外伝 祢音・奏誕生秘話
祢音と奏誕生の経緯が細かく知りたいという読者がいたので外伝として公開します。
これで全てわかるかはわかりませんがどうぞ読んでみて下さい
「そう言えば私たちってどうやって生まれたんだろうね?」
組織本拠地で無月、祢音、奏の三人で過ごしていたある日、突然祢音がそう言ってきた。
「どうやってってお前…」
「いや、まぁ大まかにはわかってるんだけどね。
色々とさ…知りたいんだよ。
自分の事だしね。奏ちゃんもそう思わない?」
「いえ、私は特に…」
「そう?私は知りたいな」
「お前が知りたいって言うんなら聞いてみるか。隊長なら何か知ってるかもな」
てなわけで長老の間へ。
タイミングのいいことに
丁度隊長は何かをしているわけでもなく時間を割いてくれそうだった。
「……なるほど、わかりました。
あなたが知りたいというのでしたらお教えしましょう。
あなたの生まれた経緯を…」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
時は13年前。無月さん、あなたがが生まれて3年経った頃のことでした。
場所はオルタナティブ本拠地のある研究施設。
何を研究しているか…それは戦闘用の人工生命体についてです。
通称『奏プロジェクト』。
平和であるこの世界では魔法、魔術を使える者や
魔法を使えずとも魔法を使える者と
互角に渡り合う事のできる戦闘のプロといえる者もそんなにいませんでした。
さらに誰かが死ねば悲しむ者も多い。
ですが人工的に造られた戦闘兵ならば悲しむ者などいない。
それに成功すれば安定した戦力にもなりそうでした。
そのためのプロジェクト。『奏』という名はある世界の高度な戦闘兵の名称です。
あなたたちの父親、如月日向は総帥であり、
さらにそのプロジェクトの責任者としての役割を持っていました。
「ちっ、また『型崩れ』か」
大きな試験管に入った人の姿をした肉体は外に出すと数秒もしない内に体が崩れ肉塊となる。
「何がいけないんでしょうね」
「さぁな。これで完璧のはずなんだが」
1人の研究員からの問いに当時責任者であった日向は答える。
肉体のみならば容易に造れるようになった。
人の体の元となる肉の素体に人のDNAを組み込む。
設計図ともいえるDNAがないと体が人型にならないからだ。
とはいっても組み込むDNAはそれほど個性を作らないので
DNAの持ち主と全く同じ姿になることは少ない。
普通はせいぜい親子や兄弟やその程度だ。
人の体はできあがっているそれぞれの臓器も機能し、人間と何も変わらない。
だがいざ外に出せばそれぞれの臓器が停止する。
1号と名付けるに至らないモノばかりだった。
それが何日も続いたある日
「困っているようだな」
「誰だ!?」
日向が振り返った先には白衣を着ず、明らかに部外者である男がそこにいた。
「手を貸してやろうか?」
「ふん、誰かは知らんがそんなもの必要ない」
そして日向は再びコンピュータのディスプレイを見るが
「魂がないんだよ。生命力の源となる」
「!?」
その言葉に思わず振り返る。
「魂だと?そんなものが――」
「必要なんだよ。容器の中では意図的に動かされているだけ。
外に出て自ら動かす事はできない。魂がないからな。
魂を組み込むその方法、それはこいつを使って他人の魂を奪い、
これと容器を繋いで魂を与える。
魂の方には記憶は残っていない。
性格や起源は引き継がれる場合もあるがそうそう反抗することはない素直に従うだろう。
奪われた者はお前たちの言う型崩れになるけどな。
欲しいか?一つオレの要求を呑めばやろう」
男はポケットから魔力の強い水晶玉を出す。
「バカ野郎!そんな人権を無視したことができるか!」
1人の研究員が反対の声を上げるが
「黙れ…オレはお前に話しているのではない。
というより人工で生命を造っている時点でお前にそれを言う権利はないだろ」
男に睨まれ、研究員は竦み上がる。
今のが効いたのか周りに研究員が何か言ってくることはない。
「……いいだろう。お前の要求は呑んでやろう。それを渡せ」
「話のわかるヤツで助かったよ。
そうそう、相性があるからな。素体、DNA、魂、それぞれ個性がある。
それが見事一致しなけらばまた型崩れとなる」
「そうか」
「じゃあオレの要求を聞いてもらおうか。おい、お前らここから出て行け」
男の命じるまま、研究員たちは部屋から出て行き、部屋には日向と男の二人だけとなった。
「では要求を聞こうか」
「オレの要求は人工生命体を造ることだ。で、そいつにこれを組み込む」
男はそれぞれ3つの水晶玉を取り出す。
「なんだそれは?」
「これは人間、天使、悪魔の魂だ。オレがわざわざ盗りに行ったものだ」
「天使に悪魔だと!?お前は…もしや『ロキ』か?」
「お前にはまだ話す必要のないことだ。気にするな。
今からオレと2人でこの3つの魂を組み込んだ人工生命体を造ってもらう。
お前、ここの機械はいじれるか?」
「ああ、一通り扱えるが3つの魂を1つの躰へ入れるのか?
