第50話
〜オーディンSIDE〜
「ひゃーはっはっは!!やっぱりお前はオレと戦う事になるんだな!!」
「『フェンリル』、だからといってお前が必ず勝つとは限らんぞ」
『サンダーボルト』
いくつか落ちてくる雷を背中に生えた翼を用いて縫うようにして
フェンリルはこちらへ向かってくる。
ヤツの手には槍が握られている。
キィン
一度降りかかる槍を弾き返すとさらに距離を詰め、つばぜり合いとなる。
「その槍、ただの槍ではないな?」
「そうだ。これは『ブリューナク』。
親父の部下が異世界から集めてきた武器の一つだ」
ブリューナク…『ケルト神話』の『トゥアハ・デ・ダナーン』のエリン四秘宝の一つ。
そんな物を持ってくるとはな。人の事はいえないが…。
「ふんっ!」
つばぜり合いの末、押し勝ったが
それとフェンリルは同時に後ろへ跳んだため隙はできなかった。
『プロミネンスドラゴン&フラッシュフラッドドラゴン』
それぞれドラゴンを模った炎と水を創り出す。
「ゆけっ!」
命を受けた2匹のドラゴンがフェンリル目掛けて動き出す。
元は炎と水。生物ではないが動きは生物そのものと言ってもいいほどスムーズ。
上へ跳んだがドラゴンも一度停止し、上を向くと再び動き出す。
「ちっ」
まず炎のドラゴンがフェンリルを飲み込む。
少しは飲み込まれる側の気持ちを知ったじゃろ。
だがドラゴンの中央部が破裂しそこからフェンリルが現れる。
続いて水のドラゴンがフェンリルを襲うが
「はぁっ!」
掌から魔力による砲撃が放たれ、水のドラゴンも消滅する。
「やはり魔法が扱えたか…」
「まぁな。元が獣だったから炎とか水とかは使えねぇけどよ…」
その瞬間フェンリルが目の前から消え、後の方から気配が感じられる。
「威力は一級品だぜ!!」
「ぬっ!?」
砲撃が再び放たれこちらへ向かってくる。
すぐにシールドを張るがなかなか手強い。ぶつかり合いが続く。
自然の助力を得ず魔力のみでここまでとはな。
いや…だからか?
「背中ガラ空きぃ!!」
一度目の前の気配が消え、再び背後に気配を感じる。
魔力はない。どうやらブリューナクを投げてきたようじゃ。
目の前には今だ魔力の砲撃が襲いかかっている。
だがブリューナクが貫いたのはローブだけだった。
ローブと帽子を残してフェンリルの目の前に立った。
「なっ!?」
「まだまだ老い耄れた覚えはないぞ?」
『グングニル 封印開放』
封印を解いたグングニルは何者もかわすことはできはしない。
さすがに隙を突かれたのか反応が遅く右翼を貫き、そのままもっていく。
「ぐあああっ!」
これでフェンリルの動きは少しは鈍くなったはずじゃ。
そして右翼と共に壁に刺さったグングニルはわしの手元に戻ってきた。
「あ〜もう許さねぇ。
次に戦れんのいつになるかわかんねぇから手加減して楽しんでたのによぉ。
こりゃねぇだろ」
傷跡から血を流したままこちらを睨んでくる。
既に痛みは感じてないか…。
「殺す」
そう宣言するとフェンリルはバカ正直に突っ込んでくる。
「ふんっ!」
フェンリルの脳天目掛けてグングニルを突き出すが
「へっ遅いな!」
と、難なく右へ回避される。
片方の翼をなくしても動きはほとんど変わっていない。
そうなるとこちらは隙ができる。
「隙だらけ!」
フェンリルはわしの顔面へ手を翳す。
すぐに空いた手でシールドを張ったが零距離からの砲撃に膨大な魔力。
シールドは砕かれた。
「吹き飛べぇっ!!」
ドォォォン
城の床が吹き飛びさらに煙が舞い上がる。
「…ぬぅ……なかなかやりおるわい」
「ちっ…魔力のオーラか?
加工していない魔力だけで防御するってのか?
流石オレと戦ってきたヤツだと言ってやる」
今の所致命傷はないようだが戦闘が長引けば長引くほど命に拘わる。
「ほらほらぁっ!何ボーッとしてんだぁ!?」
「くっ」
キィン カン カキィン
何度も互いの武器が衝突し合う。
「どうした!?老い耄れ!ヘバってんのか!?動きが鈍くなってんぞ!?」
「やかましいヤツじゃ。『ΜΣΙΘΨ…離れろ』」
「うお!?」
弾けと命じると命令通りブリューナクがフェンリルの手から離れ、
弾かれたように遠くへ吹っ飛ぶ。
「何!?何をした!?」
やはりフェンリルは驚いているようだ。
それはそうだ。いきなり自分の手から武器は離れたのだからな。
「そのブリューナクに命じただけだ。『離れろ』とな」
「また変な力付けて来やがったな。それもルーンの力の一つか?」
「そう『血印の命』。血で対象にルーンを書き命じると対象に命じた通りのことが起こる」
この呪術はまだフェンリルには見せていない。
つい最近見いだした呪術だからな。
「バカか?種明かしするなんてよ。近づかなけりゃ怖くない」
「それでも勝てる自信があるからだ」
そしてフェンリルへ迫ると予想通り後ろへ退いた。
「はぁっ!」
そこへグングニルを投げる。グングニルの特殊能力により避けられはしない。
「かわせなけりゃ防げばいいんだよ!」
フェンリルは顔面を刺し貫く前にグングニルの柄を掴む。直線的すぎたか。
だが傑物とは二手三手先を読むものだ。
「『ΑΗΣΦΩ…貫け』」
フェンリルに掴まれ一度止まったグングニルが再び動き出す。
そうわしはグングニルにも命を受けさせていた。
「く…くそっ!」
フェンリルは手を離し、グングニルは貫いた、背後の柱を。
フェンリルは躰をずらしグングニルを背後の柱に向かって投げていた。
投げた…回避はできないが投げたというのなら回避ということにはならない…か?
まだ次の手がある。
「隙ができたぞ…フェンリル」
「くっ」
グングニルを結果的に回避したことで一安心したようでフェンリルは隙だらけだった。
その隙にフェンリルの躰にルーンを書き距離をとる。
「これで終わりだな」
あとは命じるだけでいい。
「『ΚΝΡΦΛΖ…砕けろ』」
「な…やめろ!!命令を取り消せ!!」
「するわけがなかろう。貴様はここで終わりだ」
「やめ――」
その瞬間フェンリルは砕け散り、ただの肉塊となった。
「さて、早くロキを止めねば…」