方、無月とフェニックスは―――
「オレの聖霊と対等にやり合うとは…」
―グオオオオオオオオオオ―
―コオオオオオオオオオオ―
2匹はさらに魔力を上げた炎を放ちあう。
「や、やべ」
ドゴオオオオン
激しい魔力の衝突により大規模な爆発が起こり、それは水面に大きな波紋を発生させた。
「飛べフェニックス!!」
無月に言われ、フェニックスは大きく羽ばたき上空へと飛び上がる。
―コオオオオオオオオオオ―
妖狐は飛び上がり上空のフェニックスの炎の翼を噛んだ。
―グオオオオオオオオオオ―
フェニックスは振り落とそうと翼を激しく羽ばたかせるがそれに耐える妖狐は首を大きく振り、
フェニックスを湖へと叩き落とすと続いてフェニックスの首筋を噛む。
―なんという力―
妖狐はフェニックスは消えてしまった。
「ばかな…オレの―――ッ」
呆然としていた無月は隙をつかれ妖狐の爪による攻撃をもろに受け地面に叩きつけられる。
「もういいわ、この程度なら私1人で十分」
その少女の声を聞くと妖狐は消え去り少女の中に戻った。
無月の胸には少女から一筋、妖狐から三筋、合計4つの切り傷を負った。
妖狐を戻した少女は地面に多量の血の水溜まりを作り、
剣を杖代わりに立ってふらつく無月に近づく。
「くっ」
無月は最後の力を振り絞り少女に剣を繰り出すが難なくかわされると腹に蹴りをくらう。
「ぐあっ…ここで…おわるのか…」
少女は剣を一度振り上げると首筋目掛けて振り下ろす。
「!?どういうことです。お父様」
しかし少女の振り下ろした剣は無月の首に触れる寸前で止まる。
「しかし、この人たちは…わかりました」
どうやら少女は『お父様』とテレパシーで話しているようだ。
「命拾いしたわね」
そう言い終わった少女は剣を消すと転移魔法を使ってここから去っていった。
それと同時に結界も解除された。
「助かった…のか…?」
無月はそう言うとバタリと倒れ、眠るように目を閉じた。