それはそいつ自身の容量を超えてしまうのではないか?」
「安心しろ。それについては問題ない。
この主体となる人間の魂はオレが創り出した魂で鍛え上げられた魂だ。3人分なら十分だ。
問題は躰だ。普通の方法では無理だ。だからオレの指示に従って躰を造ってもらう。
お前、結婚しているな?DNAはお前の子のを使え、その方が都合がいい。
こいつを渡すのはそれが終わってからだ」
「わかった」
「ふう・・・・これでいいのか?」
無事、男の要求する人工生命体はできた。
だが体は小さく3歳程度の体だ。
言葉も拙く、あ〜などの言葉とは呼べない、声しかでないほど幼い。
とても今すぐ戦闘ができる体ではない。
「ああ。うまくやってくれた。
人間の年齢では3歳の頃のものだが魂が3つもあるんだ、ゆっくりと育てた方がいいだろ。
ではこいつはお前が育てろ。組織には内密にな。
あの研究員たちはオレは記憶を取り除いておいてやる。
お前の女だけには教えてやってもいいだろう、共に育てるんだからな。子は止めておけ」
「どういうことだ?なぜお前が育てない」
「オレは忙しいんだ。いずれ返してもらいに来る。その時までだ。ほら、望みの物だ」
男は試験管の前でその赤ん坊を見る日向へ投げ寄越す。
「この事は決して外へ漏らすな。お前の女にも念を押しておけ。じゃあな」
そして男は研究員たちの記憶を消すため、部屋を出て行った。
日向はその後男、わかっているでしょうがロキです。
彼の言う通りあなたを育てたわけです。
その4年後、ようやくこの事がオーディンによって発見され、
さらに他人の魂を奪って使っていたというのもバレてしまい、
非人道的ということで『奏プロジェクト』の廃止と
今まで造られてきた人工生命体は全て魂もろとも廃棄が決まりました。
ですがロキはこれも予想していたことでしょう。
何か手をうっているのか動きを示すことはありませんでした。
その後話し合いが行われ、祢音さんも殺す案も出てきましたがロキも動きませんでしたし、
場合によっては天使と悪魔の力をこちら側へつけられるかもしれないというわけで
祢音さんに処置が下ることはなく、様子見という形で収まりました。
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「これが発覚前の当時、なぜか欠番となっていた『奏001号』。
つまり祢音さん、あなたの生まれた経緯です」
「そう…ですか」
「あいつは『魂』が必要なんて言ってなかった気がするぞ」
「それは当然でしょう。その様なことそんなに口に出して言うべきではないから」
「私や奏ちゃんの魂…」
祢音からは次の言葉は出てこなかった。
そりゃそうだろう。自分の魂が元からあったのでなく奪われてきたものだから。
前の躰の記憶が一切なくてもそんな事言われたらな、ショック受けるだろう。
奏は気にしてないようだが。
「刺激が強かったようですね。話さない方がよかったかもしれませんね」
「いえ、大丈夫です。話してくれてありがとうございます。奏ちゃんの方は?」
「それは本人から話してもらった方が詳しいかもしれませんよ」
「…そうですね、私から話しましょう。一気に話しますので質問は後で。
私が生まれたのはお姉様がお父様と戦ったあの場所、そこの研究施設。
そこでは組織内と同じように研究が進められていました。
研究が禁止されたと同時に例の水晶玉は没収、
封印されましたがお父様は再びロキからもらったようでした。
私はそこの最高傑作として生み出された『奏841号』
製造段階では番号をとって『やよい』と呼ばれていた時もありました。
私はお父様の魔力を一部受け取り、
最後にはプロジェクトの最高傑作、代表する者として奏の名が与えられました。
お父様と一部の研究員たちは細々と行っていましたが
組織で人工生命体の製造が禁止され、さらには水晶玉が封印されたので
大掛かりなことはできず進展はありませんでした。
ですがロキと接触し、組織を抜けて自由になったことで
禁止前と同じ批准で研究を再開することができました。
そこでは組織内の研究では数歩進んだ、魔力を持つ戦闘兵を造っていました。
ですが失敗作ができあがるばかりでした。
お姉様たちも見てきたでしょう?あのようになってしまうのです。
魔力を使わない武術のみの戦闘兵であれば造れたかもしれませんが相手はお姉様方。
そのような手抜きは一切できませんでした。
組織を抜け、そしてお姉様方が攻めてくるその間ですがあまりにも短かったです。
実際あの施設で造ったのは564〜891号まで。
200体以上造ったと言うと多いように聞こえますが
その半数は素体、DNA、魂、魔力、どれかが適合せず化物になったり、
体型を保てなかったりしたのです。
そこで結果満足いく成功体として言えるほどになったのは私と赤髪の男、
『奏 840号』である『フィル』でした。
まぁ私もフィルもお姉様たちを超えることはできなかったようですが」
一通り話し終え、奏は一息入れると
「質問は?」
と無月と祢音を見る。
無月は内心奏がここまで喋り続けたのに驚いていた。
祢音はと言うと
「じゃあどうしてお父さんの事をお父様って呼んだり私の事をお姉様って呼んだの?」
と質問をする。
「それは簡単ですし、お姉様が一番わかってると思います。
お姉様だってお父様の事、無月の事をお父さん、お兄ちゃんと呼んでいるでしょう?
それと同じです。
お父様は私が容器の中に入りながらも自我を持った頃から話しかけてくれました。
それがお父様自身がそうしたかったのか、
そういう感情を植え付けた方が私を束縛するのに都合がいいからかはわかりません。
お父様はフィルより私を気に入ってくれているようで
毎日色々な事を話してくれました。お父様の事、家族の事、私自身の事や世の中の事。
初めの頃は私は容器の中にいたので聞く事しかできませんでした。
その後容器から出た後も同じように接してくれ、私にとっては家族のようなものでした。
だから私はお父様と呼ぶし、お姉様と呼ぶ。でも無月は無月」
「なんでだ…?」
無月は怒りをこらえるような顔で問う。
「呼ぶ理由がないからです。
お父様は私を生み出してくれて、お姉様は私より先に生まれた。
無月、あなたは理由が何もないです。
呼んで欲しかったら理由を見つけて、私が尊敬する人になってください」
「あーそうかい」
そうは言ったが無月には呼ばれるよう励むことはないだろう。
「さて、もういいですか?私はこれから用事があるのですが」
「あ、はい。ありがとうございます!」
無月たちは軽く礼をして、長老の間から去った。
いかがだったでしょうか?わかりましたかね?
わかっていただけたなら幸いです。
そして改めて読破お疲れ様でした。
最終的に73部分にわたる長編でしたがいがだったでしょうか?
楽しんでいただけたなら作者も幸せです。
追記:次回作として「終わりなき遊戯曲」もありますので
こちらもよろしくお願いします。